無風に近い湿った森を歩くと、目の前のハリギリの細い幹に、豆粒の体に異常に長い脚をもった極小のクモのような生物がいます。ザトウムシ(座頭虫)です。この季節から秋にかけて盛んに目にする不思議な生き物です。たいていは数ミリの豆形の体に、その何倍何十倍もある長い脚を8本(何本か欠損している場合があります)ゆらゆらさせて木を登ったり、山道の前をヒョコヒョコと音もなく横切ったりします。
ザトウムシは、節足動物門鋏角亜門クモ綱ザトウムシ目(Opiliones)に属する動物です。クモ綱といいますが、クモよりはダニに近い動物とされます。基本は肉食ですが、雑食性で、昆虫や昆虫の死骸や糞、腐った果実、なかにはキノコを食べるものもいるそうです。アブラムシも大好物のようです。そんなわけで森の掃除屋ともいわれます。
脚が欠損している場合も多いと書きましたが、敵に襲われたときなどに自切することもあるようです。目は小さく明暗ぐらいしか識別できないようで、二番目の前脚で探るようにして進むことから座頭虫と命名されたようです。近づくと逃げますが、樹上にいる場合などは追いつめられると自ら身を投げます。もっとも、長い脚のおかげか落ちても、すぐにまた何事もなかったかのようにユラユラと歩き出しますが。
そんな ザトウムシの顔のアップをご覧ください。なかなかダンディな面構えをしています。なかにはヒラスベザトウムシのようにオレンジ色に黒い長い脚のザトウムシもいて、薄暗い森の中では小さくてもかなり目立つ存在です。
このザトウムシは、背中に角があります。これにダニが掴まって乗っているのを見たことがありますが、そのためのものではないような気がします。ジッと観察すると、こんな細く長い脚がよく器用に動かせるものだと驚かされます。メカニカルで、まるで小さな月面探査機のようです。
粘菌と同じく見ようとしなければ見えないものですが、その気になると公園や雑木林でもたくさんいることに気がつくでしょう。基本的に落ち葉の下がすみかですが、木登りするものや脚の短いものもいます。でもクモのように体がくびれていません。また、糸をはきません。直接交尾をします。前記したように、背中にもっと小さなダニを乗せているのを(勝手に乗っているのかも)見ることもあります。人間には直接的に益も害もないので注目されることもない生物ですが、森林の生態系の中では、重要な位置にいるのです。そもそも無駄な生物というのはいないのですが…。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。キノコ、夏の花、昆虫、樹木、蝶などを更新しました。トレッキング・フォトルポにない写真も掲載してあります。