=「女川原発運転差止請求訴訟」を仙台地方裁判所へ提訴するに当たって=
▼ 東北電力は、避難計画が実効性に欠けている状態で、
女川原発2号炉の運転をしてはならない
1、東北電力を相手にした本裁判の意義
私たち原告団は、一昨年11月、宮城県知事と石巻市長に対し、女川原発2号機再稼働への同意差止を求めて仮処分申立を行ったメンバーを中心とした17名です。
同仮処分では、女川原発2号機の再稼動への同意に当たっては、避難計画の実効性の確保が必須の要件であり、現場を見ない机上プランに過ぎない現計画の下では、再稼働に同意すべきではないという主張をし、詳細な証拠資料を提出しました。
しかし、宮城県及び石巻市は、かかる避難計画の実効性についての論点には認否さえ行わず、
これにより裁判所も避難計画の実効性については何ら具体的な検討をせずに、昨年7月6日、却下決定をなし、さらに、同年10月23日、仙台高等裁判所は棄却決定を出しました。
仙台高等裁判所は、避難計画の実効性について、「現状ではなお相当の課題が残されている」との認識を示したにも関わらず、「住民に生ずる生命、身体の危険は、あくまで東北電力が原発を再稼働することを直接の原因として生ずる危険であって、抗告人らが差止めを求める宮城県や石巻市の行為(同意)を直接の原因として生ずる危険ではない」ことを理由に棄却決定を出すに至りました。
これを受け、本提訴により、訴状で具体的に明らかにしているように、改めて避難計画の実効性のなさを浮き彫りにし、このような計画の下で、東北電力が住民を危険に晒したまま、再稼動のスイッチを押すことは絶対に許されないことを、白日の下に明らかにしたいと考えた次第です。
また、「東北電力の再稼働と知事の同意を同視出来ない」とする決定を正面から受け止め、ひとたび事故を起こしたら、他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる危険極まりない原発の再稼働を止めるために、東北電力を相手に裁判を起こすことは、重要な意義があると考えます。
2、注目すべき最近の司法の動向
最近、地元新聞で「揺れる司法」との原発裁判についての特集が連載され、その第1回目には、我が弁護団の小野寺信一団長が登場し新たな訴訟への思いを述べていましたが、引き続き、注目すべき判決や元裁判長や関係者の発言が報道され、正に「揺れる司法」を目の当たりにしました。
その中でも、訴状(P126)でも触れていますが、東海第2原発についての水戸地方裁判所の運転差止判決は、避難計画をめぐるものであり、私たちの提訴とも深く関わる注目すべき判決でした。
国際基準となっている深層防護の第5層に言及した判決であり、仙台地裁においてもこの判決の意義が、私たちの裁判に活かされることを期待しています。
また、訴状の中で、1994年の女川原発1・2号機差止訴訟において、仙台地裁で一審の裁判長を務め、運転容認判決を書いた塚原朋一氏が、3・11福島原発事故の後、女川原発について「かろうじて大丈夫だった。でも危険はたかかったんだなあと、ぞっとしました。それが、判決をした者としての率直な感想です」と話していることを紹介しています(訴状P38)。
裁判官に対しては「国策への付度」判決などと言った批判もありますが、福島事故を経験する中で、原発についての認識を新たにする裁判官が増えてきていることも間違いありません。
裁判官は、法廷での相反する主張について、あくまで法理と証拠に基づき判断しますが、その根本には、憲法の定める国の主人公としての国民の立場に立脚する精神が横たわっていなくてはなりません。
原発に関わる裁判も多数ある中で、原発事故に起因する損害賠償裁判では、国や電力事業者の責任を認める判決が、主流となりつつあります。この流れが、住民の立場に立った、事故を未然に防ぐ方向へ、司法が大きな役割を果たしてくれることを心から期待しています。
3、村井知事の同意表明と県民世論
昨年11月11日の県知事の同意表明については、当時の河北新報社の世論調査で、「知事は決断の前に県民投票を行うべき」という回答が76%、「再稼働を容認した県議会を支持しない」という回答が72%を占めたことに示されるように、県民意識との大きな乖離の中で強行されたものでした。
寄せられた声の中には県外在住者の「石巻出身と言うことが恥ずかしい」などと言うのもありました。
また海外メディアも注目し、ドイツ公共放送などは「3・11の被災原発が、何故こんなに早く再稼働に至ったのか」と県知事をはじめ関係者の取材にわざわざ来県したほどでした。
知事の同意表明へのお膳立てとして「住民説明会」「市町村長会議」などがセットされましたが、「住民説明会」では、全会場で、すべての発言者が反対の声を上げました。
「市町村長会議」でも知事の思惑に反して、その場での同意の確認はできず、知事が一方的に「石巻、女川首長との三者会談への一任」とし、その後知事は「同意表明」を行いました。
もう一押しの県民世論の高まりと広がりがあればと残念に感じました。
今後に向けて、本提訴がこのような県民世論の高まりと広がりへ、その一端を担えることも期待しています。
4、この裁判の争点
私たちは、東北電力を相手にしたこの裁判において、訴状で述べている通り「女川原発について現在策定されている避難計画は、実効性に欠けており、避難計画が存在することで避難者を窮地に追い込むことすらありうるもので、第5層の防護措置としては不適格であり、このような状態では原子力発電所を運転してはならない」ことを論証しています。
仮処分の法廷では県・市は、実効性についての認否を拒否し、実質的回答をしませんでしたが、本提訴の趣旨からこの法廷では実効性についての明確な判断が示されなくてはなりません。
もし東北電力が「避難計画の策定は我々ではない」と主張するのであれば、その前に、「国際基準に照らして第5層まで揃って初めて再稼働の準備が出来たといえるのであって、それが出来ていない現状の県のガイドラインに基づく石巻市の避難計画の下では再稼動は許されないということを自覚すべきです。
裁判所におかれては、訴状で示している避難計画の実効性の欠如について、女川地域原子力防災協議会の審議の実態(P105以下)などを含めてつぶさに検討を加え、避難計画の現状は、実効性に欠け、存在すること自体が住民に危険をもたらす可能性が高いことの判断を示されるよう強く期待いたします。」
5、結びに
地球温暖化問題は、原子力発電所の制御が、今現在人類が到達している科学では不可能と言われていることと同様に、人類史的課題です。原発に頼らない二酸化炭素の削減は、人類史が求めるところでもあります。
東北電力ネットワークは、最近、東北・新潟の太陽光・風力発電量が87.7%を記録したことを発表しました。
今やこれこそが、地球の持続的発展への時代の趨勢です。
東北電力は、6月に株主総会を予定していますが、昨年度の総会では、初めて自然エネルギーに力を入れる方向の定款の改定を行いました。原子力発電の経済性の議論も続いています。
10年間、原子力発電ゼロで経営してきた東北電力にとっても、もし万全な避難計画が出来て、女川原発2号炉の再稼働に踏み切ったとしても、あと10余年で、福島の事故後定められた「40年運転」の期限を迎えます。
会社経営上もいま大事な分岐点を迎えているのではないでしょうか。
今回の私たちの女川原発2号炉差止訴訟を機に、広く深く検討を加えて、再稼働を断念し、再生可能エネルギー中心の電力事業者の道をめざして頂きたいと強く希望いたします。
この裁判が、住民の命と健康を第一に、広い視野の下に審議され、住民の安全に役立つ判決が下されることを切望し、提訴に当たっての原告団の見解といたします。
『みやぎ脱原発風の会』
https://miyagi-kazenokai.com/
▼ 東北電力は、避難計画が実効性に欠けている状態で、
女川原発2号炉の運転をしてはならない
2021年5月28日 女川原発再稼動差止訴訟原告団・原伸雄
1、東北電力を相手にした本裁判の意義
私たち原告団は、一昨年11月、宮城県知事と石巻市長に対し、女川原発2号機再稼働への同意差止を求めて仮処分申立を行ったメンバーを中心とした17名です。
同仮処分では、女川原発2号機の再稼動への同意に当たっては、避難計画の実効性の確保が必須の要件であり、現場を見ない机上プランに過ぎない現計画の下では、再稼働に同意すべきではないという主張をし、詳細な証拠資料を提出しました。
しかし、宮城県及び石巻市は、かかる避難計画の実効性についての論点には認否さえ行わず、
これにより裁判所も避難計画の実効性については何ら具体的な検討をせずに、昨年7月6日、却下決定をなし、さらに、同年10月23日、仙台高等裁判所は棄却決定を出しました。
仙台高等裁判所は、避難計画の実効性について、「現状ではなお相当の課題が残されている」との認識を示したにも関わらず、「住民に生ずる生命、身体の危険は、あくまで東北電力が原発を再稼働することを直接の原因として生ずる危険であって、抗告人らが差止めを求める宮城県や石巻市の行為(同意)を直接の原因として生ずる危険ではない」ことを理由に棄却決定を出すに至りました。
これを受け、本提訴により、訴状で具体的に明らかにしているように、改めて避難計画の実効性のなさを浮き彫りにし、このような計画の下で、東北電力が住民を危険に晒したまま、再稼動のスイッチを押すことは絶対に許されないことを、白日の下に明らかにしたいと考えた次第です。
また、「東北電力の再稼働と知事の同意を同視出来ない」とする決定を正面から受け止め、ひとたび事故を起こしたら、他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる危険極まりない原発の再稼働を止めるために、東北電力を相手に裁判を起こすことは、重要な意義があると考えます。
2、注目すべき最近の司法の動向
最近、地元新聞で「揺れる司法」との原発裁判についての特集が連載され、その第1回目には、我が弁護団の小野寺信一団長が登場し新たな訴訟への思いを述べていましたが、引き続き、注目すべき判決や元裁判長や関係者の発言が報道され、正に「揺れる司法」を目の当たりにしました。
その中でも、訴状(P126)でも触れていますが、東海第2原発についての水戸地方裁判所の運転差止判決は、避難計画をめぐるものであり、私たちの提訴とも深く関わる注目すべき判決でした。
国際基準となっている深層防護の第5層に言及した判決であり、仙台地裁においてもこの判決の意義が、私たちの裁判に活かされることを期待しています。
また、訴状の中で、1994年の女川原発1・2号機差止訴訟において、仙台地裁で一審の裁判長を務め、運転容認判決を書いた塚原朋一氏が、3・11福島原発事故の後、女川原発について「かろうじて大丈夫だった。でも危険はたかかったんだなあと、ぞっとしました。それが、判決をした者としての率直な感想です」と話していることを紹介しています(訴状P38)。
裁判官に対しては「国策への付度」判決などと言った批判もありますが、福島事故を経験する中で、原発についての認識を新たにする裁判官が増えてきていることも間違いありません。
裁判官は、法廷での相反する主張について、あくまで法理と証拠に基づき判断しますが、その根本には、憲法の定める国の主人公としての国民の立場に立脚する精神が横たわっていなくてはなりません。
原発に関わる裁判も多数ある中で、原発事故に起因する損害賠償裁判では、国や電力事業者の責任を認める判決が、主流となりつつあります。この流れが、住民の立場に立った、事故を未然に防ぐ方向へ、司法が大きな役割を果たしてくれることを心から期待しています。
3、村井知事の同意表明と県民世論
昨年11月11日の県知事の同意表明については、当時の河北新報社の世論調査で、「知事は決断の前に県民投票を行うべき」という回答が76%、「再稼働を容認した県議会を支持しない」という回答が72%を占めたことに示されるように、県民意識との大きな乖離の中で強行されたものでした。
寄せられた声の中には県外在住者の「石巻出身と言うことが恥ずかしい」などと言うのもありました。
また海外メディアも注目し、ドイツ公共放送などは「3・11の被災原発が、何故こんなに早く再稼働に至ったのか」と県知事をはじめ関係者の取材にわざわざ来県したほどでした。
知事の同意表明へのお膳立てとして「住民説明会」「市町村長会議」などがセットされましたが、「住民説明会」では、全会場で、すべての発言者が反対の声を上げました。
「市町村長会議」でも知事の思惑に反して、その場での同意の確認はできず、知事が一方的に「石巻、女川首長との三者会談への一任」とし、その後知事は「同意表明」を行いました。
もう一押しの県民世論の高まりと広がりがあればと残念に感じました。
今後に向けて、本提訴がこのような県民世論の高まりと広がりへ、その一端を担えることも期待しています。
4、この裁判の争点
私たちは、東北電力を相手にしたこの裁判において、訴状で述べている通り「女川原発について現在策定されている避難計画は、実効性に欠けており、避難計画が存在することで避難者を窮地に追い込むことすらありうるもので、第5層の防護措置としては不適格であり、このような状態では原子力発電所を運転してはならない」ことを論証しています。
仮処分の法廷では県・市は、実効性についての認否を拒否し、実質的回答をしませんでしたが、本提訴の趣旨からこの法廷では実効性についての明確な判断が示されなくてはなりません。
もし東北電力が「避難計画の策定は我々ではない」と主張するのであれば、その前に、「国際基準に照らして第5層まで揃って初めて再稼働の準備が出来たといえるのであって、それが出来ていない現状の県のガイドラインに基づく石巻市の避難計画の下では再稼動は許されないということを自覚すべきです。
裁判所におかれては、訴状で示している避難計画の実効性の欠如について、女川地域原子力防災協議会の審議の実態(P105以下)などを含めてつぶさに検討を加え、避難計画の現状は、実効性に欠け、存在すること自体が住民に危険をもたらす可能性が高いことの判断を示されるよう強く期待いたします。」
5、結びに
地球温暖化問題は、原子力発電所の制御が、今現在人類が到達している科学では不可能と言われていることと同様に、人類史的課題です。原発に頼らない二酸化炭素の削減は、人類史が求めるところでもあります。
東北電力ネットワークは、最近、東北・新潟の太陽光・風力発電量が87.7%を記録したことを発表しました。
今やこれこそが、地球の持続的発展への時代の趨勢です。
東北電力は、6月に株主総会を予定していますが、昨年度の総会では、初めて自然エネルギーに力を入れる方向の定款の改定を行いました。原子力発電の経済性の議論も続いています。
10年間、原子力発電ゼロで経営してきた東北電力にとっても、もし万全な避難計画が出来て、女川原発2号炉の再稼働に踏み切ったとしても、あと10余年で、福島の事故後定められた「40年運転」の期限を迎えます。
会社経営上もいま大事な分岐点を迎えているのではないでしょうか。
今回の私たちの女川原発2号炉差止訴訟を機に、広く深く検討を加えて、再稼働を断念し、再生可能エネルギー中心の電力事業者の道をめざして頂きたいと強く希望いたします。
この裁判が、住民の命と健康を第一に、広い視野の下に審議され、住民の安全に役立つ判決が下されることを切望し、提訴に当たっての原告団の見解といたします。
以上
『みやぎ脱原発風の会』
https://miyagi-kazenokai.com/
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