厚生労働省検疫所 発表
2014年3月 WHO文書 (原文〔英語〕へのリンク)
要点
●エボラウイルスは、ヒトでのエボラウイルス疾患(EVD;以前はエボラ出血熱と呼ばれていました)を起こします。
●EVDのアウトブレイクでは、致死率は90%にもなります。
●EVDのアウトブレイクは、主に、アフリカの中部と西部の熱帯雨林に近い僻村で発生します。
●ウイルスは野生動物からヒトに感染し、ヒト-ヒト感染によって広がります。
●オオコウモリ科のコウモリがエボラウイルスの自然宿主であると考えられています。
●ヒトにも、動物にも、特異的な治療やワクチンはありません。
エボラウイルスは、ヒトにエボラウイルス疾患(EVD)を起こし、致死率は90%にもなります。エボラは、1976年の同時期に、スーダンのンザラとコンゴ民主共和国のヤンブクの2か所で初めて発生しました。後者は、エボラ川の近くの村で発生し、疾患名は川の名前にちなんで名づけられました。
エボラウイルス属は、マールブルグウイルス属、クウェバウイルス(Cuevavirus)属、エボラウイルス属からなるフィロウイルス科の1属で、5種が含まれます。
・ブンディブギョ エボラウイルス(BDBV)
・ザイール エボラウイルス(EBOV)
・レストン エボラウイルス(RESTV)
・スーダン エボラウイルス(SUDV)
・タイフォレスト エボラウイルス(TAFV)
BDBV、EBOV、SUDVの3種は、アフリカで、エボラ出血熱の大きなアウトブレイクを起こしてきました。一方で、RESTVとTAFVでは、これまで大きなアウトブレイクは起きていません。RESTVはフィリピンと中国で発見されており、ヒトに感染しますが、これまでのところ、発症者や死亡者は報告されていません。
感染経路
エボラは、感染した動物の血液、分泌液、臓器、その他の体液に濃厚接触することにより感染します。アフリカでは、熱帯雨林の中で発見された、感染して発症または死亡したチンパンジー、ゴリラ、オオコウモリ、サル、森林に生息するレイヨウ、ヤマアラシを扱ったことによって感染した事例が記録されています。
その後、感染したヒトの血液、分泌物、臓器、その他の体液に直接接触することにより、またそのような体液などで汚染された環境への間接的な暴露でヒト-ヒト感染が起こり、地域での感染が拡大します。会葬者が死亡者の身体に直接触る葬儀も、エボラ出血熱の感染伝播の一因となります。感染者が回復した後、7週間は精液からの感染が起こることがあります。
ヘルスケアワーカーが、EVDの確定又は疑い患者を治療する際にしばしば感染しました。これは、感染予防対策が適切に行われずに濃厚接触したことによって起こりました。
RESTVに感染したサルやブタと接触のあった労働者で、数人の感染例が記録されていますが、症状はありませんでした。このように、RESTVは、他のエボラウイルスに比べて、ヒトに病気を起こしにくいと考えられています。
しかし、その報告は健康な成人男性に限られたものです。免疫不全の人、基礎疾患を持つ人、妊婦、小児などのすべての人について、ウイルスが感染することによる健康上の影響を結論づけるには時期尚早です。RESTVのヒトに対する病原性や病毒性について、最終的な結論に達するまでには、更なる研究が必要です。
症状と所見
EVDは、急性のウイルス性疾患で、しばしば、発熱、激しい衰弱、筋肉痛、頭痛、咽頭痛が突然現れることが特徴です。これらの症状に続いて、嘔吐、下痢、発疹、腎障害、肝機能障害がみられ、内出血と外出血がみられることもあります。検査所見では、白血球の減少、血小板の減少、肝臓の酵素の上昇がみられます。
感染したヒトの血液や分泌物にウイルスが存在する間は、他のヒトに感染する可能性があります。エボラウイルスは、実験室で感染した事例で、発症から61日目まで精液からエボラウイルスが分離された事例があります。
潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。
診断
マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウイルス性出血熱との鑑別診断が必要です。
エボラウイルス感染の確定診断をつけられるのは、研究所で実施される、数種類の検査のみです。その検査方法は以下の通りです
・酵素免疫測定(ELISA)法
・抗原検出法
・血清中和試験
・逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法
・細胞培養によるウイルス分離
患者から採取した検体は、バイオハザードリスクが非常に高く、バイオセーフティーレベルが最も高い環境下でのみ取り扱うべきです。
予防と治療
EVDに対するワクチンはありません。数種類のワクチンの試験が行われていますが、実用化はされていません。
重症例に対しては、集中的な支持療法が必要です。患者は、しばしば脱水症状を起こし、電解質を含んだ輸液や経口補水液の投与が必要です。
エボラ出血熱に対する特定的な治療は、まだありません。新しい薬物療法について現在評価が行われています。
エボラウイルスの自然宿主
アフリカでは、オオコウモリ科の、特にウマヅラコウモリ(Hypsignathus monstrosus)、フランケオナシケンショウコウモリ(Epomops franqueti)、コクビワフルーツコウモリ(Myonycteris torquata)がエボラウイルスの自然宿主と考えられています。結果として、エボラウイルスの地理的分布は、オオコウモリの生息域に重なると考えられています。
動物のエボラウイルス
ヒト以外の霊長類が人の感染源になっていますが、その霊長類がウイルスの保有宿主なのではなく、むしろ、人間と同様に偶発的に宿主になったと考えられています。1994年以降、EBOVとTAFVによるアウトブレイクでは、チンパンジーとゴリラの感染がみられました。
RESTVは、1989年、1990年、1996年に、フィリピンで飼育され、米国に輸入されたマカクサル(カニクイザル)で重症のEVDのアウトブレイクが起こりました。また、1992年には、フィリピンからイタリアに輸入されたサルで発生しました。
2008年以降、RESTVは、フィリピンや中国のブタで致死的な疾患の集団発生を起こしています。ブタでは無症候性感染も報告されており、ブタは、実験的なウイルス接種では発症しない傾向にあります。
予防
●家畜でのレストンエボラウイルスのコントロール
動物に使用できる、エボラレストンウイルスに対するワクチンがありません。ブタやサルの飼育場の日常的な清掃と消毒(次亜塩素酸ナトリウムや他の洗剤による)がウイルスの失活化に有効と考えられています。
アウトブレイクが疑われた場合には、すぐに建物を隔離すべきです。動物からヒトへの感染リスクを減らすために、死体の埋火葬を厳密に管理して、動物の殺処分が必要になることがあります。感染した動物が発見された農場の動物を他の地域に移動することを制限したり、禁止したりすることで、疾患の拡大を抑えることができます。
ブタとサルのレストンエボラウイルスのアウトブレイクは、ヒトの感染に先行してきたので、獣医とヒトの公衆衛生当局に早期警報を提供するためには、新しい事例を発見するための積極的な動物健康監視システムの設立が欠かせません。
●人でのエボラウイルス感染のリスクの減少
エボラ出血熱に対して、有効な治療法や人に使用できるワクチンがないので、ヒトでの感染と死亡を減らすためには、エボラウイルスに感染する危険因子の認識の向上と個人ができる予防対策を行うことしかできません。
アフリカでは、エボラ出血熱のアウトブレイクが発生している間、リスクを減らすために、公衆衛生学的な啓発メッセージはいくつかの要因に焦点があてられるべきです。
・感染したオオコウモリやサルとの接触や、生肉を食べることによる、野生動物からヒトへの感染リスクの減少。動物は、手袋や、その他の適切な防護服を着用して取り扱うべきです。その産物(血と肉)は、食べる前に完全に加熱調理すべきです。
・感染した患者、特に患者の体液に直接または濃厚接触したヒトに感染者が発生している地域における、ヒトからヒトへの感染リスクの減少。エボラ出血熱の患者との身体的な濃厚接触は避けるべきです。自宅で病気の患者の世話をする時には、手袋や適切な個人防護具を着用するべきです。自宅で病気の患者の世話をした後と同様、病院に病気の親類を見舞った後にも、常に手洗いが必要です。
・エボラ出血熱が発生している地域では、住民に、病気の性質や、死体の埋葬を含むアウトブレイクを封じ込めるための対策を伝えるべきです。エボラ出血熱の死亡者は、迅速かつ安全に埋葬すべきです。
アフリカの養豚場には、オオコウモリがいるので、感染の増幅の役割を果たします。伝播を止めるためには適切なバイオセキュリティ対策が実施されるべきです。
RESTVについての公衆衛生学的な啓発メッセージは、危険な畜産やと殺方法、危険な鮮血、生乳、動物の組織の飲食の結果として起こる、ブタからヒトへの感染リスクを減らすことに焦点があてられるべきです。病気にかかった動物や、その組織を扱う時や、動物をと殺する時には、手袋や、その他の適切な防護服を着用するべきです。これまでに、ブタで、レストンエボラウイルスの感染事例が報告・検出された地域では、すべての動物の製品(血、肉、乳)は、飲食する前に、完全に加熱調理すべきです。
●医療機関での感染予防
エボラウイルスのヒトからヒトへの感染は、主に、血液や体液への直接接触と関連します。適切な感染予防対策が取られていなかった医療従事者の感染が報告されています。
EBVに感染した初期の患者は、初発症状が非特異的であるかもしれないので、確定するのは必ずしも可能ではありません。そのためヘルスケアワーカーは、診断名にかかわらず、すべての患者に対し常に標準予防策を取ることが重要です。基本的な手指衛生や呼吸衛生(マスク)、個人防護具の使用(感染物との接触や飛散のリスクに対応するため)、安全な注射手技、安全な埋葬方法が含まれます。
エボラウイルス(EBV)に感染したと確定された患者や、その疑いのある患者の診療をするヘルスケアワーカーは、患者の血液や体液からの感染や、汚染された可能性のある環境に直接接触することによる感染を防ぐために感染予防策を実施すべきです。ヘルスケアワーカーがEBV感染患者と濃厚接触(1m以内)する場合、清潔な未滅菌長袖ガウンと手袋(必要な場合は滅菌済み)を着用すべきです。
検査施設の勤務者もリスクはあります。エボラウイルス感染が疑われるヒトや動物から、診断のために採取された検体は、トレーニングを受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で処理すべきです。
WHOの対応
WHOは、疾患の調査や感染拡大防止を支援するために、専門的な知識や文書を提供することによって、過去のすべてのエボラ出血熱のアウトブレイクに関わってきました。
エボラ出血熱と確定された患者や疑いのある患者を診療する際に推奨する感染予防法は、2008年3月の「フィロウイルスによる出血熱(エボラ、マールブルグ)と確定された患者や、その疑いのある患者を診療する際に、暫定的に推奨する感染予防法(Interim infection control recommendations for care of patients with suspected or confirmed Filovirus (Ebola, Marburg) haemorrhagic fever)」の中で示しています。これは現在改訂中です。
WHOは、医療における標準予防策に関する覚書を作成しました(現在改訂中)。標準予防策は、血液に由来する感染や、他の病原体による感染のリスクを減らすためのものです。標準予防策が、常に実施されていれば、血液や体液からの感染のほとんどが予防できると考えられます。
標準予防策は、感染状況にかかわらず、すべての患者の医療に推奨されます。標準予防策には、基本的な感染予防方法が含まれ、手指衛生、血液や体液との直接接触を避けるために個人防護具の使用、針刺しや鋭利な医療器具による傷の予防、環境管理が含まれます。
出典
WHO Ebola virus disease Fact sheet March 2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/index.html
エボラウイルス疾患:背景とサマリー
2014年3月 WHO文書 (原文〔英語〕へのリンク)
WHOは、エボラウイルス疾患(EVD;以前はエボラ出血熱と呼ばれていました)の流行発生に対応して各国政府を支援しています。現在流行の原因はザイールエボラウイルスと非常に相同性の高い(98%)エボラウイルス株によるものと確定されています。これは西アフリカでこの疾患が確認された最初の事例です。初発症例はギニア南東部で報告されました。すぐに流行が始まりいくつかの地区とコナクリでEVD患者と死亡者が報告されました。少数の疑い症例と死亡者が近隣国でも報告され、その全員がギニアへの渡航歴がありました。確定症例はギニアとリベリアから報告されています。
最新の疑い症例、確定症例、死亡者についての報告はホームページを参照してください。(参照:http://www.who.int/csr/don/en/ )
エボラウイルス属はフィロウイルス科3属の中の一つで、フィロウイルス科には他にマールブルグウイルス属、クウェバウイルス属があります。エボラウイルス属には5種が属しています。ブンディブギョエボラウイルス(BDBV)、ザイールエボラウイルス(EBOV)、レストンエボラウイルス(RESTV)、スーダンエボラウイルス(SUDV)、タイフォレストエボラウイルス(TAFV)。BDBV、EBOV、SUDVの3種は、アフリカで、エボラ出血熱の大きなアウトブレイクを起こしてきました。一方で、RESTVとTAFVでは、これまで大きなアウトブレイクは起きていません。今回の流行の患者から採取された検体でEBOVが陽性になりました。
アフリカではオオコウモリがエボラウイルスの自然宿主と考えられています。ウイルスは野生動物から感染したオオコウモリと接触したヒトへ伝播されるか、コウモリの唾液や糞との接触で感染したサル、チンパンジーやゴリラ、ブタを介してヒトへ伝搬されます。
感染した動物をする過程や血液、ミルク、生肉、半調理肉を摂取したりすることでヒトへ感染する可能性があります。
そして感染したヒトの血液、分泌物、他の体液に直接接触したり、汚染された注射針や環境中の他の物品と接触したりすることでヒトからヒトへ伝搬されます。
EVDは致死率が90%にもなりますが、重症の急性ウイルス性疾患で、しばしば急に発症し、極端な衰弱、筋肉痛、頭痛、吐き気や咽頭痛がみられます。その後、嘔吐、下痢、肝や腎機能不全がみられ、一部では内出血、外部出血がみられます。検査データではしばしば白血球や血小板減少、肝酵素の上昇が認められます。
ウイルスの感染から発症までの潜伏期間は、2日から21日です。感染したヒトの血液や分泌物にウイルスが存在する間は、他のヒトに感染する可能性があり、発症後61日間にもわたったという報告があります。
EVDの診断を考えるとき、他のもっとよくある疾患を見落としてはいけません;例えば、マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウイルス性出血熱です。
EVDの確定診断は検査室での検査によってなされます。患者検体は感染源としてのリスクが高いので、検査は生物学的封じ込めの最大の環境下で行われます。
ワクチンも、特異的な治療法もありません。重症例に対しては、集中的な支持療法が必要です。患者は、しばしば脱水症状を起こし、電解質を含んだ輸液や経口補水液の投与が必要です。
ヒトでの感染と死亡を減らすためには、エボラウイルスに感染する危険因子の認識の向上と個人ができる予防対策を行うことしかできません。無防備でのエボラ患者との濃厚接触は避けるべきです。家庭で患者の看護をする際には、手袋や個人予防具(個人予防具着装前、特に脱装後の手指衛生を含め)の適切な使用の訓練を行うべきです。通常の手指衛生は病院へ患者の見舞いへ行った後や家庭で病人の看護をするときにも必要です。
ヘルスケアワーカーの感染のほとんどが基本的な感染防御対策がとられていないことに起因すると報告されています。 どのような患者を介護するヘルスケアワーカーも標準的予防策を訓練すべきです。エボラウイルス感染が疑われる又は確定された患者を介護するときは、ヘルスケアワーカーは標準防予防策に加え、患者の血液や体液、またはそれらを含んでいる可能性のある状況への暴露を避けるための感染制御策をとるべきです。
エボラウイルス疾患で死亡した患者の遺体の埋葬への対応もウイルスを伝播する高いリスクがあります。死亡した患者は迅速かつ安全に埋葬されるべきです。
WHOは政府や自治体、技術的なパートナーと協調して、状況の評価と制御を支援するための専門家を配置しました。隔離施設や、移動検査室を設置しました;感染予防、制御、臨床的な管理ガイドラインが提供されました;注意喚起と教育キャンペーン、社会的動員、リスクコミュニケーションが流行地域で実施されています。
EVDが最近報告された地域へ滞在する人は感染時の症状に注意し最初の症状が出たらすぐに受診して下さい。
流行地域へ渡航し帰国した人が疑わしい症状で受診した場合、医師はEVDの可能性を考慮してください。マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウイルス性出血熱との鑑別診断が必要です。
WHOは、EVDを疑わせる症状のサーベイランスを含むサーベイランスの強化と、IHR(2005)に基づくヒト感染症の検知と報告を確実にするため、通常ではないパターンの注意深い観察と国家健康対策の継続を各国に奨励します。
WHOはこの事例に関し渡航や貿易の制限を推奨しません。
参考
WHO
Ebola virus disease:background and summary 3 April 2014
http://www.who.int/csr/don/2014_04_ebola/en/