=週刊金曜日:今週の巻頭トピック=
☆ 「言論守る反スラツプ法制定を」
統一教会(世界平和統一家庭連合)の友好団体「天宙(てんちゅう)平和連合」(UPF)日本支部が、ジャーナリストの鈴木エイト氏によるSNSへの投稿などで名誉を傷つけられたとして、鈴木氏に1100万円の賠償を求めた訴訟の判決が5月14日、東京地裁であった。
足立堅太裁判長は原告の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
判決によると、米国のUPF本部は2021年9月、韓国で国際饗議を開き、トランプ前米大統領(当時)や安倍晋三元首相のビデオメッセージを上映した。これに対し鈴木氏は23年3~8月、X(旧ツイッター)に「トランプ前大統領に1億、安倍晋三前首相(当時)に5千万との内部情報」と投稿したほか、講演会や週刊誌の取材にも同様の発言をした。
UPF日本支部は「トランプ氏に1億円支払ったのは事実だが、安倍氏や関連団体には報酬を支払っていない」と主張。鈴木氏の投稿や発言は「安倍氏や原告の社会的評価と信用を損なう」として、名誉毀損(きそん)にあたると強調した。
地裁判決は投稿について、統一教会や米国のUPF本部に関するものと判断。「原告の日本支部の社会的評価が低下するとはいえない」として名誉毀損を否定した。
原告側は、22年7月に鈴木氏が、統一教会と安倍元首相について「裏取引疑惑」や「ズブズブの関係」があるとXに投稿したと言及。「5千万円」という投稿は贈賄や政治資金規正法違反、脱税などの疑惑を生じさせ、原告の社会的評価を低下させると主張した。
地裁判決は、「裏取引疑惑」の投稿は「5千万円」の投稿の7カ月以上前だったと指摘。一般読者がこれらの投稿をあわせて読むとは考えがたい」と判示し、原告の主張を否定した。
☆ なぜUPF支部が原告?
原告側代理人の徳永信一(とくながしんいち)弁護士は判決後の取材に対し、「7カ月も昔の投稿を読者は参照しないと判決は言っている。しかしXの検索機能を使って過去の投稿を読む読者もいる」と判決を批判した。
さらに「『5千万円』という情報について、鈴木氏は何一つ立証できなかった」とも述べた。
被告の鈴木氏は記者会見し、「『教団側がお金を支払った』と話したのに、まったく関係ないUPF支部が訴訟を起こした。判決もその点を認定した」と強調。「言論を萎縮させるためのスラップ訴訟だ。反スラップ法を制定してほしい」とも訴えた。
統一教会をめぐってテレビやラジオで発言した弁護士らに対して22年9月や10月に起こされた5件の名誉毀損訴訟では、いずれも原告は教団だった。
一方、今回の訴訟を含め、23年と24年に鈴木エイト氏を相手取り起こされた3件の訴訟の原告は、信者個人や友好団体のUPF日本支部だった。徳永弁護士は「エイト三部作」と呼んでいる。
「なぜ教団が原告に加わらなかったと思うか」と筆者が尋ねると、鈴木氏は「統一教会本体が当事者になると、解散命令が出た時に問題になるので、分けたのではないか」との見方を示した。
文部科学省が宗教法人法にもとづき教団の解散命令を請求したのに対し、東京地裁は今年3月に解散を命じる決定を出した。教団は決定を不服として即時抗告し、東京高裁で審理が続く。
解散命令が確定すると、教団が当事者となっている訴訟はすべて清算人が引き継ぐことになるとみられる。
北野隆一・「朝日新聞」記者
『週刊金曜日 1521号』(2025年5月23日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます