どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

しんせつな地主さん

2019年04月05日 | ファージョン

      天国を出てゆく/ファージョン・作 石井桃子・訳/岩波少年文庫/2001年


 はじめは、子どもチイジェインの一言でした。
 「この子、一ペニーなくしたんだよ。」
 金というものは、人にやるためのものではないと思っていたチャードンでしたが、自分でも驚きながら、その子に一ペニーをやりました。

 浮浪人に食い物とほかのもの。学校の遠足に一シリング。
 そのあとはチイジェインのパーテイに村の子どもをよんで三ポンド。

 チイジェインは村中の家にすきなように出入りしていましたが、これが次のはじまりでした。

 雨漏りがする家は修理し、母親が病気でねていて食べるものがない人には、治療と食べ物を、ハゲタカにニワトリを二羽殺されたジェニングズにはニワトリを二羽。チャードンは人の苦しみをたすけてやります。

 村中でチャードンに何かしてもらわなかった者はひとりもいなくなり、チイジェインとおなじように、かわいた屋根の下にねむり、あたたかいベッドにねむり、十分な土地をもち、自分の種をもつようになりました。

 チャードンは、焼け落ちた子ども病院の再建のため、じっさいの値打ちよりもやすくたたかれ、製粉所を売り払います。
 ボーンマーケット町にある店を競売で売り、最後の持ち株を売り、宿屋も、ほかの男の手にわたってしまいます。

 すべてをなくしたチャードンは、チイジェインと山の小屋にすみはじめます。
 そして自分の体がまいりかけているとさとったチャードンは、残されるであろうチイジェインのために孤児院に残された財産を寄付し、畑の作男として、働きに出ます。

 そんなある日、人々の差し入れで暮らしていたチャードンは息を引き取ります。

 孤児となったチイジェインでしたが、村の人は孤児院にやるより、自分たちで育てることにします。

 強欲なチャードンがすべての財産を村の人のためにつかうのは、後半部分。

 前半は、チャードンという人物が描かれています。

 地所もちの百姓チャードンは、広い農地や多くの家畜を所有し、町の店や村の宿屋や製粉所を経営していて、村の人でひどい目にあわされなかったひとりもないというくらい。
  畑で働いた人間はいちばんやすい賃金でこきつかわれ、教会や日曜学校に寄付をしたこともありません。
 やすい賃金でつかえる作男がみつかると、いままでの作男は、いいがかりのような口実で追い出され、落ち穂を拾うものは畑よりおいだされ、こじきは戸口からおいたてられました。
 年々チャードンはたくさんのお金をためこみ、土地や家畜をふやしますが、村の野菜畑はちぢこまり、家の修理はなおざりにされ、子どもはおなかをすかして出歩くようになって、村はおとろえます。

 しかし、チャードンの心に焼き付いていたのは作男ウィルを追い出したときにいわれた一言。
「おめえやおめえの身内」

 一人者のチャードンはある日、父親の具合がわるくなって市場に牛を売りに来ていた貧しい娘ジェインに一目惚れし、彼女が他人に売った牛を買い戻して彼女の元にタダで返してやるという、今までしたことのないような行いをします。ジェインにとってチャードンは「しんせつなひと」だったのです。

 ジェインの父親が死ぬと、二人は結婚します。

 チャードンは家の外ではいつもの通りでしたが、ジェインに「なんてあなたはしんせつなの」と思わせるには、野イチゴをつむといったお金のかからないことでもジェインにそういわせることができました。

 ところがジェインはむすめをうんで死んでしまいます。ジェインは、チャードンをしんせつという言葉以外でよんだことはありませんでした。

 チャードンはむすめに母親にジェイン・フラワーと名前をつけます。けれどもよぶときは、いつも「小さいジェイン」とよんでいました。そして2,3年たつと、この子は「チイジェイン」で通用するようになります。

 赤ん坊は、チャードンを「おとう」とよぶようなり、新しいことばもとびだしてきます。
 「いいおとう!」というチイジェインの言葉を聞いて、チャードンの胸はドキンとおどります。

 チャードンは、「いいおとう!」ということばをいわせようと、おもちゃを買ったり、鳥の巣をみせるとかあれやこれやをするようになります。

 そんなある日、チャードンはモリーの子に一ペンスやることになったのです。

 はじめはジェインもお金で買えると思ったチャードンが、六月のバラのような笑顔をうかべるジェインにひかれたことが、すべての出発点でした。


 ファージョンの作品は、「小さいお嬢様のバラ」「ボタンインコ」など、語られることも多いのですが、この作品は一時間弱はかかりそうですから、語る方もいないと思ったら、あるグループのおはなしのリストのなかに、はいっていました。
 情報があれば、なにはともかく聞いてみたい話です。


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