前回のコラムでは、広く行われている運動全般の欠陥として、
- 身体動作の根本となる「胴体」の特性・バランスを考慮していない
- 「拮抗作用」の無視
- 運動リズムの軽視
を挙げ、これらのポイントをおさえて行えば健康づくりに役立てることができる、と述べました。前回の1)に続き、今回は2)と3)について解説します。
2)「拮抗作用」の無視
身体に力を入れると、筋肉は収縮して力を発揮します。力こぶをつくる上腕二頭筋は、肘を曲げると収縮(縮む)して物を持ち上げることができます。
その際、腕の外側(力こぶの反対側)の上腕三頭筋は弛緩(伸びる)します。逆に肘を伸ばすと上腕二頭筋は弛緩し、上腕三頭筋が収縮します。
このように、一方の筋肉が縮むと逆の作用を持つ筋肉は伸びるというように、ある働きに対して逆の働きをする筋肉を拮抗筋といいます。
ストレッチや筋力トレーニングを行う場合は、特にこの拮抗筋を頭においておく必要があります。
収縮する動きにだけ重きをおいていると、バランスが偏り関節に負担がかかるので、怪我をしやすくなりますし、身体が歪み、日常の動作や姿勢にも影響を及ぼします。
代表的な例を挙げます。
前屈ストレッチと腹筋運動
前屈ストレッチと腹筋運動は、腰痛体操として、柔軟性を養うため、そしてスポーツ前のウォーミングアップとして、重点的に行われることが多いようです。
前屈のストレッチ
これによって腿裏の大腿二頭筋は伸びますが、もともと丸まり(後湾)伸びている背部の筋肉を必要以上に丸めてしまいます。
また腰痛(特に急性期)の場合は、腹筋が硬く胴体のしなやかさが失われていて、前湾しているはずの腰椎の湾曲バランスが崩れています。
腰痛の予防・改善、姿勢の矯正と保持のため、そしてウォーミングアップには、前屈よりも後屈のストレッチや身体前面(腿の前、大腿四頭筋等)のストレッチに時間をかけるべきです。
普段から積極的に行ってもらいたいおすすめのストレッチです。
腹筋(後屈)のストレッチ
大腿四頭筋のストレッチ
腰痛予防・姿勢改善には、腹筋運動より背筋運動の方が必要です。
肩甲骨を寄せて上体を少し持ち上げる背筋運動
3)運動リズムの軽視
筋肉を伸ばし、関節の可動域を広げることが目的のストレッチや柔軟体操等は、状況に応じてリズムや速さを変えるべきです。
例えば、スポーツを行う前、出勤前等は、動きを伴いながらリズミカルに行います(動的ストレッチ)。血流が促進され、心拍、筋肉の温度が上がってダイナミックな動きを可能にします。
ゆっくり静止して行うストレッチをスポーツ前に行うと、筋肉の温度を下げてしまい、肉離れ等怪我の危険性を増してしまうので、スポーツ後のクールダウンとして、入浴後・就寝前に軽く行う方が良いでしょう。
筋力トレーニングは、基本的にゆっくりとした動作で行いましょう。ゆっくりとしたテンポで1, 2, 3, 4と筋肉を縮め、5, 6, 7, 8で筋肉を伸ばす、というような4拍子が理想です。
反動を使うと怪我を誘発することがあるので、使っている筋肉を意識しながらゆっくり行いましょう。
自己流で速いテンポで筋トレをしている方をよく見かけますが、関節や筋肉に過剰に負担をかけてしまいますし、運動効果も低くなります。
健康効果を目的に行うなら、自己流でなく、以上3つのポイントに留意して行うことをおすすめします。