物欲王

思い付くまま、気の向くまま、物欲を満そう

※当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

沖で待つ

2006-03-24 07:36:37 | 
先日本屋さんに『陰日向に咲く』を探しに行ったところ、その隣に装丁の美しい本が平置きされていたので、深く考えることもなく手に取りレジで支払いを済ませました。絲山 秋子氏の『沖で待つ』です。単に装丁が気に入ったからという理由で買ったというのではちょっと芥川賞作家に対して失礼かも知れないですね。

『沖で待つ』には2編の小説が収録されています。婚期(いき)遅れの独身女性が描かれた「勤労感謝の日」と、同期入社の男女の友情を綴り芥川賞受賞作となった「沖で待つ」です。いずれの作品も気負いのない文章で小気味よく書かれていて一気に読み切ってしまいました。妙に気取ったところのない文体は失業中あるいは会社で働いている登場人物の雰囲気を巧みに表現できていると感じました。

ただ、唯一残念だったのは「沖で待つ」で描かれている男女関係です。男女を超えた「同期」という人間関係が新しいとして評価する声を聞いていたので、この点についてはかなり期待して読んだのですが、僕個人として感じられたのはごく普通の友情でした。「沖で待つ」に描かれている男女の関係を評価する人々がどういう観点で新しいと感じたのか詳しくは知らないのですが、もし性別の異なる人の間には単なる友人か恋人しか人間関係があり得ないという前提に立っているのであれば、非常に悲しいことだと思います。「同期入社だから」というような前提条件があろうがなかろうが、恋愛感情や肉体関係のない性別の異なる親友というのは存在し得ると思いますし、仮に性的な関係を持ったとしても恋人ではない異性と親友であり続けることは可能なのではないでしょうか。出所のはっきりとしない「沖で待つ」の評価に異を唱えるのも変な話ですが、もし僕が想像しているような理由で「新しい」とされているのであれば、友情や人間関係は生物学的な性別が何であれもっと豊かで多様であると言いたいですね。

『沖で待つ』自体とはちょっとずれたところで批判してしまいましたが、一読には値する楽しい本でした。


沖で待つ

文藝春秋

このアイテムの詳細を見る
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 意外に楽しいガンダムのOVA | トップ | 電話するときは服を脱ぐ? »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事