白洲 正子文学逍遥記

故・白洲正子様の執筆された作品を読み、その読後感と併せて能楽と能面、仏像と仏像彫刻、日本人形、日本伝統美術についてご紹介

能楽と能面-011

2011-11-28 | 日本の伝統芸能

 日本の伝統芸術と芸能 

 

能楽と能面 

その11

先日からここ2ヶ月間ほどの環境の変化や、水害騒ぎの後始末やらで若干過労が祟りまして風邪を引いてしまいました。昨日は太平洋岸の海辺に貝の採集に出かけ、サンゴ礁の浜辺で数kmほど歩き、下着がぐっしょりなる程汗を出したのですが、敵もなかなかしぶとく、未だ鼻ぐすぐすの状態です。

しかしながら、殻長22cmの比較的大物の「スイジ貝」を砂浜の中から採取に成功。傷も磨耗もほとんど無い完品状態。嬉しいやら何やらで子供みたいに有頂天になっておりました。

拡大写真

この辺りではこの貝は<魔除け>のシンボルとして、玄関先の塀の上などに飾って在りますが、採取した貝は自分で言うのもなんですが立派なものです。

海中で生きたものを捕獲すれば、手間はかかりますが、美しい形のままの貝を手に入れることが出来ます。が、浜辺に打ちあがる貝の場合は、ここの浜が珊瑚礁の肌理の細かい、且つ珊瑚の硬い残骸が多い浜では、磨耗したり、欠損したりでまともな物は採取が難しいのです。

しかし、いつも貝の採取をしながら、形、色合いの素晴らしい貝の姿に驚かされているのですが、彼らがどうやってこの形、色合いを作り上げているのでしょうか。数億年。十数億年の気の遠くなるような時間の中で、自然に出来上がることに疑問を感じます

                      ユキノカサガイ

最近、面白いことを発見しました。<ヤドカリ>は空の貝殻を自分の大きさ、好みにあわせて無数の貝殻の中から選択しますが、面白いことに人間が見た目に、拾いたくなるような美しい貝には、必ずヤドカリが入っていることです。彼らに美的感覚が有るかのようです。身の丈にあっても形の悪い、色合いの悪い貝殻は空のままです。

美的感覚が人間の恰も他の種に無いような能力と考えるのは、ここらで捨てたほうがよいようです。殻は数学的な美しい形を取っておりますし、建築の構造力学でも参考にしているようですから。そうなると、人間の才能なんて<なんぼのもんじゃいな!>と言うことになりかねません。

さて、先回は<河内>について書いてみました。堀 安右衛門氏や長沢氏春師についても併せて述べてまいりました。本日はもう一方の雄、、橋岡 一路氏と<孫次郎>をご紹介します。

 <孫次郎>(本面)

下は拡大写真です。

 

数ある女面の中でも、群を抜いて有名な面がこの<孫次郎>です。教科書やチョッとした参考書にも掲載されておりますので、何方でも知って居られると思います。

この面は金剛宗家の太夫、金剛右京氏旧蔵の能面の内の一品で、現在「三井家所蔵の能面」の代表的な女面としてつとに有名です。その他に石川龍右衛門重政の打った<花の小面>が有ります。

16世紀前半の金剛家の太夫「金剛孫次郎久次」が亡き妻の面影を偲んで打ったとされている名面です。面の面裏には<ヲモカゲ>と彫り込まれて居ります。

拡大写真を見ていただければ、余計な能書きは不要かもしれません。唯、一言申し上げれば、左右の眼の切り方、つまり眼元と目じりの左右の位置が結構ずれて造作されております。気が付きましたでしょうか。

これはある意図を持って、造作されておりますので、間違ってしまったわけでは有りません。名面の中にはこのような感じの面が多いのも事実です。作品を近くで鑑賞できるチャンスが有った場合は、この点にも注意してみてください。

仏画でも有名な作品はこのような形で描かれております。なぜでしょうか。キチットした約束事が有るのです。次回にお話したいと思います。 

同じ面の斜め、右、左側面

小面、万媚、若女、増女などとは少し感じが違いますでしょう。若くしてなくした妻に対する恋慕の感じが少し物悲しそうな美しい顔立ちに現れております。久次事態も若くして他界したそうです。

さて、次をご覧ください。

関西の雄<堀 安右衛門氏>に対する、関東の雄<橋岡 一路氏>の作品です。直ぐごらんになって解るとおり、「孫次郎」の写しです。

三井家所蔵の<孫次郎>の修復は堀 安右衛門氏もされておられるそうで、先般三井家からの依頼により、本面孫次郎の面の修復とその写しを打たれた模様です。

再度、本面を出して見ます。

写真は<三井家旧蔵能面>と<橋岡一路能面集>からの、私の拙い腕の写真撮影ですので歪みがありますが、実に良く打たれておりますね。

本面を横に置いての造作であっても、良く本面を飲み込まなければ、打てるものではありません。ましてや、超一流の作品をですから・・・大変だったと思います。形は取れても彩色は苦労されたと推察します。16世紀の時代にどのような顔料をどのようにして使ったかを推理しながら彩色をするのですから。

相当の腕のある能面師でも、考えに考えた挙句にギブアップするかもしれません。他の女面に比較して薄手の面だそうでして、非常に打ちにくく、且つ写しにくい面のナンバーワンらしいと聞いております。

本日の最後に橋岡 一路氏のもう一面

見たとおりの<増女>です。 見た瞬間、<是閑>を直感的に感じました。是閑の増女とは見た目、ホンの少し違うのですが、どこからそれを感じるのでしょうか。私にもよく解りませんが・・・・それ以外の作者は頭に上ってきません・・彩色から来るのでしょうか?

では、本日は本面<孫次郎>をご紹介しました。次回はもう少し詳細にこの面について、橋岡氏の能面集の購入の経緯も含めて、お話したいと思います。

 

本日はこれにて失礼致します。次回をどうぞ。 

2011 11 28

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能楽と能面-010

2011-11-20 | 日本の伝統芸能

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能楽と能面 

その10> 

 

ようやく大洪水の後遺症も無くなりつつはありますが、何分にも離島中の離島故、なかなか復旧作業が場所によっては、順調に行っているとは言い難いところもあります。

特に山間の連絡路を持つ集落は、未だ開通に至っていないところもあります。そのような所は船や迂回路を使って、細々ながら生活物資を搬送している次第です。平和なときは正に桃源郷ですが、いったん事が発生すると、大変な目に遭うのです。一日も早い復旧が望まれます。

さて、本日はまず最初に、先回からのお約束を果たさねばなりません。

<若女>-01

<若女>-02

この面が江戸時代の名工・天下一 河内 の創作面<若女>の本面です。現在金剛宗家にて所持されております。先にご紹介した<小面><増女><万媚>とは相貌の異なる面である事が、ご理解頂けると思います。流石というしかありません。

写真では本当の色合いは出ませんが、それにしても口の切り方、彩色は実によろしいですね。 何か女の意思を感じます。如何でしようか。

若女>・・・長沢 氏春 作

現代の名工・長沢 氏春師の打った<若女>です。本人も河内を目指し、ついには河内の命日に逝去されました。正に<河内の生まれ変わりと思われる>ほどの・・・

正直申しまして、一歩も河内に遅れを取っていない出来上がりです。静かな面相で、唇の切り方、彩色、毛書きの筆の運び方、肌色の彩色等々・・・・絶品です。  このような面を打てる方は、現在の日本には2人しか居りませんでしょう。

本日の<河内>のご紹はこれまでにして(以降何度もご紹介いたしますので)

次はお約束の、河内の弟子で 女面の名人<大宮 大和 真盛>の<逆髪>をご紹介します。私の記憶違いでなければ、梅若流の宗家の所持と記憶しております。以前所持していた梅若の能面集に別な取り口の、もっと素敵な写真が在った筈なのですが、見当たりません。

逆 髪

ご覧頂ければ、この通り。私なんぞが下らない能書きなんぞ言う必要はありません。

人の手でこんなにも美しい面が打てるんでしょうか。見果てぬ夢ですね。

本日は河内の第1回として、<若女>をご覧いただきました。本日の本面はなかなか見る機会は無いと思いますが、せめて画面からでも記憶に留めていただき、能面の展示会や美術館、博物館で同種の面に出会った時は、この記憶の面を基本にして、比較検討ください。打ち手の技量を即判断できます。

実際この面を超える面に、出くわすことは無いとは思いますが。

本日はこれにて失礼致します。次回をどうぞ。 

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能楽と能面-09

2011-11-09 | 日本の伝統芸能

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能楽と能面 

その9> 

 

 

                   節木増 (天下一 友閑)]

*<その前に一言

 この度、私が現在住んでおります、奄美群島加計呂麻島は歴史的な集中豪雨に遭いまして、土砂崩れ、落石、崖崩れ、床上・床下浸水を至る所で発生し、山が急峻であるため、道路が途中で途絶し、場所によっては陸の孤島以上の状態になっております。それゆえ、今のところ小さな災害の有った場所は、自主的な災害復旧しかなく、ブログが遅れ遅れになっております。

さらに、以前から約束が有った<三毛猫>の貰い受けも重なり、ますます混迷に拍車を掛けた次第です。

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能面(のうおもて)」と言って、ほぼ一般成人であれば通ずる用語と思いきや、そうは問屋が卸さないこともあります。 ある老人に能面と言ったのですが、麺類と勘違いされ<わたしゃ、麺はあまり好かんのじゃ>と真顔で言われ、こちらが一時困惑。

いや、能楽で使う能面です>と言ったところ、ますます混線。とうとう話題を変えたと言う次第。冗談の様なほんとの話。

先回は女性面打ち師の打たれた能面について書いて見ました。今回は現代の「河内」と呼ばれた、故 長沢氏春氏の能面について述べてみたいと思います。

                <増女

 

 nagasawa ujiharu と言えば、能楽関係者、面打ち師、能に興味のある方であれば、よくご存知の無形文化財保持者の昭和、平成間の超一流能面師ですね。 上の面は<増女>です。 この方の彩色の技量は抜群で、現代の数多くの能面師の中で、この方の右に出る方はいないでしょう。

抜けるような、透き通るような面の彩色は超一流であると断言できます。昭和末期でしたでしょうか、東京駅地下の松坂屋で一門の能面展が開催されましたが、面の値段が弟子の最高で¥70万円に対して、この方のは¥250万円でした。面の値段で評価はしてはいけないのでしょうが、それだけの技量の差が出たと言う事です。

それでは。すこしUPしてみましょうか。

 

右側面

 

 画面を大きくしますと、よく理解が行くと思います。透通るような面肌ですね。彫刻技術も抜群で、仏像も良く彫られたようですが、一目見てその技の尋常ならざることがわかります。

 この方は能楽関係者から能面を借りて、面を打つようなことをされず、自費で日本全国に散らばる古能面を蒐集し、それを手本として面を打たれた方です。能面の彩色の一部分を削って、使用した顔料を特定したりするという、能面を借りて打つような方には到底出来ないような、努力と身銭を切るという先行投資をなさった方です。

<<余談ですが、この方の尊敬する能面師は江戸期に大活躍した天下一 河内でした。そして、平成15年4月20日に逝去。享年91歳。不思議な事に河内の明暦3年4月20日と命日が重なります。河内の生まれ変わりではなかったんでしょうか????>>

長澤 氏春師も語っておられましたが、型紙を使わず書き立て彫りで、面を打つことを諌めておりました。 「面の打ち方を一面覚えるのに10年掛かる。<小面><若女><増女><万媚>の4面で40年掛かる」・・・簡単じゃおまへんで・・・と言う事でしょうか。この方にしてこの通りなのですから、天才は別として、一般の方は当て型を使われるべきなのです。このように思います。

小面・ 河内家重 

 上の小面は河内の<小面>です。河内は「河内大ジョウ家重」といい、17世紀に活躍した天下一を号する天才能面師です。数々ある女面の素晴らしい打ち手として

1-石川龍右衛門重政・・・15世紀頃 ・・秀吉愛用の雪・月・花の小面の作者。

2-増阿弥久次・・・・・・・・・15世紀頃・・・<増女>の創作。世阿弥も一目置いた田楽法師で、晩年になって面を打ったとされております。

3-金剛右京久次・・・・・・・16世紀頃・・・<孫次郎>で特に有名

4-大宮大和真盛・・・・・・・17世紀・・・・・<逆髪>は絶品。河内の弟子。

が上げられますでしょう。この他にもたくさん居りますが、まずはこの程度にしてご紹介します。       

・・河内の<若女>の写真が現在の忙しさの中で、資料の中からなかなか見つかりません。その内にご紹介します。小面を見ても打ち手の技量が解ると思います。次回、長澤 氏春師の<若女>をお見せします・・・

河内は<河内彩色>といわれる賦彩法を案出し、能面の彩色で抜群の能力を発した方とされております。弟子の大宮大和も素晴らしい女面の打ち手で、彩色が柔らかく特に能楽<逆髪(さかがみ>の面は抜群の作です。(次回以降にご紹介します)

11/02の豪雨の後に、瀬相という港の方から、三毛猫(奄美ちゃん)を鼠番の代わりにと貰い受けましたが、能力抜群で声も甲高く、大きく、お転婆で、昼は部屋の好みの別荘のどこかで充分寝て、良く食べ、良く遊び、夜中はなかなか眠らしてくれません。 最近寝不足と過労気味。

本日はこれにて失礼致します。次回をどうぞ。 

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2代目奄美ちゃんは近々登場します。