時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

アメリカ中間選挙と不法移民問題

2006年11月04日 | 移民政策を追って


  アメリカの不法移民問題は、中間選挙の大きな注目点になっている。しかし、対応の仕方いかんでは共和党、民主党あるいは各議員にとって命取りになりかねない微妙な問題である。

  ブッシュ政権としては、当面700マイル(1,125キロ)のフェンスをメキシコ国境全長2,000マイルの中で最も脆弱な部分に設置するメキシコ国境設置法案を成立させて、なんとか選挙前の議会を終了させた。下院(賛成283-反対138)、上院(賛成80-反対19)の差であった。

  国境線に障壁を作る法案は抜け穴が多く、障壁が額面通り建設されるか不明である。ほとんどが11月7日に向けての繕い仕事である。皮肉なことに今年1月に移民政策の大改革を提唱した大統領だが、その実現には民主党が支配する下院の助けが必要になる。

  このブログで追いかけてきたように、これで移民対策が完成したわけではまったくない。すでに国内に居住している1200万人といわれる不法滞在者をどうするか。強硬派が主張するような全員を強制送還するというような手段は、あまりに非現実的で実現の可能性はない。となると、いかなる代替案がありうるか。ブッシュ大統領が提示してきた移民政策の総合的改革プランは、一定の条件を付して段階的に市民権取得への道を与えることである。また、現に農業の収穫、建築、芝生刈り、ベビーシッターなど広範な分野で働き、アメリカの産業にとってもはや欠くことのできない存在になっている彼らにいかなる位置づけをするか。新たなゲスト・アルバイター・プログラムを復活させるか。問題はかなり入り組んでいて、政治的にも扱いにくいところがある。

  障壁を作れば、不法移民はまた別の道を探す。終着点の見えない、いたちごっこである。そうした中でひとつ見えてきたことは、もはや不法移民の多い州が国境近接地域ばかりではなく、全米へと広がりつつある点である。不法滞在者 unauthorized が30万人以上の州はカリフォルニア、アリゾナ、テキサス、フロリダ、ノースカロライナ、ニューヨーク、ニュージャージー、イリノイ8州に達している(Pew Hispanic Center)。国境周辺部から中西部へとじわじわと広がっている。移民の国は新たな段階へ入りつつある。

Reference  
Don’t fence us in The Economist October 21st 2006.

コメント
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