物欲王

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「ろくろ」について考える

2024-06-11 21:32:57 | 

辞書つながりで『国語辞書事件簿』を読んでみました。この本のテーマの一つが数多く出版されてきた国語辞典のオリジナリティです。知的財産権の意識が高く、盗用に厳しい現代ではおよそ考えられませんが、かつては先行して出版されている辞書の語釈を「借用」して出版されている辞書があったようです。最新の第七版はまったく別の辞書だと信じたいですが、『広辞苑』に対するイメージがこの本を読んでかなり変わりました...

本書では他の辞書を借用しているかを測るベンチマークとなる単語として「酢豆腐」と「轆轤(ろくろ)がな」が紹介されていました。この本が出版されたのは20年前のことなので、最新版の辞書でどうなっているのか調べてみることにしました。

はじめに何を確認するのかをお話しすると、『国語辞書事件簿』によれば「轆轤がな」は「ろくろ」に木材などを固定し、素材を削るための「かんな」が正しい意味だそうで、とある辞書が「削られる方の木材などを轆轤に固定する」のではなく、「かんな」の方を回転する「ろくろ」に固定するという語釈を付けたところ、その辞書を盗用していた辞書の語釈が軒並み間違った後者の意味を掲載することになったとのことです。そこで、「ろくろ」に固定するのが「削られる木材など」の方なのか、「かんな」の方かを確認してみました。

まずは最新版の『広辞苑』。第7版の語釈は以下の通りでした。

 ろくろを用いて材料をえぐり削るための刃物。ろくろがんな

正直これでは回転するのが木材の方なのか、刃物の方かが分かりません。修正するならはっきり書いて欲しかったです。

同じ岩波書店から出されている『岩波国語辞典』はどうでしょう。第8版の語釈は

 材料を回転軸に取りつけて回しながら削る工具。また特に、その工具に使う刃物。椀(わん)などの円形物を作るのに使う。ろくろ。▽「ろくろがんな」とも言う。

 でした。この語釈であれば回転するのは木材などの材料の方ですね。

独自路線の語釈で一目置かれる『新明解国語辞典』も調べてみました。

木地細工などで、軸の端に刃をつけ、軸を回しながら材を丸くえぐり削る工具。ろくろがな③。

と意外な語釈で、びっくりしました。『国語辞書事件簿』が間違っているとした方の語釈が掲載されていました。私自身はどちらの「轆轤がな」ないし「轆轤鉋」の語釈が正しいか、正解を知らないのですが、『国語辞書事件簿』の記載を鵜呑みにすれば『新明解国語辞典』は20年以上前から指摘されている間違いを未だ直せていないことになります。山田忠雄先生を以てしても、専門用語までは目が行き届かなかったのでしょうか?

ちなみに「轆轤がな」に対して独自の語釈を付けていたのが『旺文社国語辞典』です。こちらははじめに材料を回転させる的な説明をした後に、刃物を軸に付けることもあると折衷案的な語釈を載せています。果たして軸に固定すべきは材料なのでしょうか、刃物なのでしょうか?

余談ですが『三省堂国語辞典』には「轆轤がな」は掲載されていませんでしたが、「ろくろ」の語釈が秀逸でした。

①←ろくろ台。
「━をひく・━を回す〔プレゼンなどで熱心に説明する際の手のポーズのことも言う〕」

 

IT業界の社長はなぜろくろを回すのか?10枚の証拠画像

インタビュー中に両手をバサッと広げるポーズ。IT業界の社長が雑誌に出る度にやたらとあのろくろポーズをとっている…

netgeek

 

これはかつてIT業界標準と言われたポーズのことですね。この辺を語義として拾えるのはさすが『三省堂国語辞典』です。

 

コメント
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