時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

閉じられる扉:揺れ動くイギリス移民政策

2006年11月07日 | 移民政策を追って

  「国境」は国家 nation state を象徴する最後の存在といえるだろう。このところ、アメリカ、ヨーロッパなどで国境をめぐるせめぎ合いがあわただしくなっている。

  2004年5月、EUが加盟国拡大に踏み切った時、イギリスはアイルランド、スエーデンとともに、東欧・中欧など新加盟国からの移民労働者に労働市場を開放する政策をとった。しかし、この小さなブログでも観測対象としてきたが、この「開放ドア」政策は2007年1月から新たに加盟国となるブルガリア、ルーマニアには適用されないことになった。すでに内務次官ジョン・リードが8月にその可能性を示唆していた。

  その後、ポーランドなどからの労働者流入数が、政府の当初の年間1万3千人との予想を大幅に上回り、自営業を装った労働者まで含めると60万人近いことが判明した。政府にとっては大誤算であった。

  今回のイギリス政府の措置の目的は、新規加盟するブルガリア、ルーマニアからの低熟練労働者を制限することを企図している。農業と食品加工の2産業だけに限ってわずかに19,750人だけが認められる。そして、非EU加盟国からはこれらの産業への入国・就労は認められなくなった。また、就労許可があることを条件に高い熟練を持った労働者だけが就労できる。学生はパートタイムで働くことは許可される。

  開放ドア政策がはかなくも終わりを告げたことは確かだが、新政策がどれだけ有効かは分からない。ブルガリア、ルーマニアからのイギリス入国自体は認められる。もし、彼らが自営業として仕事をするかぎりイギリス政府は働くことを禁止できない。最初にEUに加盟した8カ国についてみるかぎり、この点は政策の欠陥と考えられる。

  今後、不法に就労している者は罰金1,000ポンド(1,870ドル)が課せられる。彼らを雇用する使用者に対する罰金は5,000ポンドである。問題は職場レベルでの監視をどれだけ実効性あるものとなしうるかにある。ブルガリア、ルーマニア政府がこうしたイギリスの政策に反発するのも当然ではある。しかし、国境という最後の象徴の権威を維持しようと、イギリス政府もなりふりかまわず、いったんは開いたドアを閉じ始めた。 国家というのはきわめて身勝手な存在であることを、また思い知らされた出来事である。

コメント
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