どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

花さき山

2013年09月21日 | 絵本(日本)
花さき山  

     花さき山/斎藤隆介・作 滝平二郎・絵/岩崎書店/1984年第63刷


 斎藤隆介、滝平二郎の二人の作品は、作者の意図がストレートに伝わってきて、何度読んでもやさしくせまるものがあります。
 
 全文を写してみると、文章や絵のすみずみにまでこまかい配慮がされていることもよくわかりました。

おどろくんでない。
おらは この山に ひとりで すんでいる
ばばだ。山ンばと いうものも おる。
山ンばは、わるさを すると いうものも
おるが、それは うそだ。
おらは なんにもしない。
おくびょうな やつが、山ンなかで
しらがの おらを みて かってに
あわてる。
そしては べんとうを わすれたり、
あわてて 谷さ おちたり、
それが みんな おらの せいになる。
あや。おまえは たった十の おなゴわらし
だども、しっかりもんだから、
おらなんど おっかなくはねえべ。
ああ、おらは、なんでも しってる。
おまえの なまえも、
おまえが なして こんな おくまで
のぼって きたかも。
もうじき 祭りで、祭りの ごっつぉうの
煮しめの 山菜を とりに きたんだべ。
ふき、わらび、みず、ぜんまい。
あいつを あぶらげと いっしょに 煮ると
うめえからなァ。
ところが おまえ、おくへ おくへと
きすぎて、みちに まよって
この山さ はいってしまった。
したらば、ここに こんなにいちめんの花。
いままで みたこともねぇ 花が さいているので、
ドデンしてるんだべ。
な、あたったべ。
この花が、なして こんなに きれいだか、
なして こうしてさくのだか、
そのわけを、あや、おめえは しらねえべ。
それは こうした わけだしゃ・・・。
この花は、ふもとの 村の
にんげんが、
やさしいことを ひとつすると
ひとつさく。
あや、おまえのあしもとに
さいている 赤い花、
それは おまえが
きのう さかせた 花だ。
きのう、いもうとの そよが、
「おらサも、みんなのように
祭りの 赤い ベベ かってけれ」
って、あしを ドデバタして
ないて おっかあを こまらせたとき、
おまえはいったべ、
「おっかあ おらは いらねえから、
そよさ、かってやれ」
そう いったとき、その花が さいた。
おまえは いえがびんぼうで、
ふたりに 祭り着を
かって もらえねぇことを
しってたから、
じぶんは しんぼうした。
おっかあは、どんなに たすかったか!
そよはどんなによろこんだか!
おまえは せつなかったべ。
だども、この 赤い花が さいた。
この 赤い花は、どんな 祭り着の 花もようよりも
きれいだべ。
ここの 花は みんな こうして さく。
ソレ そこに、つゆを のせて さきかけて きた
ちいさい 青い花が あるべ。
それは ちっぽけな、ふたごの あかンぼうの
うえの子のほうが、
いま さかせているものだ。
きょうだい といっても、おんなしときの
わずかな あとさきで うまれたものが、
じぶんは あんちゃんだと おもって
じっと しんぼう している。
おとうとは、おっかあの かたっぽうの
おっぱいを ウクンウクンと のみながら、
もう かたほうの おっぱいも
かたかっぽうの手で いじくっていて はなさない。
うえの子は それを じっと みて
あんちゃんだから しんぼう している。
目に いっぱい なみだを ためて・・・。
その なみだが そのつゆだ。
この 花さき山 いちめんの 花は、
みんな こうして さいたんだ。
つらいのを しんぼうして、
じぶんことより ひとのことを おもって
なみだを いっぱい ためて しんぼうすると、
その やさしさと、けなげさが、
こうして 花になって、さきだすのだ。
花ばかりではねえ。
この 山だって、
この むこうの みねつづきの 山だって、
ひとりずつの おとこが、
いのちを すてて やさしいことを
したときに うまれたんだ。
この 山は 八郎っていう 山おとこが、
八郎潟に しずんで 高波を ふせいで
村を まもったときに うまれた。
あっちの 山は、三コっていう 大おとこが、
山かじに なったオイダラ山サ かぶさって、
村や 林が もえるのを ふせいで
やけしんだときに できたのだ。
やさしいことを すれば 花がさく。
いのちを かけて すれば 山が うまれる。
うそでは ない、ほんとうの ことだ…。
あやは、山から かえって、
おとうや おっかあや、みんなに
山ンばから きいた この はなしを した。
しかし、だァれも わらって ほんとうには
しなかった。
「山サいって、ゆめでも みてきたんだべ」
「きつねに ばかされたんでねえか。
そんな 山や 花はみたこともねえ」
みんな そういった。
そこで あやは、また ひとりで
山へ いってみた。
しかし、こんどは 山ンばには
あわなかったし、
あの 花も みなかったし、
花さき山も みつからなかった。
けれども あやは、そのあと ときどき、
「あっ!いま花さき山で、
おらの 花が さいてるな」
って おもうことが あった。


 山ンばの方言をまじえた語り口が、なんともやさしくせまってきます。

 絵本ナビに、子育てセミナーの講師の保育士時代のエピソードが紹介されていました。
 すごく物静かで目立たないある園児・Kちゃん。でもKちゃんはお友達が脱ぎ散らかしたスリッパをさり気なくそろえてあげるような優しい子だということを先生はある日気付きます。
 そのまま褒めてあげてもいいけれど、この『花さき山』を読み聞かせした後に Kちゃんの優しさをみんなの前で発表しました。それからはKちゃんは、しきりに先生の元に読み聞かせとなれば『花さき山』を持ってきます。
 家でもボロボロになるほど読んでいるそうで、卒園の日、Kちゃんのお母さんにお礼を言われたそうです。「ステキな絵本との出会いをさせていただいてありがとうございます。娘は自分の花が花さき山に咲いてるよという先生の言葉がとても嬉しかったと言っています」。
 
 この子にとって、この保育士の一言はずっと生きていくでしょう。こんな積み重ねがあれば、いじめなどはなくなっていくのではないでしょうか。


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