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働けど:’08蟹工船/4 正社員も使い捨て

2009年01月31日 | スクラップ

 

深夜のコンビニエンスストア。24時間営業などで便利になる一方、働く人たちの負担は大きくなっている=長谷川直亮撮影
深夜のコンビニエンスストア。24時間営業などで便利になる一方、働く人たちの負担は大きくなっている=長谷川直亮撮影

 

■店長昇進、残業代なしで月300時間労働


 お前なんぞ、船長と言ってりゃ大きな顔してるが、糞場(くそば)の紙ぐれえのねうちもねえんだど=「蟹工船」から

 「私はただ普通に働きたかっただけです。正社員になって自分で将来をひとつひとつ積み上げ、築き上げたかっただけなのです」

 コンビニエンスストア「SHOP99」の元店長で、未払い残業代やうつ病になった慰謝料計約450万円を求めて提訴した清水文美(ふみよし)さん(28)=東京都八王子市=は7月16日、東京地裁八王子支部で開かれた初弁論でそう訴えた。いわゆる「名ばかり管理職」の一人だ。

 清水さんは高校卒業後にフリーターとして8年間過ごした後、06年9月にSHOP99を経営する九九プラス(本社・東京都小平市)に入社した。念願の正社員。わずか9カ月後の07年6月に店長に昇進したが、待っていたのは月300時間を超す長時間労働だった。

 清水さんの出勤記録によると、同年8月は▽7日23時間半▽8日23時間▽9日16時間45分▽10日22時間と、4日間の労働時間が85時間を超えた。棚卸し、レジ打ち、商品の発注や管理。正社員は店長1人のため、アルバイトの人繰りがつかなかったり、トラブルがあれば、休日や深夜も関係なく呼び出されて穴埋めに入った。それでも「店長は管理職」として残業代は支払われず、手取りは月21万円程度と、一般社員のころに比べ最大約8万円下がった。

 昨年7月に精神科でうつ病と診断された。疲れているはずなのに眠れない。「死んでしまうのかな」。それでも「もうフリーターには戻りたくない」という一心で働き続けた。医師の強い説得で休職したのは3カ月後。周りの店長も次々と辞めていた。

 清水さんは休職するまでの日々を振り返り、「野菜の皮むき器のように自分の命を削っているようだった。商品の低価格は店長の犠牲の上に成り立っていることに気付いた。裁判を通じて異常な長時間労働をなくし、普通に働くことを実現したい」と語る。

 同社は「裁判で係争中なのでコメントは差し控えたい」と話す。




  *

 神奈川県在住の岡田秀明さん(40)=仮名=は大学を卒業後、主に営業マンとして働いてきた。しかし、転職を重ねるうちに短期間で一方的に解雇されることが増えていった。「中途採用の営業は使い捨て。中小では人を育てる前に、経営が苦しいから切ればいいという考えだ」と嘆く。

 05年10月から約9カ月勤めた医療機器メーカーの東京支店では、数人で東北から北陸までの約50の病院を担当した。社員20人程度の会社は、創業者社長によるワンマン経営。手取りは28万円ほどだったが、就業規則を見たこともなかった。

 機器の故障などがあれば、営業マンが病院に向かい、部品の交換などを行った。社長の指示で移動はすべて車。青森県八戸市にも東京から約8時間かけて行った。1カ月のうち2~3週間は家に帰れず、車で病院を転々とした。「長時間の運転→病院→ホテル」の繰り返しだった。

 東北への支店開設を要望しても、社長は「そんなことをしたら会社がつぶれる」。支店に修理担当の配置を求めると、岡田さん自身が本社で修理技術を学ぶよう命令された。拒否すると解雇を通知された。個人加盟労組「東京管理職ユニオン」に支援されて東京都労働委員会の救済を受けた。約50万円の解決金で和解し、退職した。

 その後入社した会社でも1カ月や3カ月単位で結果を求められ、「売れないのは君のせいでしょ」などと一方的に解雇された。経営状況が悪いことを理由に社会保険に加入させてくれなかったり、雇用契約書を渡してくれないこともあった。

 職探しを始めて3カ月。年齢と転職歴の多さが災いしてか、何枚履歴書を送っても面接にたどりつけない。

 「若い人には、隣の芝生は青く見えることもあるけど安易な転職はしない方がいいと、言いたい」。過去への後悔と将来への不安が不惑の心をかき乱す。だが、人と話す時、笑顔だけは絶やさない。「なぜって? 営業マンですから」【小林多美子】=つづく





■労働審判手続きで紛争解決迅速に


 人件費抑制の動きが広がる中で、正社員に人手不足やサービス残業による長時間勤務など過剰な負担がかかっている。

 「人が壊れてゆく職場」(光文社新書)の著書がある笹山尚人弁護士は「労働基準法など労働関連法がきちんと守られていれば、労働者には▽1日8時間、週40時間を超える労働時間の制限▽時間外労働への残業代の支払い▽有給休暇の取得▽契約の一方的な不利益変更は認められないこと--などが保障されている。だが、多くの職場で守られていないのが実態だ。自分の置かれた労働環境がどの程度の違法状態かを知ることは大事」と話す。

 労組と雇用者の紛争を解決する各都道府県労働委員会の審査や裁判以外で、個別の労使紛争の解決手段として笹山弁護士が勧めるのが、06年4月に創設された労働審判手続きだ。

 地裁に申し立てると、裁判官である労働審判官1人と民間から選ばれた労働審判員2人による労働審判委員会が労使に調停を試みるか、審判で解決策を提示する。原則として3回以内の期日で審理するため、裁判よりも迅速だ。「少額のケースでも短期間での集中的な審理による解決が可能」という。07年の申し立ては全国で1494件に上る。



 

毎日新聞 2008年8月26日 東京朝刊

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