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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

2020年度使用、小学校教科書の検定結果について、私たちの見解(その1)

2019年04月05日 | こども危機
  《子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会》
 ◆ 小学校社会科「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」の領土記述について

 3月26日、文部科学省は2020年度から使用する小学校教科書の検定結果を発表した。2017年に改訂された「新学習指導要領」にもとづいて作成された今回の教科書に対して、文科省は学習指導要領に忠実に記述するように、細かい検定意見を付けて教科書会社に修正させた。
 以下、まず社会科の「領土問題」に絞って、その問題点を指摘したい。他の問題についても、今後私たちの見解を随時発表する予定である。
 社会科教科書は今回、光村図書が発行せず、東京書籍、日本文教出版、教育出版の3社が発行した。
 各社ともに5年生、6年生で「領土問題」を記述しているが、このうち「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」を一貫して「日本固有の領土」と記述したのは東京書籍のみで、日本文教出版と教育出版は「日本の領土」という記述と「日本固有の領土」という記述が混在していた。
 これに対して文科省は「児童が誤解するおそれのある表現である(『日本の領土』)」という検定意見をつけて、「日本の領土」を「日本固有の領土」に修正させた。
 これは「新学習指導要領社会5年」の「内容の取扱い」において、「『領土の範囲』については、竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」と、新しく明記されたことにもとづく。
 また、東京書籍5年の竹島に関する記述に対して、「児童が誤解するおそれのある表現である(竹島に対する我が国の立場を踏まえた現況について誤解する)」という検定意見をつけ、「日本海上にある竹島は、日本固有の領土ですが、韓国が不法に占領しています」という元の記述に、「日本は抗議を続けています」を付け加えさせた。
 尖閣諸島についても同様に「児童が誤解するおそれのある表現である(尖閣諸島の支配の現況について誤解する)」という検定意見をつけ、「東シナ海にある尖閣諸島は、日本固有の領土ですが、中国がその領有を主張しています」という元の記述に、「領土問題は存在しません」を付け加えさせた。
 教育出版5年の尖閣諸島に関する記述に対しては、「領土をめぐる問題」という記述を「領土問題」と修正させたり、「中国が自国の領土であると主張しています」という記述を、「国としての適切な管理をこれまで続けているにもかかわらず、中国が自国の領土であると主張しています」と修正させた。
 これらの検定意見は5年の「新学習指導要領・解説」において、次のような実に細かい具体的な指示がなされていることにもとづく。
 「領土の範囲について指導する際には、竹島北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)尖閣諸島は一度も他の国の領土になったことがない領土という意味で我が国の固有の領土であることなどに触れて説明することが大切である。また、竹島や北方領土の問題については、我が国の固有の領土であるが現在大韓民国ロシア連邦によって不法に占拠されていることや、我が国は竹島について大韓民国に繰り返し抗議を行っていること、北方領土についてロシア連邦にその返還を求めていることなどについて触れるようにする。さらに、尖閣諸島については、我が国が現に有効に支配する固有の領土であり、領土問題は存在しないことに触れるようにする。その際、これら我が国の立場は、歴史的にも国際法上も正当であることに踏まえて指導するようにする。」
 2008年に改訂された前学習指導要領社会5年では、そもそも「学習指導要領」そのものには領土問題に関する具体的な記述はなかった。ただ「解説」において、「領土については、北方領土の問題についても取り上げ、我が国固有の領土である、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島が現在ロシア連邦によって不法に占拠されていることや、我が国はその返還を求めていることなどについて触れるようにする」と、北方領土を「我が国固有の領土」と定義し、「不法に占拠されている」と踏み込んだのであった。これは第一次安倍政権が2006年に「教育基本法」を改悪し、「愛国心」を盛り込んだことにもとづいて行われたものである。
 2012年末に復活した安倍政権は、2015年には「道徳」を正式に教科化し、2017年には「小学校学習指導要領」を改訂し、竹島や尖閣諸島も「我が国の固有の領土」と定義し、先に見たように「解説」ではどのように記述すべきかを具体的に指示した。
 この「解説」にのっとって、各社は「日本固有の領土」とか、韓国・ロシアが「不法占拠」とか、尖閣諸島に「領土問題はない」と積極的に記述したのであったが、それでも文科省は部分的に不十分な記述があるのを見つけ出し、徹底的に修正させたのである。
 しかし、各社が竹島や尖閣諸島まで「日本固有の領土」とか、竹島を「不法占拠」とかと記述するのは今回が初めてのことではない。すでに現行の小学校教科書はそのように記述している。
 北方領土にしか強制されていないにもかかわらず、各社は自ら新学習指導要領を先取りして記述を変えてきた。まさしく“忖度”したのである。だがそれは安倍政権とその背後にいる日本会議などの右派勢力が、陰に陽に教科書出版社に“圧力”をかけた結果なのだ。
 そもそも、「新学習指導要領」ですら、「領土問題」に関する記述を求めているのは5年であって、6年では直接の言及はない。にもかかわらず3社全てが5年、6年ともに記述している。
 これは中学校の教科書でも同じ傾向である。
 「地理的分野」でしか「領土問題」については記述しなくてもよいにもかかわらず、「公民的分野」はもちろんのこと、いくつかの出版社は「歴史的分野」でも積極的に記述し、「固有の領土」たる所以を補強したり、かっての住民の郷愁を紹介し、情緒的な共感を呼ぼうとしているのである。
 どれだけの“圧力”があるのかが推測されるが、同時に「どこまで迎合するのか。それでよいのか」と出版社には問わねばならないだろう。
 「領土問題」は実効支配している方が有利である。
 日本政府はロシアが実効支配している北方領土と、韓国が実効支配している竹島には「領土問題がある」と主張し、日本が実効支配している尖閣諸島には「領土問題はない」としているが、これはダブルスタンダードあり、とうてい国際社会を納得させうるものではない。
 三つの「領土問題」には歴史的背景があり、いずれも日本の侵略戦争と深く結びついている。
 日本が尖閣諸島の領有を宣言したのは日清戦争の、竹島領有を宣言したのは日露戦争の過程であり、日本側に有利な戦況の中で一方的に領有を宣言したのであった。
 北方領土は日本がポツダム宣言を早期に受け入れていれば、ソ連に占領されることもなかった。
 このような歴史的背景を教えることなく、相手国の主張を紹介することもなく、日本側の主張だけを一方的に教えるのは極めて危険である。
 「領土問題」は双方の国民のナショナリズムを刺激しやすく、開戦のきっかけにもなりやすい。にもかかわらず、安倍政権は「領土問題」を煽り、子どもに相手国への反感を刷り込もうとしているのだ。
 これは、かっての日本の侵略戦争にともなって起こった日本軍「慰安婦」問題も、強制連行問題も、南京虐殺問題も、「日本には責任がない」、したがって謝罪も、賠償も、語り継ぐ教育も必要ないとする安倍政権の不誠実な態度と一体のものである。
 安倍首相の悲願は「憲法改正」である。自衛隊を「軍隊」として憲法に位置付け、アメリカの戦争に積極的に協力して海外で戦争ができるようにし、軍事大国として世界で覇権を競える国が安倍首相にとっての「美しい国」なのだ。
 しかし憲法だけ変えても、兵士になる国民とそれを支える国民がいなければ戦争はできない。だから教科書で「日本人の誇り」「愛国心」を刷り込み、他国への反感を煽るのだ。
 私たちはこのような安倍首相や右派勢力の思惑に、子どもたちをさし出すことを断固として拒否する。
 74年前、悲惨な敗戦に直面して大多数の国民は「日本国憲法第9条」を歓迎し、「二度と戦争をしてはならない」と誓った。戦争は他国民も自国民も殺す結果しかもたらさないことを、私たちの祖父母や父母は身をもって知った。彼らの願いを私たちは決して無駄にしてはならない。
 「平和」があってこそ、子どもたちは夢も描ける。かっての戦争の実相を伝え、なぜ無謀な戦争に突き進んだのかを反省し、二度と戦争のない世界を作るにはどうすればよいのかを考える糧になる教科書を、子どもたちには渡したい。私たちはそのための努力を惜しまない。
 今年は道徳も含む全教科の小学校教科書の採択の年である。
 学習指導要領に縛られているため、どの教科書にも問題がある。しかし、そのような中でも少しでも良い教科書を作ろうと努力している編集者もいる。私たちは各社の教科書をきちんと検討し、より良い教科書を子どもたちに届けられるように、全国の市民とともに取り組む決意である。
『子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会』(2019年3月29日)


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