母は、だんだん全身に力が入らなくなっていた。
元気な頃は、75歳になっても私なんかより歩くのも早く、
階段を上り下りする音も、我が家では一番きれいな
タタタタタッという足音だった。
それが、だんだん足音さえたたぬほど
ゆっくりそろそろ歩きになっていた。
そして、徐々に自分では起立できなくなり
介助が必要になった。
ある日、夜中にトイレに行った母が、
立ち上がれなくなってしまった。
翌日、私は母を説得し、介助ベットを手配し、
訪問看護を依頼。
診察も、訪問診療に切り替えた。
怖くて見て見ぬふりをしたかった母の足が、
また象のようにむくみだしたことは気付いていた。
母が、自分の体の異変に気付いたのも
足のむくみだった。
本当は、何も治療ができないので退院させたのだが、
それでも母の足のむくみはなくなり、とても元気になった頃があった。
むくみのとれた自分の足を見て、
「力もついてきたし、だんだん良くなってきている」
と言っていた母。
しかし、自分の体が回復していかないことと、
照らし合わせるようにむくんだ足を黙ってみていた。
私は、ベットに寝たまま自分では動けなくなってしまった母の
後ろで、声だけを殺し泣いていた。
床にぽとりと落ちた涙が、
薬になることを祈った。
そして涙をぬぐった手で、母の足にふれ眠りについた。
翌日・・・
「昨日より、足のむくみが良くなっているみたい」
と訪問看護に来てくれた看護士さんは言った。