どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

どろぼう・・久米正雄

2024年04月01日 | 創作(日本)

        赤い鳥代表作集1/小峰書店/1998年

 

 おなじような外国の昔話がありましたが、結びが楽しい。

 ある村の貧乏な商人が、よその土地で財を成し、泥棒にあうことを恐れ、お金を宝石に変え、わざときたならしい着物を着て、宝石を入れた小箱をもって自分の村から三十里ほどはなれたある土地につきました。生まれ故郷で、ゆっくり一生をおくりたいと思ったのでした。

 この町で、立派な品物を売っている店で、少しの買い物をして、世間話をしていると、村へ帰る途中には、近頃泥棒が出るので、大事なものをもっていては大変ですよと言われました。思わず小箱に、着物の上から手を当てた商人は、むざむざこれを盗まれては大変と、とっさにかんがえ、小箱を預かってもらうように頼み込みました。間違いがあると困るからあずかれないと店の主人は断りました。村の若い者十人ばかりつきそいにやとってきますから、二、三日だからと頼み込むと、店の主人は、すぐにとりにきてくださるでしょうねと、ねんをおしました。

 商人は強い若者八、九人やとって町へひきかえし、あずけたれいの小箱をかえしてほしいというと、店の主人のこたえは、びっくりするものでした。「おまえはだれだい。あれとはなんだい。」とまったく取り合おうとしません。言い合いになると、近所の店からおおぜいがかけつけてきて、商人を店から往来へひきだして、ところきらわず、けったりなぐったりしてしまいました。この店はどろぼうの店で、近所の店も同類でした。

 商人を救ってくれたのは通りがかりの道楽者の若い人。医者もよび、きれいな部屋で介抱もしてくれました。

 それから何日かたって、商人がもう自由に足もきくようになると、道楽者の若主人が、れいのどろぼうの家の塀にかくれ、駕篭の中の女が手招きしたら、泥棒の家にはいって、「宝石を入れた箱をいただきにあがりました」というようにいいます。

 それから若主人は、貴婦人の格好をした女を駕篭にのせ、どろぼうの店で箱を取り出しました。そして、「あの駕篭に乗っているのは、私の身内の家内ですが、夫が不意に急用でひきかえしたものですから、女一人旅では途中が危険なので、どこかにあずけていこうというのです。この中には金銀、いろんな髪飾りなどがいっぱいはいっているのですが、こんなたくさんの金目のものをめったなところへ預けるにもいかず、ひどく困っているところです。ひとつあなたの家へ」というと、どろぼうは、それはこまると断ります。しかし心の中では、この前のようなケチな獲物と違って、すばらしい、こいつはしめたと思っていたのです。

 「とくべつにおあずかりしましょう」と、どろぼうがいうと、駕篭の中の女は商人を手招きしました。商人はすぐに「このあいだあずけた、宝石を入れた小箱をいただきにあがったんですが」といいます。どろぼうは、ここであずかったあずからないと言い争うと、肝心な若主人が、せっかくあずけようとしているものをひっこめるとたいへんだ。これは、こいつの少しばかりの宝石にはかえられないと思い、すぐにこのあいだうばいとった小箱を商人にかえしました。すると若主人は、往来をのぞいて、「おや、あすこに夫の人が帰ってきた。せっかくお願いしましたが、もう夫がきたからようござんす」ともってきた箱を駕篭の中におさめると、往来の真ん中で商人といっしょに踊りだしました。

 どろぼうは、うまくかつがれたといいながら、これも往来にとびだして、いっしょにおどりだしました。若主人が、「おやおや、おまえはなんでおどるのだい」と、どろぼうにいうと、どろぼうはいいかえしました。

 「おれはこれまで、相手を信用したようにみせかけて、それでうまくだます法を十三知っていた。もうそのほかにはいい法がないと思っていたが、いまお前から習って十四になった。だからゆかいでおどるのさ。」といい、またくるくるおどりだしました。


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