◆ 自衛隊駐屯地で都立大島高校が防災訓練 (週刊金曜日)
「回れ、右!」「前へ、進め!」。教育委員会主導の”防災訓練”で、都立高校生がこんなかけ声のもと、行進した。しかも自衛隊駐屯地で。一体どうなっているのかー。
◆ 号令一下の行進練習は何のため?
集団的自衛権の行使容認で自衛隊の役割が変質しつつある今、高校生が自衛隊駐屯地でなぜ、訓練を受けなければならないのか---保護者や教職員が心配する中、東京都立大島高校(東京都・大島町)が2年生を対象に、2泊3日の宿泊防災訓練を、陸上自衛隊武山駐屯地(神奈川県横須賀市)で2014年11月26~28日、実施した。東京都教育委員会主導によるものだが、参加者は全35人中16人だった。
都教委は14年度、自衛隊施設で訓練を行なう学校を1校募集し、大島高校の大塚健一校長(59歳)が応募した。

――訓練最終日、帰島する汽船乗場の竹芝桟橋で。都教委指導主事らの左横に警官がいた。(提供:坂本茂氏)――
13年度、都教委は防災教育推進校の中から都立田無工業高校(西東京市、池上信幸校長)を指定し、自衛隊朝霞駐屯地でラグビー部などの男子生徒34人を対象に、さらに都の施設で2年生全155人を対象に(参加者数は非公表)、2泊3日の”自衛隊訓練”を行なっていた。
田無工業高校が実施した後者の訓練の“防災講話”では、瀧澤健二3等陸佐(自衛隊東京地方協力本部渉外広報室長)が「機関銃を手に、鉄帽・迷彩戦闘服で突撃してくる自衛隊員らの写真」を生徒に7枚も見せ、“国防の任務、抑止力”に言及していた。
保護者・都民らから憲法9条違反という意見も出て、政治的中立性が問題になったこともあり、都教委高校教育指導課(江本敏男課長)は、今回の大島高校の訓練では、「静謐な環境での実施」を理由に、駐屯地内の訓練公開や取材を一切拒否した。
◆ 防災にそぐわない内容
「前年度実施校の内容は防災にそぐわないもののようだ」「島民から心配の声が上がっていると聞いた。町でも学習会が開かれ、体験入隊やリクルート活動でないか心配されている」(14年9月1日職員会議録)、
「半数以上の生徒が行きたくないと言っている状況」(9月24日2学年会議録)。
14年7月に実施の報道発表があってから、学校内外からこのような不安・反発の声が上がっていた。
都民らが情報公開請求で入手した、大島高校の各種会議録等をもとに、訓練の実態や心配の中身を、3点に絞り明らかにしたい。
①訓練内容について
大島高校の訓練実施要項の中に、止血法・包帯法・応急担架搬送法・ロープワークなど、防災と言える訓練はある。だがこれらは自衛隊以外でもできるし、自衛隊で実施しても消防学校で取得できる救急救命の資格は得られない。
防災とは別の意図が鮮明なのは、11月26日の「基本訓練・90分」だ。
瀧澤3佐らが、「回れー右」「前へー進めー」等の号令一下、実施した。生徒の希望者をリーダーとし、号令をかけさせることもした。この時間帯に加え、他の訓練や食事などの移動間も、自衛隊貝が横に付く行進で、生徒が号令をかけた。
市民団体「自衛隊をウォッチする市民の会」の坂本茂さん(62歳)は、「大島に帰る船を待つ竹芝桟橋で生徒に感想を聞くと、『行進が長かった』と言っていた」と語る。
「長方形の場所なら最短距離(45度)で進む方が速いが、通常、90度で曲がる自衛隊の行進では実際の災害時、逃げ遅れてしまう」と警鐘を鳴らす。
筆者はこれらを踏まえ、大塚校長に電話取材した。すると「行進・整列訓練の実施」は認めたが、「行進時、生徒に号令をかけさせた意図」については「防災訓練の一環だ。学校の(体育などでやる行進)と同じ延長」と答えるに留まった。
9月9日の2学年会議録には、「基本訓練は学校側の原案になかったが、都教委が入れるよう求めてきた」という趣旨の記述がある。
このため都民らは12月4日、「行進訓練を入れさせた理由」等を都教委高校教育指導課に文書で質問。都教委は今年1月14日付で出した回答で、この質問への回答を拒否している。
なお今回、行進訓練前、1時間半にわたり“防災講話”をした九鬼東一1等陸佐(防衛入学校教授)は、「機関銃を手に突撃する写真」は見せなかったが、”国防の任務”には言及したという。
◆ 生徒の住所を自衛隊に?
②自衛隊によるリクルート問題
14年9月24日に開かれた大島高校の職員会議で、教員が防災訓練と自衛隊の募集問題との関係を質問した。
大塚校長は「個人情報(氏名、住所等)を出すよう言われたが、こちらからリクルート活動に参加しているわけではない。教育庁(筆者注、都教委)とも再度協議している」と回答している。
都教委の金子一彦指導部長は都議会文教委員会で、「生徒の氏名のみ自衛隊に伝え、住所と生年月日は伝えない。氏名は大塚校長が提出した実施申込書に明記されている目的以外(の隊員募集)では使用しない」と、生徒の個人情報を一部保護する答弁をした。だが、この答弁は11月20日。訓練出発(11月25日に都内前泊)のわずか5日前だ。生徒・保護者の懸念を払拭させるため、もっと早い段階で明言できなかったのか、疑問だ。
なお都教委の取材拒否の中、特別扱いされたのか、自衛隊東部方面混成団の広報紙『東混団』15年1月1日号だけが「大島高校生活体験支援」と題する記事を載せた。最終日に災害派遣器材説明を受ける生徒らの写真もあり、左胸にはネームプレートが見える。前出の坂本さんは「生徒の個人情報がキャッチできてしまう」と懸念している。

――自衛隊東部方面混成団の広報紙『東混団』15年1月1日号には、大島高校の記事が写真付きで掲載された。――
③不参加生徒の扱いについて
14年10月21日の2学年会議録添付の「地域の声」には、「生徒が不参加した時は、参加を強制しないでほしい。また、不参加の生徒が学校生活に不利益をこうむることのないようしてほしい」と明記されている。
そもそも参加拒否者が過半数を超えていることは、10月29日時点で分かっていた(同日の職員会議録)。
だが都教委は、東京乎和委員会の「不参加の生徒に、参加を強要しないこと」を求める要望書に、訓練1週間前になった11月18日時点でも、「教育課程に位置付けた学校行事として実施。不参加の生徒には、その目的が達成できるよう指導する」と回答。“指導”と称し参加強制を示唆していた。
2日後の11月20日、都教委はようやく方針転換。金子部長が前記・都議会で共産党議員の質問に、「保護者の同意のない生徒は訓練に不参加でも、登校し課題をやれば出席扱いにする」と、強制色を薄める答弁を行なった。
結果35人中、19人の生徒が図書室で英数や防災教育等の課題学習に取り組み、12月2日の2学年会議録は、「課題取り組み良好」と明記している。
前出の島民の学習会で講演した種田和敏弁護士と坂本さんは、「保護者を含む多くの住民の働きかけの成果と言える」と語る(注)。
ところで公立学校の修学旅行や社会科見学、遠足等の経費は保護者負担が大原則だ。しかし都教委は「自衛隊連携訓練は都教委の事業」と主張し、食費・バス・船賃等、経費は全額都負担だ。
都民の調査依頼を受けた都議会生活者ネットが都教委から得た情報等によると、約80万円の支出だった。自衛隊訓練”の特別扱いに、大きな疑問が残った。
道徳教科化などで強まる“愛国心”教化の先に、自衛隊に親しませる国防教育が進むのではないかと心配だ。
(注)池田賢市中央大学教授(教育学)は「都教委が今後、『学校・家庭相互の連携協力』を加えた改定教育基本法第13条を盾に、生徒の"自衛隊訓練"参加協力を保護者に求めてくる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
『週刊金曜日 1030号』(2015.3.6)
永野厚男(教育ライター)
「回れ、右!」「前へ、進め!」。教育委員会主導の”防災訓練”で、都立高校生がこんなかけ声のもと、行進した。しかも自衛隊駐屯地で。一体どうなっているのかー。
◆ 号令一下の行進練習は何のため?
集団的自衛権の行使容認で自衛隊の役割が変質しつつある今、高校生が自衛隊駐屯地でなぜ、訓練を受けなければならないのか---保護者や教職員が心配する中、東京都立大島高校(東京都・大島町)が2年生を対象に、2泊3日の宿泊防災訓練を、陸上自衛隊武山駐屯地(神奈川県横須賀市)で2014年11月26~28日、実施した。東京都教育委員会主導によるものだが、参加者は全35人中16人だった。
都教委は14年度、自衛隊施設で訓練を行なう学校を1校募集し、大島高校の大塚健一校長(59歳)が応募した。

――訓練最終日、帰島する汽船乗場の竹芝桟橋で。都教委指導主事らの左横に警官がいた。(提供:坂本茂氏)――
13年度、都教委は防災教育推進校の中から都立田無工業高校(西東京市、池上信幸校長)を指定し、自衛隊朝霞駐屯地でラグビー部などの男子生徒34人を対象に、さらに都の施設で2年生全155人を対象に(参加者数は非公表)、2泊3日の”自衛隊訓練”を行なっていた。
田無工業高校が実施した後者の訓練の“防災講話”では、瀧澤健二3等陸佐(自衛隊東京地方協力本部渉外広報室長)が「機関銃を手に、鉄帽・迷彩戦闘服で突撃してくる自衛隊員らの写真」を生徒に7枚も見せ、“国防の任務、抑止力”に言及していた。
保護者・都民らから憲法9条違反という意見も出て、政治的中立性が問題になったこともあり、都教委高校教育指導課(江本敏男課長)は、今回の大島高校の訓練では、「静謐な環境での実施」を理由に、駐屯地内の訓練公開や取材を一切拒否した。
◆ 防災にそぐわない内容
「前年度実施校の内容は防災にそぐわないもののようだ」「島民から心配の声が上がっていると聞いた。町でも学習会が開かれ、体験入隊やリクルート活動でないか心配されている」(14年9月1日職員会議録)、
「半数以上の生徒が行きたくないと言っている状況」(9月24日2学年会議録)。
14年7月に実施の報道発表があってから、学校内外からこのような不安・反発の声が上がっていた。
都民らが情報公開請求で入手した、大島高校の各種会議録等をもとに、訓練の実態や心配の中身を、3点に絞り明らかにしたい。
①訓練内容について
大島高校の訓練実施要項の中に、止血法・包帯法・応急担架搬送法・ロープワークなど、防災と言える訓練はある。だがこれらは自衛隊以外でもできるし、自衛隊で実施しても消防学校で取得できる救急救命の資格は得られない。
防災とは別の意図が鮮明なのは、11月26日の「基本訓練・90分」だ。
瀧澤3佐らが、「回れー右」「前へー進めー」等の号令一下、実施した。生徒の希望者をリーダーとし、号令をかけさせることもした。この時間帯に加え、他の訓練や食事などの移動間も、自衛隊貝が横に付く行進で、生徒が号令をかけた。
市民団体「自衛隊をウォッチする市民の会」の坂本茂さん(62歳)は、「大島に帰る船を待つ竹芝桟橋で生徒に感想を聞くと、『行進が長かった』と言っていた」と語る。
「長方形の場所なら最短距離(45度)で進む方が速いが、通常、90度で曲がる自衛隊の行進では実際の災害時、逃げ遅れてしまう」と警鐘を鳴らす。
筆者はこれらを踏まえ、大塚校長に電話取材した。すると「行進・整列訓練の実施」は認めたが、「行進時、生徒に号令をかけさせた意図」については「防災訓練の一環だ。学校の(体育などでやる行進)と同じ延長」と答えるに留まった。
9月9日の2学年会議録には、「基本訓練は学校側の原案になかったが、都教委が入れるよう求めてきた」という趣旨の記述がある。
このため都民らは12月4日、「行進訓練を入れさせた理由」等を都教委高校教育指導課に文書で質問。都教委は今年1月14日付で出した回答で、この質問への回答を拒否している。
なお今回、行進訓練前、1時間半にわたり“防災講話”をした九鬼東一1等陸佐(防衛入学校教授)は、「機関銃を手に突撃する写真」は見せなかったが、”国防の任務”には言及したという。
◆ 生徒の住所を自衛隊に?
②自衛隊によるリクルート問題
14年9月24日に開かれた大島高校の職員会議で、教員が防災訓練と自衛隊の募集問題との関係を質問した。
大塚校長は「個人情報(氏名、住所等)を出すよう言われたが、こちらからリクルート活動に参加しているわけではない。教育庁(筆者注、都教委)とも再度協議している」と回答している。
都教委の金子一彦指導部長は都議会文教委員会で、「生徒の氏名のみ自衛隊に伝え、住所と生年月日は伝えない。氏名は大塚校長が提出した実施申込書に明記されている目的以外(の隊員募集)では使用しない」と、生徒の個人情報を一部保護する答弁をした。だが、この答弁は11月20日。訓練出発(11月25日に都内前泊)のわずか5日前だ。生徒・保護者の懸念を払拭させるため、もっと早い段階で明言できなかったのか、疑問だ。
なお都教委の取材拒否の中、特別扱いされたのか、自衛隊東部方面混成団の広報紙『東混団』15年1月1日号だけが「大島高校生活体験支援」と題する記事を載せた。最終日に災害派遣器材説明を受ける生徒らの写真もあり、左胸にはネームプレートが見える。前出の坂本さんは「生徒の個人情報がキャッチできてしまう」と懸念している。

――自衛隊東部方面混成団の広報紙『東混団』15年1月1日号には、大島高校の記事が写真付きで掲載された。――
③不参加生徒の扱いについて
14年10月21日の2学年会議録添付の「地域の声」には、「生徒が不参加した時は、参加を強制しないでほしい。また、不参加の生徒が学校生活に不利益をこうむることのないようしてほしい」と明記されている。
そもそも参加拒否者が過半数を超えていることは、10月29日時点で分かっていた(同日の職員会議録)。
だが都教委は、東京乎和委員会の「不参加の生徒に、参加を強要しないこと」を求める要望書に、訓練1週間前になった11月18日時点でも、「教育課程に位置付けた学校行事として実施。不参加の生徒には、その目的が達成できるよう指導する」と回答。“指導”と称し参加強制を示唆していた。
2日後の11月20日、都教委はようやく方針転換。金子部長が前記・都議会で共産党議員の質問に、「保護者の同意のない生徒は訓練に不参加でも、登校し課題をやれば出席扱いにする」と、強制色を薄める答弁を行なった。
結果35人中、19人の生徒が図書室で英数や防災教育等の課題学習に取り組み、12月2日の2学年会議録は、「課題取り組み良好」と明記している。
前出の島民の学習会で講演した種田和敏弁護士と坂本さんは、「保護者を含む多くの住民の働きかけの成果と言える」と語る(注)。
ところで公立学校の修学旅行や社会科見学、遠足等の経費は保護者負担が大原則だ。しかし都教委は「自衛隊連携訓練は都教委の事業」と主張し、食費・バス・船賃等、経費は全額都負担だ。
都民の調査依頼を受けた都議会生活者ネットが都教委から得た情報等によると、約80万円の支出だった。自衛隊訓練”の特別扱いに、大きな疑問が残った。
道徳教科化などで強まる“愛国心”教化の先に、自衛隊に親しませる国防教育が進むのではないかと心配だ。
(注)池田賢市中央大学教授(教育学)は「都教委が今後、『学校・家庭相互の連携協力』を加えた改定教育基本法第13条を盾に、生徒の"自衛隊訓練"参加協力を保護者に求めてくる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
『週刊金曜日 1030号』(2015.3.6)
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