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世界で生きていける子ども

2008年05月09日 | スクラップ
2008年05月06日 (火) NHKオンライン 視点・論点より  
サザビーズ北米本社副会長 蓑 豊



今、子どもの教育をめぐる問題が、様々な議論を呼んでいます。これからより一層国際化が進み、日本の人材が、国際社会で活動していく上で、世界で通用する人材を育むことは、大変重要で、大きなテーマであると言えるでしょう。



私は、アメリカとカナダで26年間を過ごし、長く海外と日本との間に立って仕事をしてきましたが、その中で、国際社会における、日本人独特のコミュニケーションスタイルの難しさを、目のあたりにする機会が多くあります。

日本には「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があり、日本社会では、この言葉のとおり、たとえ能力があっても目立たずに居ることが美徳とされてきた傾向があります。

しかし、目立たないようにしていることは、国際社会では美徳とは受け止められない上、「実力があり、高い能力を持っている」ということを、きちんと表現し、主張しなければ認めてもらえず、理解は得られないのです。

それができる子どもを育む環境が今、不可欠です。周りの目を気にせず、子ども1人1人が自分らしく伸び伸びと過ごし、自分のビジョン、自分の強みを見つけて成長できる社会環境、教育環境が必要です。ディベートなど、小さい頃から自分の意見をまとめて発言・発表する機会を多く設けることも一案でしょう。子どもの考える力を育て、良い部分を引き出し、能力を伸ばすことが重要なのです。


世界で生きていける子どもを育むために必要なことは、「感性を磨くこと」と「専門分野を極めること」だと私は考えています。

感性は、本物を見て、感動したり感じたりすることによって培われます。心に響く経験は、人生のあらゆる側面において、発想の源になったり、動力になったり、支えになったり、意識や勇気を与えてくれたりと、生きていく上での可能性を大きく広げ、生きる力を与えてくれるのです。

どんな職業につくにあたっても、感性は必要であり、豊かな感性があることによって、創造力が生まれてくるのです。

本物の芸術に触れる機会を提供し、子どもの感性を引き出し、その成長に大きく寄与する場所の一つが、美術館です。美術は、観る者の感覚に直接メッセージを送るものであり、また、作品を観ることをとおして、考えるきっかけを与えてくれるものでもあります。子どもの時に美術館を訪れた人は、将来も自分の子どもとともに美術館を訪れると、オランダの国立美術館の館長が話していました。

子どもに感性を育んでほしいという想いから、金沢21世紀美術館では、「子どもたちとともに、成長する美術館」を重要なミッションとして、子どもや若者を対象とした企画に積極的に取り組んできました。開館初年度の2004年度に実施した、金沢市内の全小中学生を美術館に無料招待する企画「ミュージアム・クルーズ」では、訪れた子ども約4万人のうち、7000人以上もの子どもが、両親を連れて半年以内に美術館を再訪するという成果をもたらし、美術館で本物に接した体験が子どもに与えた影響が実証されました。現在も小学4年生を対象に、実施を継続しています。


また、2007年度からの新規事業〈金沢若者夢チャレンジ・アートプログラム〉は、スウェーデンのストックホルム近代美術館で大変成功している教育プログラム「ゾーン・モデルナ」をモデルとし、美術館が十代後半以降の若者に芸術活動への参画の機会を提供することにより、若者の人間形成に貢献することを目的としています。

2007年度には、美術館のまわりいっぱいに朝顔を植え、朝顔という身近なモチーフを通じて、若者をはじめ、子どもから大人までのあらゆる年代の人たちが、芸術に接する場が創出されました。

アメリカはインディアナ州のコロンバスでは、ディーゼルエンジンを作るカミンズ社の社長が、自ら街の小中高校や図書館、郵便局などの公共建築に投資し、数々の有名建築家に設計を依頼しました。優れた建築が街にあふれるようになった結果、その街で育った子どもたちから、名門大学への進学者など多くの優秀な人材が輩出され、さらには、有能な人材が街に、同社に集まるようになりました。コロンバスは全米でデザインに優れた都市ベスト6に選ばれ、カミンズ社も全米を代表する企業に成長しました。

この事実は、芸術が次世代に与えてくれる創造性を継承することで、豊かな人材が育まれ、街の活性化にも結びついたことを証明しています。


「感性」に加え、世界で生きていく子どもに必要なことは、「専門分野を持つ」ということです。私は中国陶器の研究を専門としていますが、大学卒業後、古美術商に住み込みで三年半修行し、中国陶器を見る眼を養いました。

その後海外に渡り、最初は言葉のハンディもありましたけれども、「中国陶器」という専門を深めていたことで、海外でも認められました。専門分野を持っているということは、それ自体が外国でも認められる確固としたものですし、同時に、自信にもなるのです。そして自信があれば、専門分野について自分を表現し、主張することができるのです。

日本では昨今、英語教育開始の低年齢化が著しいですが、英語を詰め込んだところで、子どもが国際人になるわけではありません。英語は、釘を打つときの金槌のようなもので、あくまでもツールであり、それを使いこなすために必要なのは、その人間の「中身」、つまり、専門分野なのです。

そして、子どもの知性を養うにあたり、親は、子どもに勉強を強制するよりも、まず自らが見本を見せることが大切です。新聞でも本でも、親が何かを読んでいる姿を子どもたちに見せること、それから命の尊さを教えることです。

あるロシアの学者が、「4,5歳の子どもたちが野原で花を摘むのは、子どもたちにとっては自然な行為だけれども、そのときに、命の尊さを教えてやめさせるのが大人の務めだ」と話していました。子どもを放任するのではなく、時に応じて道を示すことが必要なのです。

中国では昔から「運」という字は、「車で運ぶ」と書いています。車で、自ら運んでこなければ、待っているだけでは、運は来ないのです。人が自らの夢をかなえる力は、自らの手の中にこそ、あるのです。国際社会で活躍するにあたって、自ら運を運ぶことのできる、主体性のある人材、そして、そのために一生懸命に努力する強さを持った人材が、これから育っていってほしいと思います。

私は、美術館で芸術を楽しみ、感性を培われた子どもたちが、考える力を養い、現代社会の様々な障害をも乗り越える力を身につけて、伝統と溶け合った新しい文化と産業を作ってくれることを期待しています。

これからは芸術・文化が経済社会を支え、活気付けていくという発想に切り替え、未来の社会に開花する子どもたちや若い人材に投資していくことが重要なのです。




投稿者:管理人 | 投稿時間:23:00
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