白洲 正子文学逍遥記

故・白洲正子様の執筆された作品を読み、その読後感と併せて能楽と能面、仏像と仏像彫刻、日本人形、日本伝統美術についてご紹介

能楽と能面-013

2011-12-22 | 日本の伝統芸能

  

日本の伝統芸術と芸能 

能楽と能面 

その13

今年もいよいよ押し迫って参りました。離島は相変わらずの気温の高い日が続いており、海水温も高く、無理をすれば泳げる程度。 黒潮は違いますね。

そのような訳で、クリスマスも近いのに今日は明日はと、島中を貝の採取に飛び回り、4本のブログを持ったばかりに、テンヤワンヤノ大騒ぎをなっております。昨日も島の最南西端のビーチで和名<子安貝>の大きい、美しいのを3個、<ホシキヌタ>という星を散りばめた模様の宝貝を十数個採取できまして、まさに天にも昇る心持。

やっとの事で、心を落ち着かせ、ブログを作成いたした次第です。先回までは現代の3名の超一流の能面師をご紹介いたしましたが、本日は本年最後でもありますので、心に残る女面を若干ご紹介致したいと思います。

班女(ハンジョ) 江戸時代

出目甫閑満ヤス 作

班女」の主人公。 恋人を訪ねてさまよう遊女の物狂いに用いる面とか。以前、お見せした大宮大和の「逆髪」に負けて劣らぬ名品。 実物をご覧になるともっと素晴らしい。

ぞ~つとする美しさ。左右の目元の非対称な切り方にご注目。これがキーポイントなんですね。先回ご紹介しました<孫次郎>も同じでした。

この面は滋賀県近江の彦根博物館に<井伊家の能面>として、時々館内に陳列されることがあります。機会があれば本面をごらんください。この面の価値がわかります

 

相生増(アイオイゾウ) 江戸時代

出目友水康久 作

相生増>は<増女>の類型の節木増の類型面です。節木増はたまたま増女を打っていたとき。鼻筋の根元(向かって右)に檜の節が出て、そこから脂が出て彩色を汚したのですが、作が非常に素晴らしく、その節が返って効果を表したので、以降本面としてその位置を固めた名物面です。こういう事もたまには有るんですね。

出目友水は出目家の中でも彩色に優れた能面師で有名な方です。この面も憂いのある何とも言えない風情のある面ですね。こんな顔で見詰められたら、金縛りに遭うかもしれません。世の男性諸君

 

増髪 銘 卯の花 桃山時代

 

作者 不詳

卯の花>の由来は、この面の面裏の部分に<うの花>と彫があることから来たようです。桃山時代の作と言いますから、面の名人が輩出した時代の名作と言って良いでしょう。

毛書きの筆の素晴らしさ、口元の彩色、面全体の雰囲気全てが素晴らしい。相当の名のある方の作と言って間違いないと思います。 面に傷は無く保存状態も抜群。石川龍右衛門の作かと想いたいほど。本当だったら国宝級。

<増髪>は「十寸髪」とも書き、ヒステリックな神経質な女性を表す面として用いられますが、この面はそれを超えて神秘的な神の面的表情ですね。実に素晴らしい面です。

 

深井 (フカイ) 桃山時代

是閑吉満 作 桃山時代

深井は年長けた女の相貌を表した面ですが、似たような面に<曲見(しゃくみ>という女面もあります。何れご紹介致します。是閑吉満は大野出目家の初代で、今の越前大野辺りを指します。 以前ご紹介した<増女>などは出色の作で、<増女>はこうやって彫るのだと言わんばかりの作です。

桃山時代は秀吉が能を愛好し、部下の諸大名も能を奨励しましたので、数々の名人、名作が世に出ております。本日ご紹介しましたのは本の一部。

このブログを見ておられる方の中には、女面以外の面が出てこない事に、ご不満をお持ちの方も居られるかも。へっぽこ面を打つ者としまして、申し上げたいことは、女面が一番難しい。女面が打てれば後は簡単と思っている次第。

実際のところ女面以外に名作はそんなに多くないのも事実。この辺をご理解いただきたい。何れ男性などの面もご紹介致します。

 

では、最後に大宮大和の<逆髪>を再度、ご紹介致しまして終わりとさせていただきます。来年も延々と続きます。本来ならば当地にて面打ちを行う事のはずが、思わぬ災害と思わぬ貝の採取に惑わされ、未だ一面も打っておりません。来年こそはと思っては居りますが、子猫の奄美ちゃんに邪魔をされ、今回もやっとの事でブログが出来ました。

では、皆様も良いお年をお迎えください。

                  加計呂麻島在住   瘋癲老人

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能楽と能面-012

2011-12-10 | 日本の伝統芸能

日本の伝統芸術と芸能

能楽と能面 

その12 

今年もいよいよ押し迫ってまいりましたが、ここ奄美群島の加計呂麻島は全くその気配もありません。北風が強く吹き時雨れてはいますが、気温15℃程度。肌寒い程度。海水温25℃程度。海の中はまだ夏ですね。

さて、先般は関東の面打ちの最高峰<橋岡 一路>氏の作品をご紹介しました。いかがでしたでしょうか。<孫次郎>の真作は三井旧蔵能面集の中に納められております。たまに東京の美術館などで公開されることもありますが、地方の方は先ずその機会はありません。せめて写真の中で観覧してみてください。誠にもって素晴らしい作品です。

橋岡氏も写しを取る際にはご苦労されたことと拝察致します。形を写すよりも彩色の顔料の特定だったのではないでしょうか。

  神護寺・釈迦如来

 

<孫次郎>

急に仏像の佛顔と能面の眼が出てきましたので、何かと思われるでしょうね。良くご覧ください。左右の眼が鼻を中心にして対称に描かれたり、彫られていないことに気が付かれたと思います。仏画は左の目じりが上がり、能面は目元と目じりの位置が非対称になっています。いずれも国宝級の美術品ですからある意図を持って、作成したものである事がわかると思います。

仏画でも、能面でも左右対称な作品は数多くあります。この釈迦如来は毎日礼拝していたにもかかわらずしばらく気が付きませんでした。

能面の向かって左の顔は人間の顔、右側は仏の顔・・悟った顔と簡単に言うとご理解ください。能の舞台は橋掛かりから正面の舞台で構成されておりますが、能の曲の大半は幽玄界と現象界(現実の世)の絡みが多く、呪ったり、祟ったりと言わばろくな設定になっておりません。

                       若女(橋岡 一路)

橋掛かりから正面の舞台に太夫が歩み進むときは、客席(見所)からは左の顔の部分が主に見えてきます。詰まり迷った人間の顔が見えてくる。そして、曲の最終章ではこれと逆に面の右側を見所に見せながら、つまり悟った状態の顔を見せながら・・・・

このように説明するとお分かりいただけるものと思います。<しおる>(泣くという動作)という所作はどのようにするかと考えると良くわかります。つまり、ひざを折って左手で向かって右の顔を隠すようにします。見せるのは左の顔。迷った人間の顔。逆でしたら可笑しいですね。

 

もうお解かりいただけたと思います。大事な約束事なんですね。孫次郎のような女面になると、相当表情に変化が出ることは間違いありません。仏画でもほぼ同じでしょう。良く考えられていますね。感心致します。

能面は非対称の顔立ちで造作されされているということになります。型紙も鼻筋が中心を通っているわけではありません。わずかに左右にずれております。このことはそのうちにご説明します。

 

 この写真は<橋岡 一路能面集>の扉の写真ですが、1000部発行と言うごく少数の発行の能面集の購入者に対してサインをしたものです。<花岡 敬子>と署名されておりますが、大変な達筆であることがすぐわかります。 一芸に秀でておられる方はこのような方が多いのですね。

その横にこの能面集の巻頭を飾った方、<白洲正子>様のパンフレットが挟まっております。皆さんご存知の白洲次郎氏の奥様でしたね。過日、<能面>で読売文学賞を受賞されておられます方です。巻頭文を書かれる方としては最高の方でしょう。これだけでもこの能面師のレベルが分かろうというものです。

 私が集中的に能面集を買い集めた際の最初の能面集は白洲正子様、最後の巻頭文がある能面集は白洲さまの関与のあるものでした。十年来捜し求めていた能面集数冊がこの時期に集中しておりました。実に不思議に今でも思っております。

これで現代の3名の超一流の能面師をご紹介いたしまして、本日はお開きと致します。

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