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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「サンデル教授と増田教諭」!?

2010年11月25日 | 増田の部屋
皆様
 おはようございます。犯罪都教委&1・5悪都議と、断固、闘う増田です! これはBCCでお送りしています。重複・長文、ご容赦を。
 以下のブログで件名論考を書いてくださった方から、ご了承を得ましたので、かなり面映ゆいのですけど(笑)、紹介させていただきます。
http://ipppei.blog16.fc2.com/
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 ◆ サンデル教授と増田教諭
 今年の春頃、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』という本が、アマゾンや各地の有名書店で売上第1位になっているのを知って非常に驚いた。サンデルは1982年、共同体論の立場からジョン・ロールズのリベラリズムの依拠する人間観が「負荷なき自我」であると批判した『自由主義と正義の限界』を書いて一躍有名になった政治哲学者である。
 今、「有名」と書いたが、もちろんそれは政治哲学とその周辺の学問領域という“業界”での話であって、一般人、ましてや日本の一般人で知っている人はほとんどいなかっただろう。それが日本で一躍“時の人”になったのは、NHK教育テレビの「ハーバード白熱教室」の影響であるということを間もなく知ったが、それでもなお、正義や原理といったことに無関心な日本においてそのような政治哲学の本がベストセラーになるとは、なんとも奇妙で皮肉な現象だと思ったが、連れ合いにそのことを言ったら、「日本人はハーバードが好きなだけよ」と一言の下に切り捨てられた。
 さて、「ハーバード白熱教室」の人気に気を良くしたNHKは、「2匹目のどじょう」を狙い、8月にサンデルを呼んで東大で「ハーバード白熱教室in Japan」と銘打った講義を行い、その模様を10月3日と10日に放送した。さらに3匹目のどじょうを狙って、同月17日に、その反響編を放送した。まあ、ここまではいいだろう。
 ところが、つい先日の東京新聞によれば、NHKは今月21日から「白熱教室JAPAN」という放送を始めることにしたという。そのコンセプトは、「日本のサンデル教授を探せ」というもので、サンデル教授の学生との対話形式の講義法に「衝撃」を受けて、早速、その方法(だけ)をまねした講義法を採り入れた授業の模様を放送する、というものらしい。
 最初の4回は上村雅彦・横浜市立大学准教授の講義の模様を、その後の4回は小林正弥・千葉大教授の講義の模様を放映する予定だという。
 NHKエンタープライズの寺園慎一エグゼクティブプロデューサーによれば、「対話形式をまねしたいという声も聞いた。東大も衝撃を受けている」ということらしいが、一体、人ではない東大という法人が衝撃を受けたりするものだろうか。それとも東大の誰かが衝撃を受けたのだろうか。もちろん東大にもたくさんの教員がいるから、なかには衝撃を受けた人もいるかもしれないが、東大の何人かの教員が衝撃を受けたら、「東大も衝撃を受けている」ことになるのだろうか? 10月17日の反響編では、大学や高校の教員数名のインタビューが放送されたが、「私もあんな授業がしてみたい」と語る教員たちばかりのなか、唯一、「単に対話形式の授業という方法だけ採り入れようとしても無意味だ」という趣旨の指摘をしていた吉見俊哉氏は確か東大教授のはずだが…。
 サンデル教授の講義がハーバードで人気を博した理由は単に対話法という講義法にあったのではないだろう。というのは対話法という講義形式自体はアメリカの大学では別に珍しくもないことだからだ。むしろ人気の秘密は、講義の内容自体にあると考えるべきだろう。サンデル教授の講義内容とは、「正義とは何か(何が正しいことなのか)」という問題を、一方では現実に起きた(あるいは起こり得る)事例に引きつけながら、他方ではアリストテレスやカントやベンサムといった政治哲学史上の思想家の思想枠組を参照しつつ、学生に考えさせるものであった。
 そして、政治哲学の大きな思想枠組のなかに学生の意見を引き寄せながら、学生相互に意見を戦わせることによって、学生たちは、政治哲学を現実的な問題解決に応用させる術を学ぶと同時に、自らの意見を相対化させつつ何が正しいかを再考することができるようになるのであろう。
 それに対して、21日から放送される予定の上村准教授の授業では、「あなたは宇宙人。地球救命チームをつくり、理想のビジョンを策定せよ」といった課題が学生たちに与えられるらしい。なぜ宇宙人が地球救命チームを作るのかは不明だが、単に形式だけをまねしたいという上村准教授の痛々しい“情熱”が伝わってくる話ではある。
 日本において、サンデル教授の講義に真に比すべき授業実践のひとつは、増田都子教諭が行っていた「紙上討論」というユニークな授業実践であろう。
 増田教諭は東京都の足立区や千代田区などの中学校の社会科の教員だった。(「だった」と過去形で語らざるを得ないのが悲しい。)そこで増田教諭が行っていた「紙上討論」とは、近現代史や公民分野の発展学習として、戦争の実態や差別の問題、沖縄の米軍基地の現実などを描いたビデオ等の教材を元に、生徒に自分の意見を書かせ、そうした生徒の意見を増田教諭がプリントにまとめ、それを元に再び生徒に意見を出させるというユニークな授業である。
 この授業を受けた生徒たちは、最初は戸惑いつつも、やがて、教科書だけでは知らなかった事実を知り、なぜそうした事実が生じたのかを考え、主体的に自分の意見を表明し、異なる意見に耳を傾け、議論し合うことの重要性を身につけていくのである。「紙上討論」授業を受けた生徒たちの感想文が感動的である。そのいくつかを紹介する。
 <私は、紙上討論をするのが、初めはイヤだった。・・・でも紙上討論を繰り返しているうちに私の意見が変わった。それは、増田先生は紙上討論を通じて、私達に一つの事(テーマ)について、「いろいろな意見を出し合い、考えあうこと」を教えてくれているんだと気付いたから。私は「正しい事は正しい、間違っている事は間違っている」と堂々と生徒に教える事のできる増田先生の意志は素晴らしいものだと思う。・・・この紙上討論は、決して無駄ではなかったと私は言い切れる。>
 <私達は、この一年間に、たくさんの紙上討論をやってきた。そして、この紙上討論を通じて米軍基地のことや、日本のつらくて悲しい過去を知るなど、いろいろな事実を知ることができた。みんなの意見や、事実の知識を知った上で、自分が、また意見や考えを出す。それのくり返しをしてきた。いろいろな意見と同時に、紙上討論や増田先生に不満を持ったり、反対する人が出てきた。本当にいろいろな事があった。それでも増田先生は、私達が考えなければいけない事実を教えるため、紙上討論を続けてくれた。私は紙上討論を通じて、いろいろな意見を出せたり、社会に対する関心を高める事ができた。自分でも驚くくらい、たくさん考え、たくさん意見を出す事ができた。一番言いたいのは、紙上討論を通して「自分の意見をきちんと持ち、考えあうこと」の大切さが分かった、ということ。これは社会の授業だけでなく、大切な事だと思う。>
 <増田先生の紙上討論をしている内に、みんなの意見をきいて自分もしっかりした意見が持ちたいと思うようになり、積極的に勉強するようになりました。・・・こうして考えて見ると増田先生の授業や紙上討論が、私のこれからの人生に大きな光を作り出してくれたのかも知れません。>
 <紙上討論は、文章が苦手な私にとって、とても辛いものでした。戦争や原爆のビデオを見たりして、涙した事もありました。でも、その時は大変でも、今振り返ってみると。紙上討論のお陰で、自分の意見を言えるようになり、友達の考えを知る事ができました。あれらのビデオを見たお陰で、教科書では学ぶことのできない真実を知る事ができました。先生の授業で無駄になった事は一つもありません。・・・この貴重な体験を大切にし、将来、自分の子供にも真実を教えられる先生のような人間になりたいと思います。>

 そしてまた、足立12中学の卒業生は、答辞の中で、「特に私達にとっておおきなプラスとなったのは、二年生から社会でやり始めた紙上討論です。そこで他人の意見と自分の意見を照らし合わせ深く考えさせられました。自分の愚かな行動や考え方に気付いた人もいます。また自分の行動や考え方に自信をもてるようになった人もいます。私達はまっとうな判断力を身につけ、社会に適応できるようになってきています。勉強とはそうするためにするものだと思います」と、増田教諭の紙上討論に対する謝意を述べている。
 このような生徒たちの感想を読むと、増田教諭の紙上討論がいかに素晴らしい教育効果を上げていたかということがよくわかる。教科書だけでは知ることのできない歴史や社会の現実を学んだだけでなく、社会に対する関心を高め、他人の意見に耳を傾け、自分の意見をきちんと持ち、考えあうことの大切さを学び、まっとうな判断力を身につけ、社会に適応できるようになってきている様子がよくわかる。
 「自分でも驚くくらい、たくさん考え、たくさん意見を出す事ができた」という生徒もいれば、「私のこれからの人生に大きな光を作り出してくれた」とか「将来、自分の子供にも真実を教えられる先生のような人間になりたい」と語る生徒もいる。紙上討論授業の教育的意義について、浪本勝年教授は、「暗記中心ではなく自分の頭で考えるということが、どんなに大切なことであるかということは、今日の学校教育の中で、いくら強調しても強調しすぎることはない」と述べているが、こうした増田教諭の授業法は、(対象が中学生と大学生という違いはあるにせよ)サンデル教授の講義法と比べても、勝るとも劣らぬものであると言えるだろう。
 このような素晴らしい授業を行っていた増田教諭は、あろうことか2006年3月、都教委による不正・不当な分限免職処分を受け、教壇を追われることになったのである。
 右翼都議・右翼メディア・右翼都教委のファシスト御三家の三位一体攻撃の対象とされたためであるが、文科省などは口先では「国際理解を進める教育」だの「生徒の主体的な学習」などとお題目を唱えるが、真にそうした授業を推進しようとすると、右翼による攻撃対象とされるのが現代日本のお寒い現実である。
 現在、増田教諭は分限免職処分取消訴訟(東京高裁係属中)を戦っておられるが、担当裁判官が日本語読解能力と憲法に対する理解があることを望まずにはいられない。

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