やさかの昔話/吉津の穴地蔵/芦田行雄・文 辰巳雅章・絵/あまのはしだて出版/1990年
本を一冊もつくったことのないという著者が、昔話を聞いて、おおぜいの協力者とともに作ったという思いのこもった絵本です。
やさか弁でかかれているのですが、切り絵とあわせて昔話はやっぱりこうしたリズムでないと味がでないとおもわされました。
としよりが「とっしょり」
動かないが「動かんだけな」
舟が動かないが「舟がうごかんだけな」
ちがいないが「ちぎゃあ にゃあ」
などなど。
凪の日で、漁に出ても舟が動かなくなっって何もとらんで戻る日がつづいていた漁師。
何日もつづくので、村中の漁師が総出で海に行ってみると金剛童子(山の名前)のあたりに光るものが。
山へ出かけ、みんなで地べたを どづいとったら、目のくらむほど光ったもんが すうっときえて、お地蔵さんがたっとんなるだげな。
お地蔵さんには悪いけど、このままだと漁がでけんようになると、お地蔵さんを土の中へ。、
あくる日からは、大漁がつづき、どの漁師も分限者になっただてえなあ。
それから何年もたって、お地蔵さんを土にうめたことなどひとりも知っとるものがおらんようになった、ある年、吉津に悪い病がはやり、どの家にも あした死ぬかわからんような病人があるだけ。
「拝み屋」に頼んでおがんでもらおうと、拝み屋のところに行くと、穴のなかにお地蔵さんが埋まっていて、早あこと、外にでてやあ でてやあ いうとんなる というので、みんなで地蔵さんを掘り出そうとでかけていきます。
お地蔵さんを土に埋めるとき、村人は、じばん、手ぬぐい、半天を着せてあげて、「こりゃあとくれ」と丁寧におがみます。
拝み屋というのもはじめてであう表現です。
人、海、山の風景、舟、家 どれも印象深いのですが、裏表紙にある喜怒哀楽の表情をしたお地蔵さんも楽しい切り絵です。ところどころに影絵のような人物がでてくるのも効果的です。