宇宙と地上の望遠鏡を用いた連携観測により、かみのけ座の方向約100光年彼方に位置する、太陽の約8割の質量と半径を持つ恒星“HD 110067”の周りで、6つ子の“トランジット惑星”を発見したことが、東京大学、アストロバイオロジーセンター、科学技術振興機構の3者が共同で発表しました。
この成果は、東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の成田憲保教授(同・研究科 付属先進科学研究機構 教授/ABC 客員教授 兼任)、同・福井暁彦特任助教たちを含む、多色同時撮像カメラ“MuSCAT”シリーズを開発した研究チーム(※1)によるもの。
詳細は、英科学誌“Nauture”に掲載されました。
トランジット惑星の謎解き
“HD 110067”は、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”(※2)によって、2020年3~4月および2022年2~3月に約27日ずつ明るさの変化がモニタリングされ、約9.11日(1つ目の惑星)と約13.67日(2つ目の惑星)の周期でトランジット現象による減光が確認されていました。
そこで、今回の研究では、“HD 110067”のトランジット惑星の謎解きに取り組んでいます。
惑星ごとにトランジットの形(減光の深さと継続時間)は固有で、“TESS”のデータには2種類の同じ形のトランジットのペアが存在することが、2020年と2022年にそれぞれ1回ずつ観測されていました。
でも、それらは連続観測ではないので、必ずしも周期が2年とは限らず、その2回のトランジット現象の時間間隔を自然数で割ったものが真の周期の候補になります。
それらの候補のトランジット現象の時間帯に、ヨーロッパ宇宙機関の系外惑星観測衛星“ケオプス(CHEOPS)”が観測を行った結果、2種類のうち1つのトランジットは約20.52日(3つ目の惑星)の周期であることが確認されています。
複数の天体の周期比が簡単な整数比となる関係
同一天体を公転する複数の天体の周期比が簡単な整数比になることを“尽数関係”と言います。
確認済みの3惑星の周期は、隣り合う同士の比がそれぞれ2:3でした。
このように尽数関係の惑星が3組あることを惑星形成の観点からは、この惑星系では形成時に複数の惑星がお互いに尽数関係を持つ“平均運動共鳴”の軌道に捕捉され、原始惑星系円盤(※3)でその関係を保ちながら、現在の軌道まで移動してきたと考えられます。
4つ目の惑星の周期を約30.79日と見出しています。
“MuSCATによる複数波長帯での同時トランジット観測
ただ、2022年のデータにのみにとらえられていた、それぞれ異なる形のトランジットが、まだ2つ残っていたんですねー
トランジット現象が観測できたのは1回のみ。
このため、公転周期を知ることができていませんが、研究チームでは5つ目の惑星は4つ目に対し、6つ目は5つ目に対して尽数関係にあるとあると仮定しています。
それぞれの周期比としては1:2、2:3、3:4、4:5、5:6の5通りと、2つのトランジット現象がそれぞれ5つ目と6つ目のどちらか不明なので2通りの場合を想定。
その結果、50通りのシナリオが考え出されました。
そして、天体力学的な考察などを元に、5つ目は4つ目に対して3:4となる約41.06日、6つ目は5つ目に対して3:4となる約54.77日である可能性が高いと推測し、以下の2つの方法でその仮説の検証を行っています。
1つ目の検証は、2022年5月23日~24日(協定世界時)にかけて行われた、複数の地上望遠鏡による5つ目の惑星のトランジット現象の追観測キャンペーンでした。
この追観測キャンペーンにはMuSCATチームも参加。
スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡に搭載された“MuSCAT2”でトランジット現象の開始を、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡“MuSCAT3”でトランジット現象の終了を精度良くとらえることに成功しています。
このトランジット現象は減光の深さが0.1%程度しかなく、その継続時間は5時間以上、予報の誤差も大きいという難度の高い観測でした。
研究チームによれば、地上最高レベルの測光精度を4色で同時に達成でき、時差の離れた望遠鏡に搭載されている“MuSCAT2”と“MuSCAT3”の連携が大きな威力を発揮したそうです。
その結果、5つ目の公転周期は予測通りの約41.06日であることが確認されました。
このデータの中に、5つ目と6つ目のトランジット現象が存在すると推測。
解析の結果、実際に予想された時刻にトランジットが確認されています。
今回の研究で判明したのは、“HD 110067”はすべての隣り合う惑星の公転周期が、尽数関係を持つ6つ子の惑星系であること。
なお、7つ目以降の存在は未確認ですが、今後も探査が続けられるようです。
また、6つの惑星の半径は地球の1.9~2.9倍ほど。
岩石惑星ではなく、水素大気を持つ小さな海王星(海王星の半径は地球の約4倍)のような惑星だと考えられています。
さらに、“HD 110067”のように3つ以上の惑星が尽数関係を持つ惑星系は、惑星が原始惑星系円盤内でどのように形成され、移動していくのかを理論的に深く考察する手掛かりを与えてくれるはずです。
加えて、5つ以上のトランジット惑星が発見されている星の中で、“HD 110067”は最も明るいとのこと。
明るい星のトランジット惑星は大気の観測に適していて、しかもこの惑星系には複数の惑星で大気の比較も行いやすいと考えられます。
これらのことから、今回の6つ子の惑星は、今後の惑星大気観測の絶好のターゲットとなり、尽数関係にある惑星が原始惑星系円盤内でどのように大気を獲得したのか、そして恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化にどのような影響を与えたのか、といった研究が進むことが期待されます。
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この成果は、東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の成田憲保教授(同・研究科 付属先進科学研究機構 教授/ABC 客員教授 兼任)、同・福井暁彦特任助教たちを含む、多色同時撮像カメラ“MuSCAT”シリーズを開発した研究チーム(※1)によるもの。
詳細は、英科学誌“Nauture”に掲載されました。
※1.岡山県の188センチ望遠鏡(MuSCAT)、スペインのテネリフェ島の1.52メートル望遠鏡(MuSCAT2)、アメリカのマウイ島の2メートル望遠鏡(MuSCAT3)用に開発された、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる多色同時撮像カメラ“MuSCAT”シリーズを用いた研究チーム。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
図1.発見された6つの惑星の位置を一定の時間間隔でつないだ線が作る幾何学模様。(Credit: Thibaut Roger/NCCR PlanetS、CC BY-NC-SA 4.0(出所:東大Webサイト)) |
トランジット惑星の謎解き
“HD 110067”は、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”(※2)によって、2020年3~4月および2022年2~3月に約27日ずつ明るさの変化がモニタリングされ、約9.11日(1つ目の惑星)と約13.67日(2つ目の惑星)の周期でトランジット現象による減光が確認されていました。
※2.“TESS”は、地球から見て系外惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにしていく。繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができる。
でも、観測データには他にもトランジット現象らしき減光がいくつもあり、“HD 110067”のトランジット惑星の総数や各周期などは不明のままでした。そこで、今回の研究では、“HD 110067”のトランジット惑星の謎解きに取り組んでいます。
惑星ごとにトランジットの形(減光の深さと継続時間)は固有で、“TESS”のデータには2種類の同じ形のトランジットのペアが存在することが、2020年と2022年にそれぞれ1回ずつ観測されていました。
でも、それらは連続観測ではないので、必ずしも周期が2年とは限らず、その2回のトランジット現象の時間間隔を自然数で割ったものが真の周期の候補になります。
それらの候補のトランジット現象の時間帯に、ヨーロッパ宇宙機関の系外惑星観測衛星“ケオプス(CHEOPS)”が観測を行った結果、2種類のうち1つのトランジットは約20.52日(3つ目の惑星)の周期であることが確認されています。
複数の天体の周期比が簡単な整数比となる関係
同一天体を公転する複数の天体の周期比が簡単な整数比になることを“尽数関係”と言います。
確認済みの3惑星の周期は、隣り合う同士の比がそれぞれ2:3でした。
このように尽数関係の惑星が3組あることを惑星形成の観点からは、この惑星系では形成時に複数の惑星がお互いに尽数関係を持つ“平均運動共鳴”の軌道に捕捉され、原始惑星系円盤(※3)でその関係を保ちながら、現在の軌道まで移動してきたと考えられます。
※3.原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
このことから研究チームでは、残りのトランジット惑星も尽数関係を持つ可能性が高く、観測された2回のトランジット現象の時間間隔を自然数で割った値が3つ目の惑星と尽数関係にあると推測。4つ目の惑星の周期を約30.79日と見出しています。
“MuSCATによる複数波長帯での同時トランジット観測
ただ、2022年のデータにのみにとらえられていた、それぞれ異なる形のトランジットが、まだ2つ残っていたんですねー
トランジット現象が観測できたのは1回のみ。
このため、公転周期を知ることができていませんが、研究チームでは5つ目の惑星は4つ目に対し、6つ目は5つ目に対して尽数関係にあるとあると仮定しています。
それぞれの周期比としては1:2、2:3、3:4、4:5、5:6の5通りと、2つのトランジット現象がそれぞれ5つ目と6つ目のどちらか不明なので2通りの場合を想定。
その結果、50通りのシナリオが考え出されました。
そして、天体力学的な考察などを元に、5つ目は4つ目に対して3:4となる約41.06日、6つ目は5つ目に対して3:4となる約54.77日である可能性が高いと推測し、以下の2つの方法でその仮説の検証を行っています。
1つ目の検証は、2022年5月23日~24日(協定世界時)にかけて行われた、複数の地上望遠鏡による5つ目の惑星のトランジット現象の追観測キャンペーンでした。
この追観測キャンペーンにはMuSCATチームも参加。
スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡に搭載された“MuSCAT2”でトランジット現象の開始を、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡“MuSCAT3”でトランジット現象の終了を精度良くとらえることに成功しています。
図2.スペイン・テネリフェ島テイデ観測所の1.52メートル・カルロスサンチェス望遠鏡に搭載された“MuSCAT2”。(Credit: MuSCATチーム(出所:東大Webサイト)) |
アメリカ・マウイ島へレアカラ観測所の2メートル・フォークス北望遠鏡に搭載された“MuSCAT3”。(Credit: MuSCATチーム(出所:東大Webサイト)) |
研究チームによれば、地上最高レベルの測光精度を4色で同時に達成でき、時差の離れた望遠鏡に搭載されている“MuSCAT2”と“MuSCAT3”の連携が大きな威力を発揮したそうです。
その結果、5つ目の公転周期は予測通りの約41.06日であることが確認されました。
このデータの中に、5つ目と6つ目のトランジット現象が存在すると推測。
解析の結果、実際に予想された時刻にトランジットが確認されています。
今回の研究で判明したのは、“HD 110067”はすべての隣り合う惑星の公転周期が、尽数関係を持つ6つ子の惑星系であること。
なお、7つ目以降の存在は未確認ですが、今後も探査が続けられるようです。
また、6つの惑星の半径は地球の1.9~2.9倍ほど。
岩石惑星ではなく、水素大気を持つ小さな海王星(海王星の半径は地球の約4倍)のような惑星だと考えられています。
さらに、“HD 110067”のように3つ以上の惑星が尽数関係を持つ惑星系は、惑星が原始惑星系円盤内でどのように形成され、移動していくのかを理論的に深く考察する手掛かりを与えてくれるはずです。
加えて、5つ以上のトランジット惑星が発見されている星の中で、“HD 110067”は最も明るいとのこと。
明るい星のトランジット惑星は大気の観測に適していて、しかもこの惑星系には複数の惑星で大気の比較も行いやすいと考えられます。
これらのことから、今回の6つ子の惑星は、今後の惑星大気観測の絶好のターゲットとなり、尽数関係にある惑星が原始惑星系円盤内でどのように大気を獲得したのか、そして恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化にどのような影響を与えたのか、といった研究が進むことが期待されます。
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