どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

埋められることのない穴

2024年09月06日 | 創作(外国)

   話はめぐる/聞き手から語り手へ/ナショナル・ストーリーテリング保存育成協会・編 佐藤涼子・訳/リブリオ出版/1999年

 

 怪談ですが、歴史の裏側が知れて興味深い話。ときは、アメリカ南北戦争のころ。


 南軍に従事していた牧師のスケトウの妻が重い病気になった。スケトウは三年ものあいだ、戦場で勇敢に戦っていたが、スケトウは、スペインからやってきた移民の子で、面倒を見てくれる親戚がなかった。

 当時、個人的な急用で、自分の代わりを勤めてもらう兵を雇い、代わりの人に戦ってもらうのは、当時の南軍の兵士たちにとってはごく当たり前のこと。ただ兵を頼む費用は自分持ちで、たいそうな額だった。

 妻のもとにいたセケトウでしたが、南軍が劣勢になり、彼が外国人だと知っている者たちは、裏切り者ではないかとあやしみはじめた人たちがいた。国防義勇軍を名乗っていたグループが、彼を脱走兵として罰を下す計画を立てた。投げ縄を彼の首にかけ、かわるがわる殴りつけて砂の中を引きずりまわし、大きなカシの木のつきでた枝につるそうとした。ところが計画をあわててたてたので、背の高さや大きさについては、じゅうぶんに考えられていなかった。ロープがゆわえられた枝がスケトウの重さでしなり、つま先が地面についた。ひとりが足の下の砂地に穴を掘った。つま先が地面から離れ、スケトウの身体がロープからぶらさがった。おぞましい仕事はおわった。

 その後、彼を縛り首にした六人の男は、つぎつぎにおかしな死に方をした。

 首吊りがおこなわれたあとで、物見高い人々が悲劇の場所にやってくるようになった。ときがたつにつれて、木の下にあった穴は、普通の穴のように埋まっていかないことに気がついた。何年かして川に橋をかけようとやってきた二人の男が、穴を埋め、その上にテントを張った。翌朝、テントをかたづけると、埋めたはずの穴がちゃんとそこにあった。

 

 個人で代わりの兵をさがすのにもびっくりですが、正義の自警団よろしく、事情のある人にリンチをくわえるというのも、集団の怖さです。
 国防義勇兵は、ほかの男たちが戦っているときに、家でぬくぬくしていられるための集まりだと批判する者たちがいる一方、年をとったり、身体が弱いのだから、かれらなりに南軍に貢献できる活動をしていると擁護する人もいたという。


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