カリグラフィー

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水泳、好きな事、好きなもの、こもれび山崎温水プールについて

涙の薬

2009-10-01 20:30:14 | いろいろ

母は、だんだん全身に力が入らなくなっていた。
元気な頃は、75歳になっても私なんかより歩くのも早く、
階段を上り下りする音も、我が家では一番きれいな
タタタタタッという足音だった。

それが、だんだん足音さえたたぬほど
ゆっくりそろそろ歩きになっていた。

そして、徐々に自分では起立できなくなり
介助が必要になった。

ある日、夜中にトイレに行った母が、
立ち上がれなくなってしまった。

翌日、私は母を説得し、介助ベットを手配し、
訪問看護を依頼。
診察も、訪問診療に切り替えた。

怖くて見て見ぬふりをしたかった母の足が、
また象のようにむくみだしたことは気付いていた。

母が、自分の体の異変に気付いたのも
足のむくみだった。

本当は、何も治療ができないので退院させたのだが、
それでも母の足のむくみはなくなり、とても元気になった頃があった。

むくみのとれた自分の足を見て、
「力もついてきたし、だんだん良くなってきている」
と言っていた母。

しかし、自分の体が回復していかないことと、
照らし合わせるようにむくんだ足を黙ってみていた。

私は、ベットに寝たまま自分では動けなくなってしまった母の
後ろで、声だけを殺し泣いていた。

床にぽとりと落ちた涙が、
薬になることを祈った。

そして涙をぬぐった手で、母の足にふれ眠りについた。

翌日・・・
「昨日より、足のむくみが良くなっているみたい」
と訪問看護に来てくれた看護士さんは言った。