猫魔ヶ岳の妖怪/八百板 洋子・再話 斎藤 隆夫・絵/福音館書店/2017年
八百板さんが、会津の磐梯山の「猫魔ヶ岳の妖怪」、伊達市山舟生の阿武隈川の「天にのぼった若者」、福島市笹木野の吾妻山の「大杉とむすめ」、福島市松川の安達太良山の「おいなりさまの田んぼ」の伝説計四話を再話されています。
斎藤さんの絵も味わい深いものがあります。
・猫魔ヶ岳の妖怪
磐梯山の西に、妖怪のすむ山があった。
殿さまが妖怪退治を家来にめいじると、なにものかが奥方をさらってしまいます。
殿さまは家来を山に向かわせますが、だれひとりもどってきません。
そこで、殿さまは、腕のいい猟師の若者に妖怪退治をめいじます。
若者は「やたらと鉄砲はうちたくねえ、そいつが、なにものかわからんでは」と相手を知るため一人山に入り、小屋をつくりはじめます。
すると、どこからともなく小さな猫が足元にすりよってきます。弱っていた猫に水とにぎり飯を上げると、子猫はうれしそうにします。その日から若者は子猫と一緒に暮らしはじめます。
殿さまから妖怪退治をはやくするよう命令が来て、若者が夜になると、特別なたまをつくりはじめます。
たまがひとつできると、こねこの目がきらり。
ひとつだね ニャゴ
ふたつだね ニャーゴ ニャーゴ
みっつだね ニャーゴ ニャーゴ ニャーゴ
四つだね ニャーゴ ニャーゴ ニャーゴ ニャーゴ
若者が、「たまは四つにしておくか」というと、子猫はちいさくうなずき、そのままねむります。
そのすがたを見ていた若者は、もうひとつくっておくべきと、もうひとつたまをつくります。
いよいよ妖怪退治にいこうとすると、どこからか「いかないでくろ いかないでくろ」というかぼそい女の声。
子猫は若者をいかせまいと、ふるえながら足元にすがりつき、それから、かなしそうにみをくねらせて、すうっと姿をけしてしまいます。
若者が、山の奥へと、のぼっていくと、そこに炎のように燃える二つの目をもった耳までくちのさけた猫また。
若者が一発、二発、三発、四発とうっても猫またはたおれません。
「たまはなくなったなあ、ニャーゴ」と、ひくいうなり声をあげた猫またに、おらのねこでねえのかと若者は一瞬ひるみますが、「ゆるしてくれろ」と、最後の五発目をうつと・・。
さらわれた奥方がぶじにもどって、若者はほうびをどっさりもらいますが、猫の声がずっとのこっていた若者はそれっきりどこかへきえてしまいます。
若者は、子猫のためにも妖怪を退治しようとするのですが、その思いがつうじませんでした。
猫または、自分の居場所を確保したかっただけなのかも。
「天にのぼった若者」は、雷よけに桑の木を家の戸口にさしておくようになったいわれ。
「大杉とむすめ」は、大杉の精と野に咲く花のような いとしげなむすめとの悲恋物語。
「おいなりさまの田んぼ」は、キツネの報恩談です。
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