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月の表面に存在する微量の水、供給源は太陽風以外にもあった! 地球由来の高エネルギー電子による水生成プロセス

2023年12月04日 | 月の探査
地球の衛星“月”は、大気のない非常に乾燥した天体です。

でも、月の表面には微量の“水”(※1)が存在することが分かっていて、その主な起源は“太陽風”にあると考えられています。
今回の研究で言う“水”は、通常の水分子(H2O)だけでなく鉱物と結びついた形で存在する水酸基(OH)を含む。
ただ、太陽風が遮断される地球磁気圏の尾部を、月が通過しているときに水の蒸発が観測されていないことは、月面の水に関する大きな謎として残されていました。

今回の研究では、インド宇宙研究機関(ISRO)が打ち上げた月探査機“チャンドラヤーン1号”の観測データから、太陽風が遮断される地球磁気圏の尾部を通過中でも、月面で水が生成されていることを突き止めています。

この観測結果は、月面の水の主要な供給源に、地球由来の高エネルギー電子が加わる可能性があることを意味しているようです。
この研究は、ハワイ大学マノア校のShuai Liさんたちの研究チームが進めています。
図1.“チャンドラヤーン1号”によって観測された月の表側の物質の分布。青色が濃い場所ほど水が多いことを示している。(Credit: ISRO, NASA, JPL-Caltech, Brown Univ., USGS)
図1.“チャンドラヤーン1号”によって観測された月の表側の物質の分布。青色が濃い場所ほど水が多いことを示している。(Credit: ISRO, NASA, JPL-Caltech, Brown Univ., USGS)

月の表面では現在進行形で水が生成されている

地球唯一の衛星“月”では、太陽の光が当たる部分の温度が約120度にもなります。
なので、水は蒸発する上、月には大気がほとんど無いので、その蒸発した水を保護することができず、すぐに宇宙空間へ拡散してしまいます。
このため、地球と異なり、月の表面は極度に乾燥した不毛の大地になっています。

でも、その後の探査により、月の極にある“永久影”の中に水が氷の状態で存在することが分かってきます。

月は自転軸の傾きがとても小さいので、月の極域にあるクレーターの内部には、太陽の光が決して届くことのない領域が生じています。
これを永久影といい、温度は最高でもマイナス157度ほどにしかなりません。
そこに彗星が落下するなどして水がもたらされれば、氷の状態で保存される訳です。

一方、月の表面の日当たりのいい場所でも、水分子が閉じ込められていることが分かっています。

その証拠として、太陽光が当たる場所で昇華して宇宙へと逃げた、極めて薄い水蒸気が観測されています。

逃げ出すプロセスが働きながらも、水が存在している。
このことは、月の表面では現在進行形で水が生成されていることを意味します。

太陽風に代わって水を生成するプロセス

月の表面で水が生成されるプロセスとして、これまで強く支持されてきたのは“太陽風”です。

太陽風は太陽表面から放出される電気を帯びた粒子“荷電粒子”の流れで、主な成分は陽子(水素イオン)です。

太陽風は高エネルギーなので、月面を構成する岩石に衝突すると、鉱物の中に含まれる水酸基(OH)が分離してしまいます。
この水酸基に太陽風の陽子が結合することで、水が生成されることになります。

こうした高エネルギーな荷電粒子による化学反応は、月だけでなく大気が存在しない他の天体でも起こっていると考えられています。

ただ、この生成プロセスには一部に謎があり、カギとなるのは“地磁気(地球の磁気圏)”の存在でした。

磁気は太陽風の進路を曲げる性質があるので、天体の磁気圏内部では太陽風が遮断されます。
月の磁場は極めて弱いのでほとんど無視できますが、無視することができないのが強い磁場である地磁気の存在です。

地磁気は太陽風との“押し合い”によって、まるで彗星の尾のように太陽とは反対側に長く伸びています。
月は地球の近くを公転しているので、伸びた地磁気の尾部に定期的に入り込むことになるんですねー

すると、太陽風が約99%も遮断される地磁気の中では、太陽風による水生成プロセスが停止することに。
月面の水が太陽風によって生成されているのであれば、この期間中は水が生成されず蒸発する一方になります。
なので、月面の水の量は時間と共に減少するはずです。

でも、実際の観測では、太陽風が遮断されているときにも、月面の水の量はほとんど変化していないことが分かっています。

太陽風が遮断される期間は、月の日中の約27%に渡るため、太陽風に代わって水を生成しているのは何なのかが長年の謎になっていました。

地球由来の高エネルギー電子による水生成プロセス

そこで、今回の研究では、太陽風が遮断されている期間に水を供給するプロセスの解明を目指しています。

以前、研究チームは、月の表側(地球に向いている面)に酸化鉄が予想外に豊富に含まれていることを発見。
鉄を酸化させている酸素の供給源が、地球の上層大気だということを明らかにしていました。

この研究結果を踏まえると、地球から月へと流れ込む物質が、太陽風が遮断されている期間の水の生成にも関与している可能性は十分にありました。

研究では、月探査機“チャンドラヤーン1号”の観測データを分析。
これにより、月が地球磁気圏を出入りしているときの月面の水の量の変化を調べています。

“チャンドラヤーン1号”には、“月面鉱物マッピング装置”と呼ばれるリモートセンシング装置が搭載されていて、月面に存在する水を高い感度で検出することができます。

このデータの分析の結果、研究チームが見つけたのは、月面の水の量の変化と地磁気の尾部の出入りに関係性があることでした。

まず、月が地磁気圏内に入るときと出るときに、月面の水の量は増加していました。
研究チームでは、地磁気の境界近く(磁気圏シース)では、磁気と太陽風の相互作用によって、月面に届く高エネルギーの太陽風が増加し、水の生成量が一時的に増加すると考えていたので、これは予測通りの結果と言えました。
図2.地磁気の構造。今回の研究により、地磁気によって形成されたプラズマシート(Plasma Sheet)に含まれる高エネルギーの電子が、月面の水の供給源である可能性が示された。(Credit: NASA, Aaron Kaase)
図2.地磁気の構造。今回の研究により、地磁気によって形成されたプラズマシート(Plasma Sheet)に含まれる高エネルギーの電子が、月面の水の供給源である可能性が示された。(Credit: NASA, Aaron Kaase)
でも、驚くことに、地磁気圏内にいるときにも、月面の水の量がほとんど変化しいないことが確認されました。
このことは、地磁気圏内でも太陽風に匹敵する水生成プロセスが働いていることを示していました。

そこで、研究チームでは、地球を取り巻くプラズマシートに含まれる高エネルギーの電子が、太陽風の陽子と同様に鉱物を分解して水を生成する役割を果たしているのではないかと推定。
プラズマシートは、地磁気によって閉じ込められた荷電粒子で構成されていて、その中には高エネルギーの電子が豊富に含まれています。

このことが正しい場合、地磁気とプラズマシートの新たな役割が解明されたことになります。

今回の研究では、地球由来の電子が月面の水の生成に関わっているという、これまで知られていなかった地球と月の新たな相互作用を発見した可能性があります。

月面の水は将来の有人月探査ミッションにおいて、貴重な水の供給源になる可能性があります。
このため、水の生成過程の詳細を知ることは、効率的な水の取り出し方を考える上で重要なことになります。

この仮説が正しいかどうかを確かめるために、研究チームでは新たな月探査機による観測を提案しています。

地磁気の出入りとプラズマや水の量をより詳細に確かめることができれば、月面の水生成プロセスがさらに詳しく理解できるはずです。


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