空のかけらをいれてやいたパイ/しずくの首飾り/ジョーン・エイキン・作 猪熊葉子・訳/岩波少年文庫/2019年
冬のある日、おばあさんは、おじいさんから「あつあつのおいしいアップル・パイをやいてくれないか」といわれ、アップル・パイをつくりだしました。
ねり粉をのしているとき、おばあさんがながめていた空のかけらがパイ皮の中に入ってしまいました。
いよいよかまどから、パイをとりだそうとすると、パイが部屋のなかにうかびます。おばあさんとおじいさんがとめようとすると、空中にただようパイは、ドアから家の外にでていきます。
ふたりはパイをとめようと、とびのります。それでもかるいパイはふたりをのせたまま、しろい雪のふりしきる空へとのぼっていきます。
「とめておくれ、わたしたちをとめておくれ!」と、ふたりはさけびますが、ここから白黒ぶちのネコ、燃料のきれかけた飛行機の飛行士、とびかたをわすれてしまったアヒル、山のてっぺんで、下におりる道をわすれたヤギ、自分の国にかえりたくてしかたがないゾウをのせて、寒い国からあたたかいところへ、すすんでいきます。
パイがさめて、だんだん低くとぶようになり、緑の木があって花もたくさんある島におりようとしますが、そこには大きな看板に「駐パイおことわり」の文字。
もう一つの島にも「駐パイおことわり」の看板。
そしてパイは、とうとう海に落ちて、水の上にうかびました。
「やあ、これでだいじょうぶ。わしらのパイが、ちょうどいい島になってくれたぞ」と、おじいさん。
「水がないじゃありませんか、花もない。なにをたべて、なにをのむつもりです?」と、おばあさん。
でも、まもなくりっぱなリンゴの木がはえ、木には緑の葉がしげり、ヤギがおちちをくれ、アヒルはたまごをうみました。ネコは海の魚をとり、ゾウは長い花でリンゴをもいでくれます。
それでみんなは幸せにこの島でくらし、もう、もとの家にはかえりませんでした。
ジョーン・エイキン(1924-2004)はイギリスの作家。
パイが空をとび、その上にいろいろなものが のるという楽しいフアンタジーです。のるまでのやりとりも軽妙で「駐パイおことわり」も絶妙です。