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『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』

2021年05月22日 | 映画(あ行)
『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』
監督:さかはらあつし

来る日も来る日も十三へ。
どこの映画館へ行こうかなと選べる日はいつになったら来るのか。
ま、連日十三というのも楽しいですけどね。

すでにこのとき物心ついていた人なら覚えているはず。
1995年3月20日に起きた地下鉄サリン事件。

その車両にちょうど乗り合わせていて被害を受けたさかはらあつし監督は、
オウム真理教からアレフへと改称して活動を続ける宗教団体に接触。
広報部長の荒木浩に取材を申し込みます。

上映終了後にリモートトークショーがあり、
この日のゲストはさかはら監督と京都府立大学の宗教学の先生でした。
眠くなるシーンなどひとつもない作品でしたが、
やはりこうして話を聴くと、もう一度観たくなりますね。

さかはら監督は最初、アレフに寝泊まりさせてくれと頼んだそうです。
それは断られ、ならばと荒木氏を説得した末に選んだ形がロードムービー。
荒木氏の思い出の地である丹波や実家の高槻を共に訪れます。

実は序盤、さかはら監督の喋り方にちょっと抵抗をおぼえました。
ラッパーのようないでたちをした監督は、荒木氏にタメ口。
荒木氏のほうはずっと敬語で喋っているものですから、
被害者とはいえ、ほぼ初対面の相手にその喋り方はどうよと思いました。
しかし監督はお若く見えるだけで、帽子を取れば白髪混じり。
しかも荒木氏とは同窓の京都大学出身で、ひとつ歳上だというではないですか。
ならばタメ口もごもっとも、人は見かけによりません。失礼しました。

アレフの広報部長だからさぞかし口が達者だろうと思いきや、
荒木氏は大人しめで、ああ言えばこう言うふうにも思えません。
だけど麻原彰晃を今でも信じて尊敬していると言い切り、
事件は麻原彰晃の意図したことではないと信じている、いや、信じたいだけなのか。

高学歴の人のことだから始終考えているのかと思っていましたが、
この宗教団体の人は、教団と教義のこと以外考えたくないみたい。
さかはら監督が空海の三教指帰の話を持ち出し、
考えが2つ3つあってそれ以上考えないというのと、
1つしかなくてそれについてしか考えないのは全然ちがうとおっしゃっていました。
まさに荒木氏には1つの考えしかありません。

京都府立大学の川瀬貴也先生が、高学歴の人がオウム真理教に多い理由について話していたのも面白かった。
麻原彰晃って、ヨガの指導者としては優秀だったんですねぇ。
勉強のできる頭でっかちの人は、そこに身体論を絡められると落ちやすい。

映画自体は2015年に撮り終えていたけれど、その後、上祐史浩と激しく議論し、
この映画を上映するせいでアレフに入信希望者が増えたらどうしようかと、
葛藤に葛藤を重ねて完成までに5年かかったのこと。

加害者の名前はこうして覚えている人が多いのに、被害者の名前は知らない。
そして被害者の会にもヒエラルキーのようなものが存在して、
監督のように事件後に一旦渡米し帰国した人には入会が許されないという話も興味深い。

上映終了後のリモートトークショーってなんとなく面倒だと思っていましたが、
緊急事態宣言発令下で伺う機会が増えてみたら、やっぱり面白い。
作り手の話は聴かなきゃいけないと再認識しました。

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