健康維持・増進に効果的であると言われて久しい運動は、腰痛体操・ラジオ体操、ジムトレーニング・スクワットなどの筋トレ、ストレッチ、エアロビクス、介護現場でのリハビリ・寝たきり予防の体操など多種多様です。
しかし、主に有酸素運動系以外の前記の運動を行うにあたって、運動効果を上げるための重要なポイントが抜け落ちていることが多いようです。運動=健康という概念だけが一人歩きして、運動効果を上げるための方法論が無視されています。ポイントをおさえていなければ、どんな運動をしても健康づくりに寄与できないばかりか、怪我・痛み・関節の炎症や変性などを招き、姿勢不良を悪化させ、体質改善を妨げてしまいます。
広く行われている運動全般の大きな欠陥を私なりに整理すると、
- 身体動作の根本となる「胴体」の特性、バランスを考慮に入れていない
- 「拮抗作用」の無視
- 運動リズムの軽視
が、主に挙げられると思います。
逆に言うと、上記3つのポイントをしっかりおさえていれば、怪我のリスクを最小限に抑え、運動効果も期待できます。順を追って解説していきます。
1.の胴体の特性やバランスについてですが、胴体は首の下から骨盤までの四肢(両腕・両脚)を除いた部分を指します。骨で言うと、骨盤、背骨の腰椎、胸椎までと肋骨、肩甲骨等が含まれます。
胴体の動作には、前後の屈曲(前屈)と伸展(後屈)、左右への側屈、そして胴体をねじる回旋の3パターンがあります。
バランスを見ると、肩の高さの違い(写真1)、左右いずれかの肩・胸前部が前へねじれる(写真2)など、中心軸が歪んでいることが非常に多く見受けられます。
写真1: 肩の高さの違い
写真2: 写真では右胸前部が前へ歪んでいる
このような胴体の歪みを考慮せず、ストレッチや体操を行っているケースが多く見られます。また、胴体のアンバランスは四肢と連結する関節(肩や股)の歪みを引き起こします。そのような状態で筋力トレーニングやヨガ・ストレッチを行うと、頚椎・肘・膝・足首等の関節にも歪み・炎症を波及させ、痛みや石灰化を増長させてしまい、症状はなかなか改善しません。
腕を上げる動作を例にとると、胴体側面の肋骨部分とそれを覆う筋肉群が硬いまま腕を上げていると、胴体の側屈や伸展と連動できないため、肩関節や靭帯にダイレクトに負担をかけて損傷を招きます。
写真3: 左側屈では右脚加重
(右側屈は左脚体重)
写真4: 前に捩れた胸部を矯正するストレッチ
(右胸部が捩れている場合)
側屈では、左に曲げる場合そのまま左脚に体重をかけて伸ばしてしまっている動作をよく見受けられますが、逆の右脚に体重をかけて右側面をしっかり広げながら胴体を左に倒す動きが理想的です(写真3)。胸部が前に捩れる胴体の歪みがある場合、捩れた側の腕を壁につけて胸を開く伸展のストレッチが効果的です(写真4)。
この正しい側屈や胸部の伸展を普段から行って胴体の柔軟性を養いましょう。腕を上げる動作が胴体と連動して可動域が広がります。
(コラム119話をご参考に実践してみて下さい。
http://melmaga.toy-hoken.co.jp/karada/2012-09-20-1049.php)。
腿を上げる動作には骨盤部の屈曲と伸展が関わりますが、胴体がしなやかさに連動していないと、股関節に負担をかけてしまいます。
(写真5)腿上げ
(写真6)屈曲
(写真7)伸展(左骨盤)
胴体の屈曲と伸展の柔軟性が腿上げ動作に影響するため、普段から行いたいものです(写真6、7)。
エアロビクスや体幹トレーニングは胴体を直立的に固めて行うエクササイズなので、腰痛の引き金になりますし、前述のように、各関節部分の負担・損傷を増長させてしまうのです(詳しくはコラム143話をご参考に対処法もお試し下さい。
http://melmaga.toy-hoken.co.jp/karada/2014-09-20-1223.php)。
胴体の特性・柔軟性を考慮せずに行う運動は怪我を招きやすく、期待するほどの効果は得られないでしょう。
胴体に意識を向けないと、年齢を重ねるほどに姿勢不良を招き、身体の可動性はますます失われてしまうので、介護現場での体操やリハビリでも、胴体の連動・しなやかさを養うことに主眼を置くべきです。そうしないとリハビリの効率性に影響が出てしまいます。
次回は拮抗作用について解説していきます。