4月20日 国際報道2017
第二次世界大戦中
ナチスドイツがユダヤ人を中心に約110万人を虐殺したアウシュビッツ強制収容所。
現在その跡地は博物館となっていて
世界中から年間200万人以上が見学に訪れる。
ここで人類の負の歴史を伝えているのがガイドたちである。
難民や移民の受け入れをめぐりヨーロッパが揺れるなか
いまアウシュビッツをどう伝えるのか
模索している。
ポーランド南部アウシュビッツ強制収容所。
ヨーロッパ各地からこの収容所に連れてこられたのは
ユダヤ人に加え政治犯や精神障碍者など。
寒さと飢え
そしてガス室に送られるなどして約110万人が亡くなった。
20年前からアウシュビッツでガイドを務める中谷剛さん(50)。
ただ1人の日本人ガイドとして年間約400組を案内している。
中谷さんたちガイドの役割はここで起きた事実を説明すること。
案内したのはユダヤ人が連れて行かれたガス室の模型である。
(ガイド 中谷剛さん)
「天井にはシャワーの蛇口も取りつけてあったんですが
水やお湯が出ることはなくて
害虫駆除の薬が投下されて
全員が息絶えるまでに20分以上かかったとも言われていて
ユダヤ人は非常に苦しんで殺されたと言っていいでしょう。」
現在中谷さんのような博物館のガイドは
17の言語を話す総勢284人。
いまガイドたちはかつてない危機感を抱いている。
ヨーロッパ各地で続く難民や移民の排斥を訴えるデモ。
特定の民族や宗教に対する偏見や差別の声が強まっている。
今年ポーランドでも
移民が起こした殺人事件をきっかけに反発が一気に広がったのである。
(アウシュビッツ博物館 カツォジック副館長)
「いま世界には異民族・異教徒への軽蔑・憎悪・不寛容が渦巻いています。
私たちが伝えたいのはこれらがどんな結果を招くのかということです。」
いま自分はガイドとして何を語るべきなのか?
中谷さんが思い返していたのは
生還者の1人 カジミエシュ・スモーレンさんからかけられたある言葉だった。
“涙を流すよりも考えてほしい”。
大切なのはここで起きたことの悲惨さを伝えることではない。
二度と過ちを繰り返さないようにすることもまた重要だと気づかされたと言う。
(ガイド 中谷剛さん)
「こういったことが起きないように考えてもらえるか
考えようとしてもらえるか
こういうことを繰り返さないように。」
いま大切にしているのは
見学者に対して繰り返し問いかけをすることである。
「どうして人が害虫を殺す方法で殺しえたのか?
ノーベル賞を一番多くとるような非常に文化水準の高かった地域で起きた。
このあたりは皆さんに少し考えてもらうしかない。」
中谷さんがいま必ず案内する場所がある。
「あそこの3本の白樺の先の一軒家。」
アウシュビッツ強制収容所のルドルフ・ヘス所長が暮らしていた家である。
家庭では子どもを持つ父親だった人物がなぜ虐殺に加担していったのか。
そこを入り口に身近な問題として考えてほしいと問いかける。
「当時 皆さんがナチスの隊員だったら
いやドイツの市民だったら
ユダヤ人の書いた本を焼いてみたり
商店・教会が襲われても黙認するわけです。
皆さん どっちの立場をとれたか
なかなか難しい。」
(見学者)
「歴史ってただ過去のことじゃなくて未来のために必要なもの。
深く考えることがいっぱいあると思うことができました。」
(ガイド 中谷剛さん)
「これから世界はどこに向かっていくのか。
歴史を鏡にしていく必要があるように思います。
直接の痛みを持っていない次の世代が
どう受け止めてそれを考えるか。
難しい課題を私たちは与えられているんだと思います。」
アウシュビッツではいま生還者の間でも移民排斥に対して懸念の声が広がっていて
これまで証言をしてこなかった人も自らの経験を語り始めている。