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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「子どもの権利条約」をちゃんと根付かせるためには、「国内法」が必要だ

2022年06月12日 | こども危機

世界中の子ともの権利をまもる30の方法
甲斐田万智子編 合同出版 1800円+税


  《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
 ◆ 子どもの権利を保障するための「子ども基本法」を今国会で成立を
甲斐田万智子(かいだまちこ・認定NPO法人国際子ども権利センター(シーラィツ)代表理事)

 ◆ はじめに

 本国会(第208回)では、国会の代表質問において子どもの権利やこどもコミッショナーをはじめとした子ども政策が取り上げられるなど、これまでになく、子ども政策への関心が高まっています。
 2022年2月25日には、「こども家庭庁設置法案」が閣議決定され、内閣提出法律案(閣法)として議論が始まります。
 併せて、3月1日には立憲民主党が「子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案(子ども総合基本法案)」を衆議院に提出し、
 自民公明両党は、子ども政策の基本理念を定める議員立法「こども基本法案」を提出すべく、党内で了承プロセスを経るなど動きがあります(2022年4月2日現在)。
 1994年に日本が子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を批准して以来、これまで政府が包括的に子どもの権利を学校や地域で普及する取り組みがありませんでした。
 したがって、本国会でのこれらの動きは千載一遇の機会であり、本国会で子どもの権利を保障するための「子ども基本法」が成立することが期待されます。
 ◆ なぜ、今、「こども基本法」が必要なのか?

 予どもに関する法律が日本にはいくつかあるものの、児童福祉法なら福祉について、学校教育法なら学校教育についてなど、子どもに関する個別の課題に対する法律であって、子どもを1人の人間として認め、子どもが生まれながらにして権利を持っている存在であり、権利の主体であることについて明記され、子どもに関わるあらゆる場面で子どもの権利が守られるべきと定めた基本の法律がありません。
 日本は子どもの権利条約を批准し、これまで4回、国連子どもの権利委員会に条約の実施状況に関する報告書を出していますが、国連子どもの権利委員会からは、日本からの報告に対し「子どもの権利すべてを保障する法律」をつくるよう強く勧告されています。
 こうした法律がないために、子どもは声を上げることが難しく、その声が十分に尊重されず、子どもの自殺、児童虐待、いじめ、不登校、理不尽な校則など、子どもに関する深刻な問題が抜本的に解決されないまま深刻化しています。
 こうした事態を改善するためには、当事者である子どもたちの声や意見を聴く制度を整備し、子どもの視点に立った政策を推進することが求められます。そのために、子どもの包括的な権利保障を国の基本方針として定めた「こども基本法」が必要不可欠です。
 ◆ 「こども基本法」にはどのような内容が必要なのか?

 では、「こども基本法」でどのような内容を定めると、子どもが一人の人間として大事にされ、子どもの権利を守られながら自分らしく生きることができる社会になるのでしょうか。
 私が共同代表を務める「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン実行委員会」では、子どもの権利が守られる社会に向け、3つの「新しい仕組みづくり」と4つの「大切だと思うこと」をまとめた提言書「今こそ『子どもに関する基本法』の制定を!」(2021年11月20日)を作成し、国や自治体、議員に対して働きかけを続けてきました。
 <新しい仕組みつくリ>
1.子どもの権利をどんな場面でも大切にすることを約束する「子ども基本法」をつくる
2.子どもの権利を実現するために、国が行うことを全体的に見てすすめる役割ができる国の機関をつくる
3.子どもの権利が守られているかを確認・監視する仕組みをつくる

 <大切だと思うこと>
A.子どもの権利条約を日本中にひろめる
B.子どもの声を聴き、子どもとともに行動する
C.だれひとり、子どもを取り残さない
D.子どもに対する暴力を、ぜったいにゆるさない
 この「こども基本法」には以下の5点が重要だと考えています。
 ①子どもを1人の人として認め、子どもが生まれながらにして権利を持っている存在であることを認める「子ども基本法」を、子どもの権利条約で約束されていることにそって定め、国として子どものしあわせを実現するためにはなにが大切と考えるかを、その法律に盛り込むこと。
 ②「子ども基本法」では、子どもの権利条約の4つの一般原則「差別の禁止」「子どもの最善の利益」「生命・生存・発達の権利」「子どもの意見の尊重」を明記すること。
 ③すでにある子どもに関係する法律や計画は、「子ども基本法」ができたら、そこに書いてある大切にしたいことも含めて実施できるように調整すること。
 ④「子ども基本法」の中で、子どもの権利実現を総合的にすすめる機関と、子どもの権利が守られているかを確認する仕組みをつくることを、それぞれの機関が国の中で果たす役割も含めて明記すること。
 ⑤国がするべきこと、また、都道府県・市区町村がするべきことについて明らかにすること。さらに、企業、教育機関等、子どもに影響を及ぼす組織がとるべき行動についても示すこと。
 このうち、子どもの権利擁護のための仕組みである子どもコミッショナーは今回盛り込まれませんでしたが、今後も継続して議論がなされることとなり、私たちは引き続きその設置を求めていきます。
 ◆ 子どもの権利を社会のあたりまえに

 「こども基本法」の意義は、これが成立すれば、子どもの権利が包括的に位置付けられた初めての国内法になるということです。
 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2021年に実施したおとな2万人に対する調査結果(「2021年版チどもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書 子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して」)では、子どもの権利を「内容まで良く知っている」あるいは「内容について少し知っている」という回答者は約3割しかいません。
 日本の社会が子どもの権利に立脚していないため、子どもの問題が起きた時に、その解決方法が「おとなの視点や都合」によるものが多くなりがちです。
 つまり、「子どもの権利」の視点に立っていないため、子どもにとって最善の利益をきちんと考えることができないのです。
 また、子どもにとって何が最善なのかは、当事者である子どもに聞かなければ分からないことも多いのですが、こうした取り組みは限られた場所でしか行われていません。
 この現状を変えていくために、子どもからおとなまですべての人が「子どもの権利条約」を学び、理解し、毎日の生活の中で権利を守れるように国による大規模な啓発活動を求めていくことが必要です。
 さらに、子どもに接する人たちを対象に、子どもにはおとなと同じように権利があり、子どもには特別な権利もあることをきちんと理解し、それに基づいた行動がとれるよう研修を必ず実施し、かつ学んだことを実践していくように促すことが重要です。
 そして何より大切なことが、子どもが権利を行使できることを学び、声を上げることができるようになることです。
 そのためには、子どもの権利教育カリキュラムの必修化、子どもがあらゆる教育のなかで権利について教わることのできるシステムの構築、そして子どもの権利を教えられる人材を育成する予算の確保を基本法に求めていくことが必要です。
 本国会で私たちが望む「こども基本法」が成立すれば、これまで25年以上動かなかった国レベルの子どもの権利保障が大きく前進することになりますが、それをさらに推進させるためには、引き続き市民社会が子どもを権利の主体として認める運動を起こしていくことが求められています。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 143号』(2022.4)


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