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建築を旅する

建築家の図面とテレンス・ライリー氏

2021-05-31 14:13:58 | Weblog


伝統的な木造建築を志向する人は多い。
最近は、若い世代で特にその傾向が強いように思う。
伊東豊雄でトドメを打ったパワフルな建築の世界は、時代の移り変わりとともに他国へと移り、日本では限られたスペース、緩やかな空気感の建築空間へと収斂しているように思う。世界ではとんでもないスケールの建築が多々あるが、日本で目指す人は少数派だ。

なんだろう、二極化していくのもあるけれど、日本も疲れちゃったのかな。
もしまた、バブルが来ます!ってなっても皆さん、乗っかり切れないマインドなのかもしれない。
身体がすっかり綺麗にデトックスしてしまい、受け付けないものも出てくるのかなと思う。

海外の都市や、都会への憧れのようなものもなくなったというのも、冒険心というものが育ちづらい時代になったんでしょう。
ネットで調べれば、ほとんどのものが疑似体験できてしまうかの様な、情報量。
今更、知らない世界を見てみたい!と思いづらいほど情報過多なんだろうな。

ただ、実感として感じたい、深めたい部分も無いわけではない。
それが、自然だったり天然の素材だったり、身近なものの発展系だったりするのかなと。
未知のものより、知っていてより良いものを。
質の高いもの、より美味しいもの、いつも満足し切れない部分を補完したい。

それが、建築でも現れて来ているんじゃないかなと思います。

新たに作るというよりは、既にある価値観を引き継いでいく。
長年をかけて熟成し、洗練されたもの。
その方が、充分必要なものは既にある現状であっても、より良いものを求める今の価値観に合致しているんだろう。

ニューヨーク近代美術館MoMaの建築チーフキュレーター、テレンス・ライリー氏が先日、5/22に亡くなった。66歳であったそう。
2004年に、MoMaの改修工事を建築家、谷口吉生氏に依頼し完成させた。
妹島和世さんにも早くから注目し、90年代、自分が学生時代にNYに行った際にも、MoMaで妹島和世氏の模型を展示をしていたほどだった。

彼と、谷口吉生氏の講演会を2005年に聴いたことがある。

自分の当時の日記にその感想を書いていた。

『テレンスライリー氏の講演は、氏が自身が考える建築の時代的な役割や、建築の社会的な立場、メディアとの関係などについて、興味深い内容であった。 ヴィクトル・ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』から話が開始される。 建築は、いずれ本(メディア)に殺されるというユゴーの話から、当時の社会で考えうるメディアと建築の相関関係をグラフ化して紹介。 時代を経るに従い、建築の発信する情報や、その役割は縮小していく。 しかし、実際には、補完関係にあり、他のメディアによる刺激や、生活スタイルの変化に伴い、新たな建築の可能性や求められる役割が提起されていく。 そして、建築の形態は、もはや無限で、非常に複雑な形態も実現可能であり、現在の高度に情報化された社会では、形態を追う事は重要ではなく、それよりも、体験を重視した空間を作る事が重要だといった話であった。 表面的な表現や形態ではなく、より本質的な存在としての建築を考えて行く事がこれからの建築であるということである。』

まさに、今の日本の状況であるなと思う。

そして、質の高い伝統工法、木造建築へ。

写真は、自分が長年お世話になっている、尊敬する住まい塾の特集号と、尊敬する横内敏人氏の最近の作品集。

住まい塾は、日本で一番と言って良いほど、木造をしっかり考えている建築集団だと思う。
特に、金物を使わなくても成り立つ、日本の伝統的な手刻みの木組みや、通し柱のシンプルなプラン。
これは、日本ではほぼ絶滅危惧種だと思う。大工さんをはじめとする職工さんと造りを詰めていく姿は神々しい。

横内敏人氏は、堀部安嗣氏などと近い(自分が思うに)タイプの建築家で、共に東京芸大の流れを汲んでいる。
いわゆる吉村順三系列の人たちと言えると思う。
東京芸大は、日本の伝統工芸、伝統技術のフォートレスと言える大学でもある。
だからこそ、系譜の建築家は、伝統に則り、日本の良さ、素材の良さを積み重ね、拵えているのだと。
そこが注目されているのは、日本の中での今後の建築の進む道としては良いなと思っています。

長々と取り留めがないけれど、要は自分もその方々に連なっていきたいなと思う。
時代が求めるものでもあるしね。

という、話。







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