時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

破綻した外国人研修・実習制度(3)

2006年11月29日 | グローバル化の断面

  外国人労働者研修・実習制度の違反が、また問題になっている(NHK「クローズアップ現代」20061129日)*このブログでも再三取り上げてきたが、事業所の違反事例、研修生の失踪などの弊害が、年々悪化していることが指摘されている。この5年間に失踪者は1万人を越え、時給300円、時間外労働でも350円という最低賃金以下で働かせられている研修生もいることが発覚している。なぜ、これまでになるほど放置されてきたのか。

  番組は研修制度が悪用されていると指摘しているが、この制度(1993年に導入)は、すでに制度設計の段階から使用者による悪用の可能性が予知されていた。低賃金での労働者を求める使用者側の圧力に押されて、「単純労働者」受け入れ禁止の条件下で導入された妥協の産物であったからである。制度がそのための「隠れ蓑」とされる可能性は当初から予想されていた。「研修」による国際貢献という名目は、その目的を糊塗するものであったとさえいえる。本来ならば、「研修」と「就労」は、別のカテゴリーで独立の制度として透明度を維持して構想されるべきものである。それを承知の上で、無理やりひとつの制度として折衷した妥協の産物である。しかし、こうした制度は決して長続きしない。

  程なく制度の問題点は露呈する。妥協で歪んだ制度は、機能しないのだ。他方、安い賃金で働く労働者を求める使用者も多く、この制度で受け入れられる外国人研修生の数は、
最近は8万人にまで拡大している。

遅れた改善措置
  
  最大の問題は、かなり前から欠陥が判明したにもかかわらず、改善が行われなかったことにある。「研修」の名の下に安い手当で、厳しい労働条件で働かされる外国人研修生の問題は、何年にもわたり指摘されてきた。それにもかかわらず、ほころびを繕う程度で抜本的改革が後回しにされてきた。制度への不信感は高まるばかりで改善されることがなかった。

  最低賃金以下で働かされている外国人も多い。これまで何度か記したこともあるが、この最低賃金制度自体も根本的な欠陥を露呈してから多くの年月が経過している。グローバル化の時代に、「木を見て森を見ない」不毛な議論や分析が続けられている。研修生受け入れの任に当たる共同組合が、最低賃金違反を認識していない。

欠陥の原因
  労働市場にかかわる制度、政策の分野では他にも、重大な欠陥を含んだものがかなり目につく。その原因については、
1)制度設計時から検討が不十分で欠陥が存在した、
2)利害関係者の圧力で制度、政策が歪んで作られた、
3)導入後の現実の変化に制度が対応できなくなった、
4)導入後の政策をフォローするシステムが役割を果たしていない、
5)制度が複雑で分かりがたく、透明性が低い、
6)制度設計、検討の視野が狭く、「木を見て森を見ず」の弊に陥っている、
7)現行制度自体が、改革のための障害、桎梏となっている、
など多くの要因が考えられる。

  ここまでくると、制度改革の方向は明らかである。改革は遅れるほど痛みを伴う。基点に立ち戻り、制度の根本的再設計を期待したい。

教訓

1)設計の動機が不純な、透明度のない制度は破綻する。
2)過ちを改めるにためらうことなかれ。

「NHKクローズアップ現代:歪められた外国人研修制度の裏側」2006年9月29日

コメント (2)
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