4月2日 NHKBS1「国際報道2020」
顔を数万点ものパーツに分解し
表情1つ1つをAI(人口知能)がディープランニングすることで作る
Deep Fake(ディープフェイク)という技術。
顔を変えるだけでなく表情を自然に動かすことができる。
もともと映画などで活用するために開発された技術だが
今このディープフェイクが悪用されて傷つけられる女性が急増している。
オーストラリアで暮らすマーティンさん(25)。
ある日ネット上で目にしたのは身に覚えのない自分の姿が映るポルノ動画だった。
(マーテインさん)
「これもフェイク これもフェイク これもフェイク。
どれだけフェイクがあるかさえ分かりません。」
そこには名前や住所などの個人情報もさらされていた。
(マーテインさん)
「高校卒業後大学に入学したころの写真です。
大学のパーティーに行く前に撮りました。」
フェイスブックを利用し約1千人の友人とつながっていたマーティンさん。
友人との食事や旅行
家族と撮った写真
日々の何気ない投稿がディープフェイクに利用されていた。
(マーティンさん)
「ショックでした。
何が起こっているのか分からなくて
吐き気もして
とにかく怖かったです。」
誰の仕業なのか心あたりもなく
マーティンさんは弁護士や警察に相談した。
サイトの運営者に削除を求めたがディープフェイクはすでに拡散。
打つ手はなかった。
そこでマーティンさんは意を決してメディアに被害を告白。
(地元テレビ マーティンさん)
「私はSNSの画像を盗まれ
多くのポルノサイトに投稿されました。」
しかしネットでは誹謗中傷が増しただけだった。
“これで注目を浴びて金を稼ぎたいんじゃないか”
“自分でアップロードしたんだろ”
(マーティンさん)
「私にはフェイクと分かりますが
雇用主や友だち
私を知らない誰かが見たとき
これを私だと思い込むのではないでしょうか。
時間を経るごとにどんどん映像がリアルになっていくのです。」
ある研究機関の調査では
ネットにあるフェイク動画の数は半年間で2倍
1万4,000件以上に増加。
そのうち96%の動画が女性をターゲットにしたものだという。
女性の暴力被害などの相談に乗ってきたNPO団体。
課題となっているのが国境を越えて行われるディープフェイクの作成の取り締まりである。
この日話題となったのがフェイクポルノの作成を依頼できるというサイトの1つだった。
「これは“彼女のポルノを作るのにいくらかかる?”という依頼。」
「なんて恐ろしいの。
悪意に満ちている。」
“知り合いのフェイク動画を作ってほしい”
“作ってくれたら75ドル(約8,000円)払います”
ターゲットにされた女性の中にはイスラム圏の人と思われる写真も。
このサイトでは相次いで寄せられる依頼に対し
“作成に応じる”というコメントが記されていた。
ディープフェイク発祥のアメリカではニューヨーク州で
本人の画像や映像を許可なく使い精巧な偽物を作ることを禁じる法律ができるなど
規制が始まっている。
ネットの世界では国境を超えて依頼と作成が行われているため
もはや国内の法律だけで規制が困難な事態となっている。
(NPO職員)
「アカウント所有者の情報を入手する必要があるけど難しい。」
「運営者が外国にいれば企業に責任を取らせるのはさらに困難ね。」
誰が何のためにこのサイトを起ち上げたのか。
サイトの運営管理者は
あくまで“テクノロジーの進化のため”と主張した。
(サイト 運営管理者)
「人々がディープフェイクの技術を学ぶためにサイトを運営している。
たまたまポルノが人々の興味を誘っただけ。
物事には負の側面もあるということだ。
ディープフェイクは単なる道具だ。
どう使うかを決めるのは人間だよ。
テクノロジーの進化を止めてはいけない。」
ディープフェイクの脅威は
今年秋に行われるアメリカ大統領選挙にも及んでいる。
AIが作り出した実在しない人物の画像。
SNSにニセのアカウントを作り
トランプ大統領を支持する投稿を拡散させていたのである。
コミュニケーションツールとして発展してきた一方
嘘の拡散に利用されてきたSNS。
フェイスブック社は今年
ディープフェイクの一部を削除する方針を打ち出した。
ただ どこまでを表現の自由ととらえるかの判断が難しく
規制は限定的であるべきだとしている。
(フェイスブック社)
「人々が自由に表現し意見交換できるようにするのと同時に
利用者が見たくない内容から守る必要もあり
このバランスをどうとるのか難しいのです。」
世界中の研究者もディープフェイクの対策に追われている。
ニューヨーク州立大学の研究室ではAIを使って動画の真偽を見破る技術を開発した。
ニセの動画が作成されたときに生じるわずかな歪みを検知し
ディープフェイクを見つけ出す。
しかし見破る技術が高まればそれを利用してディープフェイクを作成する技術も高まる“いたちごっこ”の状況が続いている。
(ニューヨーク州立大学 シーウェイ教授)
「どんなに高度な見地技術があっても
より精巧なフェイク動画が検知を逃れます。
“ネット動画は全部信じない”という過剰反応をする人もいますが
私たちはそれくらい気をつけないといけません。」