ぽかぽかと行きましょう

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いろ波・番外

2007年11月04日 | 色の世界

絹のきものの色は、草木染であろうと化学染料であろうと他の繊維では出ない輝きが有ります。

生地に地模様のある綸子や、ちりめんのしぼの具合で、同じ色でも色の違いが出てまいります。

布の色見本は、沢山の色を揃えても、印刷の色見本のように系統だてて整理できません。

千人の人が、千人の顔をもつように、色も千色微妙に違っています。

確かに似たもの、似た色に仕分けしても全部別の色です。(ただし、同じ釜の染料で同時に染めたものは一緒の色ですが。)

十人十色とは、よく言ったものです。人生いろいろ・・です。

今、手元に沢山の色の布があって、整理中です。

色無地のきものの染め色見本になる位の大きめの色布から、ピンセットの先でつまむほどの小さなものまで、大切にしています。香道での香木の一片のようにです。

ちょっと、珍しい色、渋めの色、得がたい色が見つかると小さくても、糸くずであっても、貴重な色見本です。

きものの色は、着る方に似合う色と、その方が好きな色が有りますが、色はその人の自己表現であり、感情や気持ちの現れですから、好きな色が優先します。

しかし、似合わないと本人が思っていても、第三者に薦められはじめて気づく似合う色で、好きになり新しい自分の発見もあります。

洋服のカラーコーデネイトと違い、和服の場合は複雑な模様や、友禅染の彩色をほどこしたきもの・帯などの総合力ですから、きわめて有機的で、理屈どおりですみません。

近年、洋服感覚での色の取り合わせと言う事も言われますが、和服での調和は着る方の個性でもありますので、ようは着こなし次第です。

色の楽しみ方は、他にもいろいろ有ります。

日本の伝統色、襲の色目(かさねのいろめ)、中国やヨーロッパの伝統色といった色名の中から、こだわりの色を見つける。

誕生色や、誕生花の色など、自分の記念日に因んだ色で決める。

きものを着る場を考えて、ふさわしい色を決める常識派。

思いをかなえる、勝負色といった積極派。

色無地のきものから、自分の色を決めて和服を楽しんでいただくことから、はじめてください。

和の習い事(日本舞踊、邦楽、茶道、華道など)を、されている方はその流派や、社中のお揃いのきものというのも あろうかと存じますが、皆さん同じ色で揃っても、着こなしで差が付きます。

普段から自分のきもので、着慣れるようにしておきますと、お揃いの色でもしゃんとしますね。


いろ波14・薔薇色(ばらいろ)

2007年09月15日 | 色の世界

薔薇色の人生、薔薇色の時代という。

幸せな人生、あやかりたいものだと調べてみたくなった。

一般的には、ローズ、ローズピンク、ローズレッドといわれる色が、薔薇色にあたる。

ヨーロッパの花、よもや、日本の伝統色ではないと思っていたが、ディックの「日本の伝統色」の第7版、#N-715「薔薇色(ばらいろ)で収まっていました。(お笑いなら、欧米か) というところ。

バラは、薔薇(そうび)として『源氏物語』にも、登場する花(読んでない、無責任)、そう言えば、近代の訳詩(上田敏の)にも、「花薔薇(はなそうび)」の言葉あった。しかし、色の名前としては、伝統色に入るほど古くはない。ヨーロッパ文化とともに流行ったからか。

明るい鮮やかな赤、「薔薇色の人生」象徴的でどんな人生なのか。

色名として、「ローズ・レッド」は、1300年代の文献にもみられるというから、花の色からよく知られ、親しまれていたのであろう。

一方、「オールド・ローズ」という色名は、オールド、古い、アンティック、として、くすんだ灰色がかったバラ色。

ヨーロッパの古きよき時代をしのばせる優雅な色合いが「オールド・ローズ」。

このほうが、「きもの」、色無地に染めてしっとりとした色で日本女性によく似合うと思う。何となれば、日本古来の「薄紅(うすべに)(うすくれない)」に近い色目だから。

「美しい国、日本」は、「薔薇色の日本」明るい幸福な国を目指していたが、このまま幻に終わるのか。とかく「バラ」の花は、虫がつきやすい。


いろ波13・茜色

2007年08月11日 | 色の世界

茜色(あかねいろ)

赤を指す茜色は、大昔から知られていた植物染料、アカネは赤い根ということで、アカネ草の根が茜染めに使われてきた。

アキアカネは、赤とんぼのこと。

秋空に飛ぶ赤とんぼ、日本の秋の風物詩。胴体の赤いトンボは、♂

「洞然(とうぜん)と大戦了(おわ)り赤蜻蛉」  瀧井孝作

焼け野原になった終戦の年の秋にも赤蜻蛉飛んでいたのであろう。

「赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり」   正岡子規

「肩に来て人懐かしや赤蜻蛉」    夏目漱石

赤蜻蛉を秋茜というくらいだから、日本の赤の原点は茜色か。

日本の基本色名は、茜からきた赤で、漢字の国の中国では、赤は紅(ホン)になる。

アカネの根の染汁に糸を染めて赤くするには、くり返し染める手間が大変だったらしい。茜よりももっと赤く染められる紅花(べにばな)からとられた植物染料の色が、紅の字で表され「くれない」と呼んだ。

韓紅、唐紅と「からくれない」。呉の国の渡来染料「呉藍」(くれない)である。この場合の藍は藍色でなく、染料のことである。

この紅に対し、茜は藍と並んで人類最古の染料といわれてきている。

茜は日本の山野にも自生している蔓草で、その根は黄赤色している。この東洋茜に対しヨーロッパには西洋茜がある。英語でマダー、フランス語でガランスといわれ品種改良により綺麗な紫みの赤を18世紀になって染められるようになったそうだ。

あかねさす紫野行き標野ゆき野守は見ずや君が袖振る」は、万葉集巻の1 額田王の歌はあまりにも有名で、いまさら引く事もないが、色づくさまや、「日」、「紫」にかかる枕詞である。


いろ波・12 茄子紺

2007年06月21日 | 色の世界

茄子紺(なすこん)

「親の意見と茄子の花は、千に一つもむだはない」。

茄子にはむだ花がなく、花が咲くと必ず実がなるように、親が子にする意見には決してむだがない。と言うことわざ。昨今はどうか?親はしっかりと子に意見が出来るか、子は素直に聴くか。

吉天の通る「哲学の道」の傍ら、畑の茄子も、もう色の良い実がなっている。茄子は成すに通じ、「一富士二鷹三茄子」と初夢に見る縁起物。

さて今回は、色の良い茄子のような「茄子紺」について。

江戸時代、染物屋が繁盛し忙しくてなかなか期日とおりに出来なくて、あさって、あさってと一日伸ばしになり、あてにならぬことの喩えに「紺屋(こんや・こうや)のあさって」と言われた。又お客の染物が忙しくて自分の物を染めるのに手が回らなくて「紺屋の白袴」とも言う。

濃い藍染は、紺であり赤みの多い紺を「茄子紺」。

緑ぎみの紺色は「鉄紺」。青みの多い紺を「紺青(こんじょう)」と称している。

もともと濃い藍染は、染色したては、表面にかなり強い赤みが浮いて見えて、茄子紺に近い色に見えるが、年月を経て赤みが失せてしまう。この天然藍に含んでいる赤の色素はインヂゴ・レッドといって不安定な色素。

茄子紺を染めるには、藍の他に特に赤染めの染料を併用する。

ちなみに吉岡幸雄氏の茄子紺は、紫根(椿灰)×日本茜(椿灰)と、記されている。

茄子はインド原産の野菜で、英語でもエッグプラント(eggplant)と言う色名が1915年に出来たそうである。茄子色と言う事で植物の色から連想するのが、洋の東西を問わず表現の早道らしい。


いろ波・11 「若葉色」

2007年05月08日 | 色の世界

まったくの、若葉の季節。 

「若葉色」は、透明感のある薄緑である。

一枚一枚の木の葉を、眺めても、濃きあり薄きありでこれが若葉色と特定できない。

しかし、山を遠くから眺めると山の姿の中に、こんもり、こんもりと芽吹いた木々のかたまりが、薄緑に輝いているさまが、私は若葉色と感じる。

常緑樹のなかに、落葉樹が冬を越して芽吹いた新生の若緑の遠望が、かたまりとなって若葉色をなしている。

「あらたふと青葉若葉の日の光」   芭蕉

「奥の細道」の日光参詣のときの有名な句。若葉といえばこの句が引かれる。

自然の恵みを感じる、尊いと思える色。生命の新生、若葉色。

梨園とわが湖子庵の小庭にも、日増しに緑濃くなり、若葉色とは言えなくなった。今朝 鶯もやってきて、ホケキョと短くしか唄えない。ホーホケキョと啼けるようになったら、又おいで。

あっそっか。君はまだ若葉マークの鶯だ。


いろ波・10 若苗色

2007年04月24日 | 色の世界

若苗色(わかなえいろ)

日本の色は、季節と共に移り変ってゆく。

自然と人、農耕、暦、天文。 文学、季語。心情、心象。さまざまな関わりの中に色がある。いや、色の中に全てがあり、全ては空という。

野菜や、花木の苗は、春の季語「苗床」。

 苗床やおなじ二葉の茄子胡瓜(なすきうり) 斉藤雨意

一方 水稲の苗は夏の季語「早苗」。「さなえ」とは、優しい響の日本語である。女子の名前にも多く用いられる。「さつき」「さなえづき」は五月の異称として、馴染み深い。

 早苗束濃緑植田浅緑 高野素十

漢字ばかり並んで、束ねた早苗の濃き緑と、その早苗が水田に植えられて、田を渡る風に浅緑に輝く色の対比が面白く詠じられている。

機械化で、田植えのさまも変り、苗代から田圃に運ばれてくるのもパレットにのってトラクター?で。情緒はなくなっても、若苗色の色は変らない。

そんな早苗の色を昔から「若苗色」と言う。

襲の色目の若苗は、「表裏淡萌黄」、「表淡青、裏黄」「表裏淡木賊」など、黄緑をイメージしている。

田圃に植えられて、若苗も幾分生長して、しっかり根付いたころ、緑も一段と濃くなり「苗色」となる。若苗色と苗色は、おなじ色とも言われるが、しかし柔らかい早苗の色と、生長した若い苗と区別したい気持ちになる。


いろ波・8 菜の花色

2007年03月21日 | 色の世界

菜の花色(なのはないろ

一面の黄色の菜の花畑、川辺に咲く黄色い菜の花。先般伊豆へ川津桜を見に行きましたら今年は早々に咲き終わり、葉桜になっていました。菜の花だけが川に沿って、黄色を咲き誇っていました。

菜の花色(なのはないろ)は、この菜種の花の黄色を言う色名です。色名としては、比較的新しく、伝統色名は、菜種油色(なたねゆいろ)として、菜種油のくすんだ黄色で、オリーブ系の色名を日本語で表したとも言われています。

暗い黄色を、菜種油色、鮮やかな黄色を菜の花色と分けて使われています。一口に菜種色または油色といわれるのはくすんだ暗い黄色です。

菜の花の明るい黄色の方が、現代には馴染みやすいですね。

健康的には、菜種の油や、ゴマの油など植物性の油が良いのですが。現代人は沢山の動物性の脂をとりすぎて脳梗塞などを惹き起こす結果になります。昔の人は精進料理のように、ごま油を少したらすなど、風味付けに油を用いましたし、天麩羅や、油揚げも、種油でした。 今 普通のサラダ油など、少し置いておくと白い油のかたまりになり、これがお腹の中に入るのかと思うとぞっとしますよね。


いろ波・7 「水色」

2007年03月03日 | 色の世界

「水色」

子供のころから、クレヨンや色鉛筆に必ずあったこの色は、透明な水も ためらいなく水色で描いた。空色もあったと思うが、水も空も区別なく、水色のクレヨンで描いたように記憶している。

万葉集では、水縹(みずはなだ)と呼んでいますが、後に水色となり平安時代には、すでに水色と言う色名が用いられていました。

透明な澄んだ水は、雪解けの春の水の色であり、ときに空や雲を映し出し「行雲流水」の言葉さながらで、身も心も洗われる思いです。

そして、奈良東大寺のお水取りの儀式、このあと春がおとずれると申しますが、記録的な暖冬で今年は冬と春の線引きが明確に参りそうも有りません。

いずれにしましても、水色は春の色でありたいと思います。夏は濃いブルーの青が控えて居ります。


いろ波・6 納戸色

2007年02月20日 | 色の世界

小説「悉皆屋康吉(しっかいやこうきち)」船橋聖一著、(文春文庫1998年1月第一刷)で、主人公の康吉が、ライバルの悉皆屋の伊助爺さんに、「深川納戸」の色について長口舌を聞かされるくだりを、引用しよう。

「だがね、康さん、お納戸には、幾種類もあるんだよ。鴨川納戸、相生納戸、花納戸、橋立納戸、幸納戸、隅田納戸、鉄納戸、藤納戸、深山納戸、深川納戸、大内納戸 ―――ざっと数えただけでも、このとおりだ。今のうちでも、深川納戸と花納戸の見分けなんざ、なかなか素人にはできるもんじゃねェ。橋立納戸と鳥羽鼠(とばねずみ)なんぞもむずかしい。一方はお納戸で、一方は鼠だが、ちょっと見ては、同じようにしか見えねえ。現に、お前さんが引きうけてきた、深川納戸と、鴨川納戸との区別なんか、実に、むずかしいんだ。ありきたりの鉄納戸だって、深川や鴨川と並べて見て、どこがどうちがうってことは、なかなか、口に出しては、いえるこっちァねェ。納戸に花田に鼠にぶどう――こういった傾向の中に、また細かく、種類が分かれていて、鼠のうちの紺に近いものと、納戸のうちの藍がっかたものとでは、ほとんど色気がスレスレになってくる―――大雑把に注文してくるお客はいいが、今のように、深川納戸なんて、細かいところまで注文が出る客には、こっちもまた、それ相応の心得でむかわなくちゃァならねエ。山春に出してやるにも、ただ、深川納戸とだけいってやったんじゃァ、向こうでも間ちがえるおそれがある。やはり、そういう小面倒な色気を注文するなら、ちゃんとこっちから、色見本をつけてやるのが、悉皆屋の務めだ。そうじゃないか、康さん」

大正の終わりから、昭和一けたごろの話だ。

悉皆屋(しっかいや)については、この小説の一章の冒頭に詳しい説明があるが、染物から、和服の解き洗い張り、染替え、染み抜きなどの加工の仲介をする職業、悉皆とは何でもオールという意味があり、きものに関しての便利屋さんというところか。

今は、和装のコンサルタントなどと現代風に称しているが悉皆屋は、悉皆屋。 きものの店は、呉服店、呉服屋といったほうがストレートで分かりやすい。

ところで「納戸色(なんどいろ)」であるが、色は何でも、小説の引用のように口で言い表すのはむずかしい。

小説の、註によると

納戸色  江戸後期に流行したくすんだ藍色。染めの工夫によって様々なヴァリエーションが生まれた。

とある。

藍染の色名のひとつ、納戸色は、お納戸色とも言い、くすんだ色調の濃い青をいうが、色名については、諸説ある。

この色に染めた反物をしまっておく納戸の薄暗い青の色とか、納戸の幕の色だとか、またその納戸を管理する役人の衣裳の色だったとか、つまびらかでない。

さらに濃い藍染は、染めるのに手間がかかるので、一度に大量に染めて納戸に蓄えて置いたとかで、その藍染の色を納戸色というようになったとの推測などで、本当に色名の根拠かどうかにわかに信じがたいので、ただただ、納戸色というしかない。

江戸時代後期から、大変人気のあった青色らしく、天空の星に名前をつけるごとく、小説の引用部分のような、少しの色の差異にも、もっともらしく色名をつけていたものか。藍色に鼠や、茶の混色で微妙な色合いを楽しんだものであろう。

今なら何百万画素ものデジタル色で表現できるが、絹に染めるにはアナログの色彩感覚が味である。


いろ波・5 紅梅色 その2

2007年02月13日 | 色の世界

今日、梅林の紅梅、ほどよい薄ピンクの紅梅がありました。

紅梅色も、やや薄いのを、薄紅梅(うすこうばい)、一重梅(ひとえうめ)。

色が濃くなると莟紅梅(つぼみこうばい)、梅重(うめかさね)と、濃淡を呼び分けている。

単に花の色を映すだけでなく、染めに際して繊細に変化する濃淡を表現したのであろう。

今、熱海のMOA美術館で、3月5日(月)まで、国宝の紅白梅図屏風が、他の所蔵名品と共に展観されている。(木曜日休館・但し2/22.3/1は開館)

この名高い尾形光琳筆の紅白梅図の、紅梅は金箔の上に、まさに紅色(べにいろ)で描かれている。これが紅梅の花の色で、ここから 色名が生まれたのであろうが、伝統色名の紅梅色(こうばいいろ)は鮮やかなピンクである。

近所の農家の庭先にある枝垂れ梅(しだれうめ)は、今満開でこちらは薄ピンクで薄紅梅色なのか。

染めの職人さんは、色名を聞いて微妙な色加減が出来るのである。