ランク:銀
監督/脚本ウディ・アレン 2005年
”テニスのコードボール。ネットに当たったボールが、向こう側とこちら側のどちらに落ちるか。
勝敗は運命が決め、人生はコントロールできない ”
おー、最後の最後にこう来ましたか。うーん、おもしろかったです。
途中ありきたりな展開と見せておいて、最後まで観るとマッチポイントという題名や映画の始まりのコードボールの講釈が活きてきて、見事な構成に唸ってしまいました。
マッチポイント、いったい誰と誰の試合だったのでしょうか、どちらが勝者になったのでしょうか。
アイルランド出身の腕一本のテニス選手クリスが、英国の上流階級の娘クロエと出会います。場所はコヴェントガーデンのロイヤルオペラハウスのボックス席、演目はヴェルディの「椿姫」、クロエの眼は舞台ではなく後ろにいるクリスへ向けられます。この時、舞台ではアルフレードがヴィオレッタに恋心を歌っています。他にもヴェルディの「トロヴァトーレ」「リゴレット」「オテロ」、ビゼーの「真珠採り」、ロッシーニの「ウィリアム・テル」から名曲の数々が場面に応じて使われています。エンリコ・カルーソの歌声です。ホセ・クーラやリチートラなど最近のものしか聴いたことがなかったので古いレコード盤の持つ魅力を知りました。エンリコ・カルーソはナポリの貧しい労働者出身で美声一つで世界を制した方だそうです。この映画の主役クリスに通じるものがありますネ。
指輪が欄干に当たり跳ね返ったのに気付かないクリス、不運かと思わせておいて最後のどんでん返しの強運。マッチポイントを制したように見えるクリスですが笑顔はありません。
映画の始まりにも終わりにもドニゼッティ「愛の妙薬」の"人知れぬ涙"が使われていました。"人知れぬ涙"をこの映画の鍵と捉えて人知れぬ涙を流したのは誰かと考えると、夫の浮気に気付かぬはずはないと思うのでクロエではないかと思います。赤ちゃんも授かったクロエがマッチポイントを取ったんじゃないでしょうか。
マッチポイントの結果はどうであれ、運が人生を支配するとしたら、どういう環境に産まれ落ちるか、まずこれが人生最大の決め手でしょう。人生はコントロールできない。はぁー、我が身を振り返ってしまいました。
この映画、さすが強迫性障害を持つアレン監督と思わせるくらいに細かいところまで神経が行き届いていていろいろな面から楽しめました。
何と言っても金持ちのキャビアネタ、タイタニックでも出てきてましたね。ワインのほうは下戸なので分かりませんが、キャビアブリニ、夢に見そうです^^。いつもイクラ食パンで代用している私にはクリスが上流層に惹かれるのが痛いほど分かるってもんです^^。トムさんのセーター、カシミアと思いきやビクーニャなんですネ。
日本ネタ、、、なんだかちょっとバカにされてるようで、感じ悪かったです。
日本といえば殺されたお婆さんの部屋に古伊万里の模造品がありましたね。ちょっと高価な感じがするし陶磁器なので割れる怖さがあり、あの場面の緊張感を盛り上げるのに良い小品でした。
クリスが読んでいたドストエフスキーの「罪と罰」、クリスはケンブリッジの文学手引書を引用しクロエの父親にドストエフスキーの講釈を垂れて株を上げますが、実は「罪と罰」を自分の完全犯罪のヒントに使うような男です。犯行直後に多少動揺したり悪い夢を見たりしますが、どう見ても自首するとは思われません。ただちょっと気になったのが、新居にあった大きな男の顔の画。暗い画で新居の明るくスッキリとした雰囲気にそぐわないこと甚だしいです。いったい誰が描いた何という画でしょうか。アレン監督が拘って選んだ一枚でしょうから、何か意味がありそうで気になりました。
刑事役で出てきたジェームス・ネスビット、とぼけた感じは「ウェイクアップ!ネッド」の豚飼いのフィン役の時と同じで、出てきただけで嬉しくなっちゃいました。
(追記) マッチポイント、この1点で勝敗が決まるわけではないのですネ。デュースに持ち込む、これを忘れていました。映画を観たあと、誰が勝者になったのだろうかばかりを考えて何だかモヤモヤしてたのですが、ゴウ先生の映画評を読んで分かりスッキリしました~。人生はマッチポイントの取り合い、デュースへ持ち込み合いの応酬で続いていくんですね。アレン監督、さすがです♪