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江戸川乱歩 夜の夢にも似た蜃気楼の世界

2014-10-25 07:15:00 | 編集手帳

10月22日 編集手帳

 

江戸川乱歩の短編『押絵と旅する男』に蜃気楼(しんきろう)の描写がある。
〈蜃気楼とは、
 乳色のフィルムの表面に墨汁をたらして、
 それが自然にジワジワとにじんで行くのを途方もなく巨大な映画にして、
 大空に映し出し たようなものであった〉

光景が目に浮かぶようで、
蜃気楼を活字にした文学作品のなかでも指折りの一節だろう。
好きで何度も読み返す文章だが、
そのたびに思う。
乱歩その人が、
小説という名の幻想的な蜃気楼の作り手だったかも知れない。

推理小説と呼び名が変わって久しいが、
日本で探偵小説を創始した乱歩の今年は生誕120年にあたる。

来月、
ユニークな短編集が刊行されるという。
湊かなえさんなど当代の人気作家5人が「少年探偵団と怪人二十面相の対決」をテー マに小説を執筆した。
いまは青々と茂る推理小説の樹林である。
種子を最初にまいた人を称(たた)える試みに、
ご当人も泉下で目を細めているに違いない。

乱歩は好んで色紙に書いた。
〈うつし世は夢 
 よるの夢こそまこと〉。
生誕の節目を縁にその作品と接し、
夜の夢にも似た蜃気楼の世界に魅了される若いファンも生まれるだろう。

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