9月20日 NHKBS1「国際報道2019」
温暖化による海水温の上昇が引き起こす危機。
気象庁によると
世界の海水の平均温度はこの100年で0,54℃上昇した。
わずかな幅のように思えるかもしれないが
実は地球レベルでさまざまな影響を及ぼしている。
たとえば近年増えている大型ハリケーン。
9月 アメリカの研究グループはその最大の要因は海水温の上昇だという分析結果を発表。
海水温の上昇で
世界最大のサンゴ礁帯グレートバリアリーフでは
大量のサンゴが白く変色したり死滅したりしている。
タンザニアでは
海水温の上昇がある特産品づくりを直撃して
女性たちが仕事を奪われる事態となっている。
インド洋に浮かぶタンザニアのザンジバル島。
人口約130万。
その9割がイスラム教徒である。
かつて沿岸部では観光以外に目立った産業はなく
その女性の働き場はなかった。
そんな島の暮らしを変えたものがある。
潮が引いた遠浅の海に入っていく女性たち。
目指すは50メートルほど沖の養殖場である。
この海で育まれているのは特産の海藻。
ロープにくくりつけて養殖し
シャンプーや化粧品などの原料としてヨーロッパや中国などに輸出している。
海藻の養殖が導入されたのは30年ほど前のこと。
遠浅の海での作業は女性でも働きやすく
いまでは2万人の女性がこの仕事に携わっている。
20年ほどこの仕事についてきたシハバさん(45)。
シハバさんは海藻をとるだけでなく仲間と海藻を使った加工品も作っている。
(シハバさん)
「この海藻の粉を使って石けんやクリームを作っています。」
地元でとれるクローブやレモングラスなどを混ぜることで付加価値をつけ
土産物として販売している。
この仕事を始めるまで農業を営む夫の収入に頼ってきたシハバさん。
海藻の仕事で月に100ドル以上の現金収入を得られるようになり
4人の子どもを高校に通わせることが出来たという。
(シハバさん)
「海藻のおかげで人生が大きく変わりました。」
ところがいま地球温暖化によってその仕事が脅かされている。
海藻が白くふやけている。
海水温が上がったためバクテリアがついて病気になり死滅してしまうようになった。
(農業省 海洋環境専門家 サルム氏)
「すべての変化は海水の温度上昇のせいです。
海が遠浅になるとき
特に水温が上がります。」
この5年でザンジバルの海藻の生産量は半分ほどに減った。
生産額も1億円以上落ち込み
地元経済への影響が懸念されている。
(農業省 海洋環境専門家 サルム氏)
「温暖化によって
この島では海藻の産業そのものが崩壊しかねない事態です。」
苦肉の策で始まったのが養殖場の沖合への移動である。
沖合の深い海は水温が低く
病気の被害を避けることができる。
しかし深い沖合が養殖場になったことで女性が仕事に就くのは難しくなった。
保守的な価値観が根付く島では女性が泳ぐことへの抵抗感が強いのである。
「女は水が浅い場所でしか仕事できないからね。
俺たちならもっと沖合の深い場所でも働けるよ。」
5年前に階層採りをやめたマウリドさん(52)。
(マウリドさん)
「沖合の養殖場では水が首のあたりまで来るのでとても無理です。」
他に働き口もなく
夫の収入に頼る生活に戻ってしまった。
(マウリドさん)
「私の養殖場は海の中に消えてしまいました。
以前は自分で稼ぐことができたのに
今は厳しい状況です。」
来る日も来る日も海に入って海藻を育て
経済力をつけてきた女性たち。
気候変動がその職を奪い去る現実が起きていた。