イギリスのメディアTelegraph、CBCなどが伝えるところでは、11月10日、イギリス王室Hampton Court Palaceの物置に眠っていた絵画の中に、16-17世紀に活躍したイタリアの画家カラバッジョ(1571-1610)の作品があったことが公表された。王室は約400年ほど前に入手したが、これまでは模作と考えられてきた。しかし、ほぼ6年間の修復作業などの後、このたび真作と判定されたようだ。画題は「聖ペテロと聖アンデレの招命」であるらしい。
ネット上でみるかぎり、修復前の作品はかなりひどい状態であったようだ。カラバッジョの真作は50点ほどしか現存せず、メディアによると、現実にはありえないが、もし絵画市場に出せば5千万ポンド(1億800万ドル)近い価格がつくとも推定されている。
カラバッジョはラ・トゥールよりも少し前の画家だが、当時のヨーロッパ絵画の世界への影響力は大変大きかったことは、このブログでも記したことがある。
この作品は11月21日からローマで開催されるカラバッジョ展でお目見えするらしい。そして来年3月にはバッキンガム宮殿で開催される「イタリア・バロック・ルネッサンス」展へ出品される予定とのこと。一寸見てみたい気がする。
カラバッジョに限らず、この時期の画家の作品にはもしかするとまだ発見されずにどこかで眠っている作品がある可能性はかなり高い。イギリス王室だけでも7000点の作品を所有しているという。発見されれば今回のように大きな騒ぎとなる。
小説の種となったラ・トゥール
後世における有名画家の作品発見は、しばしば小説や劇作などのテーマにもなる。カラバッジョもラ・トゥールもしばしば登場する人気画家?である。ひとつの例を挙げてみよう。
アメリカの作家ディアンヌ・ジョンソン Diane Johnson の小説『離婚』Le Divorce (1997) *の中に、似た話が出てくる。パリに住むアメリカ人(カリフォルニア育ち)の女性ロクサーヌ・ド・ペルサン(ロキシー)とフランス人の夫シャルル・アンリが離婚の危機を迎える。夫妻には3歳の娘がおり、ロクサーヌは妊娠している。双方の両親がなんとかよりを戻すよう頭を痛める。
この小説のいわば触媒のような役割を果たしているのが、ロキシーの居間にかかっている古い絵画である。画題は「殉教者聖ウルスラ」 St. Ursula である。これは彼女が継父からもらったもので、結婚の時に夫アンヌにプレゼントしたことになっている。その時はたいした価値はないと思われていたが、その後、ラ・トゥールの弟子の作品、もしかするとラ・トゥール本人の作品ではないかとの噂が広がり、ゲッティ美術館から展示のために貸して欲しいとの要請もある。そして、絵の推定価格が上がるにつれて、あたりにいる人々の反応もおかしくなる。
夫のアンリは離婚の際に、この絵の所有を放棄したが、彼の側の家族は離婚が成立するまで、ゲッティ美術館の展示へ貸し出すのは見合わせたらとご丁寧に忠告する。アンリの母親は「とどのつまり、あの絵はフランスの絵よ」と言い出す始末。そして、ラ・トゥールの真作かもしれないという噂が出るにいたって、夫妻の家族関係者のどん欲さは高まるばかり。さて、その結末は。
* LE DIVORCE By Diane Johnson. A William Abrahams Book/Dutton, 1997.