『コンクリート・ユートピア』(英題:Concrete Utopia)
監督:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン,パク・ソジュン,パク・ボヨン,キム・ソニョン,キム・ドユン,パク・ジフ他
封切り日、実家へ寄った帰りに109シネマズ箕面へ。21:25からのレイトショーにて鑑賞しました。
こんな遅い時間からではありますが、結構客が入っています。
その中にあってただ1棟だけ倒壊を免れたマンション“皇宮(ファングン)アパート”を目がけて、
家を失った生存者たちが押し寄せてくる。
建物という建物は壊れ、地盤沈下も起こしているせいで都市機能は麻痺。
救助隊の到着もまったく見込めないまま、治安は悪化してゆくばかり。
食糧も底を突くことが危惧され、ファングンアパートの207号室の住人グメ(キム・ソニョン)がまず声を上げる。
婦人会の会長を務めるグメは、このマンションの住人を守ることが第一だと主張。
そのためには自己犠牲精神の高い者を代表として行動するべきだと。
ほかの住人もそれに賛同し、代表として902号室の住人ヨンタク(イ・ビョンホン)を選出する。
ヨンタクは寝たきりの母親の世話をひとりでしている冴えない男だが、
倒壊後のマンションの一室で出火騒ぎがあった折、部屋に飛び込んで火を消し止めたことがあった。
まさに彼こそがこのマンションと住人を守る精神を持つ者に違いない。
そんなヨンタクから防衛隊長に指名されたのはミンソン(パク・ソジュン)。
ミンソンは看護師の妻ミョンファ(パク・ボヨン)とふたり暮らしで、
こういう状況にも詳しそうな公務員だということが買われて、防衛隊長を任されたのだった。
もともとのマンションの住人以外は追い出すことに決まり、
ヨンタク統率のもと、まとまりを見せはじめるマンションの住人たち。
ミンソンもヨンタクに心酔している様子だが、
そもそも住人以外の排除に反対していたミョンファは不安をおぼえて……。
見ていて気持ちのいい話ではありません。最初から最後まで暗い。
だいたい、この災害はいったい何だったのかさっぱりわからないのですが、それはまぁいいか。
ぬぼーっとしたイケていないオッサンだったヨンタクがどんどん変わってゆきます。
イ・ビョンホンの演技には舌を巻くしかありません。
いたって普通の、根は善いはずの人たちが、この状況下で恐ろしい人間になる。
強奪も殺人もなんちゅうことのないものになってゆくのですね。
以下、ネタバレです。
ヨンタクは実は902号室の住人ではありません。
本物のヨンタクに騙されて全財産を失い、そのせいで妻子を路頭に迷わせそうになっている。
金を返せとヨンタクのもとを訪ねて怒鳴り合いになり、怒りに駆られてヨンタクを殺してしまう。
直後に災害に見舞われてそのまま居座ることになります。
どうしようもなくなっていた自分がこのアパートでは崇拝されている。
それに酔ってどんどん圧政を敷くようになるわけですが、
彼のおかげでマンションの住人の暮らしが安定しているのも事実。
彼のやり方に反対するミンファが本物のヨンタクの死体を見つけて偽ヨンタクを追及するけれど、
そのせいでさらに事態は悪化することになります。
災害下でどう行動するのが正しいのか。人間らしいのか。
マンションの住人の誰にも共感はできません。
詐欺に遭っていたとはいえ、人を殺し、その人のふりをしてリーダーにまでなった偽ヨンタク。
責められることしかないのでしょうけれども、
偽ヨンタクが吊し上げられそうになったとき、ヨンタクの母親が叫ぶ言葉が頭から離れません。
本当の息子よりも偽ヨンタクのほうがよほどちゃんと彼女の世話をしていたことがわかります。
正月早々大地震に見舞われた今年だから、さらにいろいろ考えるのでした。