2021年3月8日 NHK「おはよう日本」
昭和53年8月 巨人の王選手が前人未到の800号ホームランを打った試合。
名前を呼び上げたのが
当時アナウンスの仕事に就いて間もない山中美和子さんである。
応援するファンの気持ちに寄り添うことを心がけ
44年にわたって選手の名前を呼び上げてきた。
(場内アナウンス44年 山中美和子さん)
「場内放送を合図にファンの人たちは『ワー』とやりたい。
ワクワクしている時間を楽しむ。」
王さんは呼び上げかたに最も苦労した選手で
何度も練習したという。
(場内アナウンス44年 山中美和子さん)
「盛り上げようと思えば『おう!』となってしまう。
それだとおかしいので
次の打席は『おぅ』みたいな感じになってしまって。
本当に王さんは難しかった。
その山中さん
今シーズンで引退する。
そして今年42年ぶりに3人の新人が誕生した。
研修では熱の入った指導が行われる。
「1番 セカンド 吉川
1番 セカンド 吉川」
(山中さん)
「同じ調子で言わないほうがいい。
1回目と2回目の調子を変える。」
2月27日の2軍戦。
この日デビューする新人たちは緊張している様子だった。
「6番 ショート 呉(ウー)]
「ファーストですよ。」
「間違えました?」
「呉(ウー)ショートと。
正しくはファースト。」
「私が間違えたんだ。
気をつけよう!」
(42年ぶりの新人 小倉星羅さん)
「すごく緊張した。
伝統を引き継ぐ思いがとてもある。
1軍の舞台を目指し
山中さんを良い形で安心して送り出せればと思う。」
(今シーズンで引退 山中美和子さん)
「ファンの人と一緒に盛り上がってほしい。
いちばん大事なのはジャイアンツファンでいることだ。
自分がいちばん好きだと3人で競争してほしい。」
山中さんの指導を受けた新人の3人は今後も2軍の試合を中心に実戦を重ね
今シーズンの1軍デビューを目指す。
2021年3月5日 NHKBS1「国際報道2021」
3月5日に開幕した全人代。
李克強首相は今後 中国は“科学技術強国“を目指すと強調した。
(中国 李克強首相)
「国家戦略として科学技術のイノベーションを加速させその強化を推し進める。」
中国はいま5Gや人工知能などのハイテク分野に経済のけん引役を期待している。
ところがこうした分野に欠かせない半導体をめぐって課題に直面している。
アメリカ政府は一昨年以降
中国の通信機器大手ファーウェイに対して
半導体などの輸出を禁じるなど締め付けを強めてきた。
半導体の多くを輸入に頼ってきた中国は自国での産業の育成を急いでいる。
2020年10月 上海で開かれた展示会。
政府系のメーカーなどが開発した半導体の技術力をアピールした。
(紫光集団 申副総裁)
「製品を着実に発展させ
全世界に届けます。
私たちの製品の技術力の高さを信じています。」
産業育成のため国を挙げた支援が行われ
政府系ファンドが3兆円余の資金を調達して積極的に投資を行なっているほか
高性能の半導体を製造する企業には最長10年間法人税を免除している。
政府の大号令に応じ地方では半導体への巨額の投資が次々に行われてきた。
しかし行き詰まるプロジェクトも相次いでいる。
半導体の国内生産を目指して作られている巨大な工場。
資金繰りがつかなくなり工事がストップしたと伝えられている。
内陸部湖北省では“1兆円以上投資してスマートフォン用の半導体の製造工場を作る“と大々的に宣伝されていた。
しかし去年工事が突然停止した。
「1年間 作業員の給料は支払われず
みんなここに残っています。」
東部江蘇省でも5年前から着工していた半導体工場の建設が停止。
イスラエルの企業と提携し
電気自動車の充電スタンドなどに使用される半導体を生産する計画だった。
プロジェクトを進めていた企業の会長 李さん。
地元政府からも経済開発区の土地の取得や資金面での支援を受けていた。
(李さん)
「南京の経済開発区のトップや関係者が来賓し工場建設の式典を開きました。」
成功は間違いないと考えていたが
短期的な利益を求める投資家などがから十分な資金を集めることが出来ず
破産寸前まで追い込まれたという。
(李さん)
「まさか資金繰りがつかず立ち行かなくなるとは
当時深く考えておらず
反省しなければならない点だと思います。」
いま中国では
投資総額が1,000億円以上になると宣伝された半導体関連の大型プロジェクトのうち
少なくとも6件が破綻しかかっていると指摘されている。
専門家は
半導体産業は長期的には有望だとする一方で
高い技術力が必要で
育成のあり方を見直す必要があると指摘する。
(芯謀研究 顧主席アナリスト)
「地方政府はあまりにも焦って半導体産業を発展させようとするため問題が起きています。
専門性がなく無計画な政策を取り続ければ
国際競争で差が縮まるどころか広がってしまいます。」
2021年3月5日 NHKBS1「国際報道2021」
世界各国の経済はコロナ禍で打撃を受けているが
そんななかでも中国 李克強首相は全人代で
「中国は着実に経済回復を進めている」と強調した。
中国南部広東省。
製造業が盛んなこの地域は“世界の工場”とも呼ばれ
中国経済をけん引してきた。
しかし長引くアメリカとの貿易摩擦に加え
新型コロナの影響で世界的な需要が落ち込んだことで
特に中小企業は深刻な打撃を受けている。
職業紹介所には失業したという人が相次いで訪れている。
「去年コロナの影響で会社がつぶれ実家に帰りました。
今年の雇用状況も同じです。」
「本当に労働者を募集する企業が少ないです。
あっても40歳を超えると雇ってくれず
もっと厳しい条件を緩くしてほしいです。」
労働争議の仲介など行なう会社の代表 顔さん。
対応にあたっていた製造機器メーカーを訪ねると
「この張り紙は?」
「賃金の未払いで裁判が起こされていると。」
賃金が未払いのまま経営者が行方不明になっていた。
別の会社を訪ねると
もぬけの殻になっていた。
(顔さん)
「この企業も倒産して経営者は行方不明になっています。」
経済的に行き詰まる企業はいま中国全土で急増している。
中国の最高裁判所が公開している
去年1年間の企業の破産などに関する文書は約4万円。
前の年に比べて6割以上も増えている。
顔さんのもとには労働者からの相談も急増している。
この日は勤め先の工場で突然解雇されたという男性が訪れた。
(相談者)
「雇用契約が切れたと言われ解雇されました。」
(顔さん)
「失業補償は?」
(相談者)
「いま話し合っています。」
失業して出稼ぎ先から実家に戻った労働者も厳しい状況に置かれている。
(顔さん)
「実家で仕事を探せていますか?」
(相談者)
「月4万円程度の仕事しかなく生活できません。」
(顔さん)
「失業は特に労働集約型の企業
技術水準が低い企業に発生しています。
技術がなければ不安定な職しか見つけられず失業のリスクにさらされます。」
2021年3月4日 NHKBS1「国際報道2021」
今アメリカでアジア系の住民に対する暴行事件が相次いでいる。
新型コロナウィルスを持ち込んだのは中国人だという見方が広まり
アジア系の住民が狙われるようになったのである。
地下鉄で突然切り付けられ顔に傷を負った男性もいる。
日本人が巻き込まれるケースも急増。
偏見に基づいた犯罪
「ヘイトクライム」がアメリカに住んでいるアジア系住民に対して増えている。
ニューヨーク市によると
アジア系へのヘイトクライムの件数は
2019年にはわずか1件だったが
2020年には確認されているだけでも30件と急増している。
ジャズピアニストの海野雅威さん。
去年9月ニューヨークで暴行を受け大けがをした。
年末に日本に戻りリハビリを続けている。
事件から半年
骨折した右肩は今も自由に動かすことが出来ない。
海野さんが被害にあったニューヨークの地下鉄の駅。
夜7時半ごろ改札口付近で8人の少年たちに呼び止められた。
危険を感じ地上へと向かった海野さん。
しかし近くの公園で捕まり
全身を殴られたり体を地面にたたきつけられするなど15分にわたって激しい暴行を受けた。
当時公園には多くの人がいたが誰も止めに入らなかったという。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「なぜそんな理不尽に通りがかりの人を襲うんだということは
自分の身に起きて痛みを伴っていますから
どういうショックか言いようがない。」
13年前ジャズの本場ニューヨークに渡った海野さん。
次第に演奏が認められるようになり
グラミー賞を受賞したトップミュージシャンと共演するまでになった。
しかし新型コロナの影響で広がった差別や偏見は海野さんの人生を大きく変えた。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「チャイニーズだと言って“やってしまえ”というような声を聞きました。
私が暴行を受けてチャイニーズとか言われたときに
“ああ これなんだ”と思って。
金目当てとかじゃなくてストレス発散で
見かけたアジア人に殴りかかるとか
そういう怖さになっています。」
新型コロナウィルスを持ち込んだのは中国だという見方が広がるアメリカ。
トランプ前大統領の度重なる発言が憎しみを増幅させた。
(アメリカ トランプ前大統領)
「チャイナウィルス。」
「チャイナウィルス。」
「チャイナウィルス。」
深刻な被害が出始めたのはチャイナタウン。
そしてアジア系の住民へと被害が広がっていった。
タイから移住してきた84歳の男性は
突き飛ばされて大けがをし2日後に亡くなった。
事態を重く見たバイデン大統領。
アジア系の住民に対する差別をなくしたいと大統領令に署名した。
(アメリカ バイデン大統領)
「私たちはもうひとつの悲劇に直面している。
アジア系住民などに対するヘイトクライムだ。
これらは間違っている。
私たちの国の品性を損なう。」
差別に立ち向かおうと
アジア系の住民が団結する動きも出てきている。
2月末ニューヨークで開かれた集会には約350人が集まり
アジア系住民に対する暴力を非難した。
「私たちは無視される存在であってはならない。
声を上げるべきだ。」
(アジア系人権団体 代表)
「私たちが怒り おびえていることを広く知ってもらい助けてほしいと思います。」
警察でも異例の取り組みが始まっている。
去年8月ニューヨーク市警では
アジア系住民を狙った犯罪を専門に扱うチームが結成された。
中国や韓国などから移住してきた警察官が声を上げたのがきっかけだった。
(ニューヨーク市警 アジア系特別捜査班 隊長)
「目的は全てのアジア系住民の被害者の役に立つことです。
わざわざ“アジア人も同じ仲間だ”というメッセージを出さなければけないのは
悲しいことです。」
人種の壁を越えて連帯しようという動きは海野さんの周辺でも起きている。
ジャズドラマーのジェローム・ジェニングスさん。
2人は何度も演奏を重ねてきた間柄。
見事な音色を響かせる海野さんのことを親友だと思っていたと言う。
(ジャズドラマー ジェローム・ジェニングスさん)
「海野さんは多くのものを費やして居場所を勝ち取った。
彼は外から来て僕たちの文化に溶け込んだ。
だから尊敬しているんだ。」
ジェニングスさんは事件後
海野さんのけがの治療や今後の生活を支えるためにネットで寄付を募った。
海野さんの長年のファンや差別に反対する人たちなどから予想をはるかに上回る寄付が集まった。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「被害を受けて誰とも交流したくない心境だったのです。
そっとしておいてくれと。
だけどそれじゃいけないって声を上げてくれたのです。
私の代わりに。
私のことを愛してくれる人がこんなにいるんだと 分かったので
受けた傷は大きいですけど
それよりも大きい愛も感じているというのが心境です。」
(ジャズドラマー ジェローム・ジェニングスさん)
「アフリカ系やアジア系に憎しみが向けられたら
僕らは結束しないといけない。
何かを変えることが出来るからね。」
海野さんは医師から
ピアノを元のように弾ける保証はないと言われている。
それでも再び演奏できるようになることが差別を乗り越えることだと信じている。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「音楽で人がつながれるという
言葉関係なくつながることが出来るという実感があります。
差別をなくすためにも
私はジャズミュージシャンとして演奏活動を続けていきたい
それだけです。」
2021年3月4日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
ワクチンの公平な分配を目指し
WHO(世界保健機)やユニセフ(国連児童基金)などが主導する国際的な枠組み
COVAXファシリティ。
現在190の国と地域が参加している。
先進国など98か国が資金を拠出しワクチンの開発などを支援。
途上国など92か国を含むすべての参加国が
自国民の人口20%を上限にワクチンを受け取ることが出来る仕組みである。
2月アフリカでCOVAXによる供給が始まった一方
公平な分配への課題は山積している。
2月24日西アフリカガーナに届けられた新型コロナワクチン。
COVAXによって供給される世界初めてのワクチンである。
(ユニセフ ガーナ事務所代表)
「COVAXのワクチンが供給された歴史的な瞬間です。」
2日後には同じ西アフリカのコートジボワールにもワクチンが到着。
3月1日にはそれぞれの国で医療従事者への接種が始まった。
COVAXで途上国への供給を担当するユニセフ シュライバー氏。
COVAXでの供給が始まったものの課題は山積しているという。
(ユニセフ シュライバー氏)
「ワクチンの供給は先進国でも遅れています。
とても複雑なことなんです。
医療体制がぜい弱な国であればその難しさは増します。」
最大の課題は
低温での保存が必要なワクチンをどう運び届けるか。
途上国では多くの医療施設で電気がなく電化製品が使えない。
そこで活用が期待されているのが太陽光などで動く冷蔵庫である。
ユニセフがこれまで途上国で肺炎などのワクチンを配るため設置してきたものである。
(ユニセフ シュライバー氏)
「太陽光で動く冷蔵庫を使えばワクチンを保存することが出来ます。
すでに4万台が設置されています。
多くのワクチンが供給されるようになるので
受け入れ準備が必要です。
今年の夏までに低温輸送体制を強化しなければなりません。」
途上国で始まったばかりのワクチン接種。
一方世界ではすでに医療従事者や高齢者などへの接種をほぼ終え
リスクの低い若者への接種が始まっている国もある。
(WHO テドロス事務局長)
「一部の国では
他国の医療従事者や高齢者よりも先に自国の健康な若者に接種をしていて遺憾だ。」
シュライバー氏も
まずは世界各地の医療従事者や高齢者への接種を優先すべきだと指摘している。
(ユニセフ シュライバー氏)
「裕福な国だけがワクチンを得るなんて倫理的に受け入れられません。
すべての人が守られなければならず
リスクの高い人から接種すべきです。」
ワクチンの分配が始まったことは評価できる。
新しいワクチンの開発は通常であれば何年もかかるものだが
COVAXに参加する先進国などが
世界各地の10のワクチン候補に一斉に投資したことが開発の大きな後押しになった。
アストラゼネカやモデルナのワクチンも
COVAXから提供された資金を受けて開発されたものである。
また開発と並行してワクチンの製造にも資金を投入し
大量生産体制を後押ししてきた。
このためワクチンの安全性が確認された後直ちに分配されることが可能だった。
課題となっているのは
先進国と途上国の接種のスピードに大きな格差があることである。
たとえばイスラエルはCOVAXとは別に
少なくとも800万回分のワクチンをファイザーから購入することで合意していて
ネタニヤフ首相は
ファイザーのCEOとの個人的な関係を生かして早い段階で調達できたとアピールしている。
実際 2月の時点で人口の半数余が少なくとも1回ワクチンを接種していて
これは世界でも極めて速いスピードである。
しかしアフリカなどの途上国では資金不足などから
自国で独自に製薬会社などと契約が結べず
ワクチンの供給を完全にCOVAXに頼っている国も少なくない。
先進国ではどんどん接種が進んで経済活動も再開していくのに
途上国では医療従事者ですら接種がなかなか進まない状況が続けば
格差がますます広がってしまうことが懸念される。
COVAXでは
医療従事者やリスクの高い人に必要な20億回分近くのワクチンを確保できているとしているが
これらが供給されるのは年末までの予定である。
COVAXでは
途上国だけでなく
日本などの先進国も含めて希望するすべての国に供給を行なう予定で
各国が独自契約した製薬会社などからワクチンを入手するスピードに比べて
供給には時間がかかる。
WHOのテドロス事務局長は
自国で確保したワクチンで医療従事者や高齢者などへの接種を終えた国に対しては
若い人たちへの接種を始める前に
途上国の医療従事者にワクチンを回してほしいと呼び掛けている。
しかし世界中で感染が続くなか
各国の政府はまずは自国民への接種を急いでいて
ワクチンを途上国へ回す動きは今のところ見られない。
COVAXの分配は始まったものの
世界全体にワクチンが行き届くにはまだまだ時間がかかるなか
COVACX人ワクチンの供給を頼る国が取り残されていないか
引き続き注視していきたい。
2021年3月4日 NHK「おはよう日本」
経済や文化の中心地として人々を魅了してきたニューヨーク。
コロナ禍でその姿が大きく変わりつつある。
5年前中心部近くの集合住宅で暮らし始めた男性。
2LDKで家賃は約30万円。
自宅に近いIT系の企業で働いているが
ほぼ毎日在宅でのテレワーク。
好きなミュージカルも休演で見られない。
憧れの町だったニューヨークを離れ郊外に家を買おうと考えている。
(クリストフさん)
「楽しめることが何もないのに
高い家賃払ってニューヨークに住む理由はありません。」
いま人気が高まっているのが郊外の一戸建て住宅である。
中心部から車で25分ほどの場所にある物件。
この日は20組以上が内覧に訪れた。
(内覧に訪れた人)
「公園が近くにあり
ニューヨークに行くのに便利なところを探しています。」
庭に面したリビングルーム。
3つのベッドルームや地下室など全部で8部屋ある。
これまでの相場より2割ほど高い5,800万円余と強気だが
自然に囲まれた環境が好まれ
すぐに買い手が決まったという。
(不動産業者 マネージャー)
「郊外の住宅任期は今後も続き
多くの人がニューヨークから移住するでしょう。」
都心離れが進むニューヨーク市。
去年人口は7万人減少した。
不動産会社の調査では1月時点で
中心部マンハッタンの物件は1万2,000室余が空室となり
1年前の倍以上に増えている。
このため不動産会社は破格ともいえる条件で借り手を見つけようとしている。
約90㎡の集合住宅。
去年出来たばかりだが
月々の家賃を約25%値下げ。
さらに入居から3か月間 家賃は無料にした。
それでも100部屋余のうち8割以上で借り手が見つかっていない。
(不動産会社)
「供給が上回っていて
歴史的な空室率の高さになっています。」
(財政政策研究所 シャインデさん)
「今の状況が続けば数十億ドル規模の財源不足になる恐れもある。」
2021年3月3日 読売新聞「編集手帳」
絵本の魅力を文章にするのはむずかしい。
ただしタイトルをここに示すだけで、
みなさんを深呼吸に誘えそうな荒井良二さんの作品がある。
『あさになったので まどをあけますよ』(偕成社)
1、2ページ目に山々の稜線の連なる風景が描かれ、
窓からの視線の持ち主である男の子のつぶやきが添えられている。
<やまは
やっぱり
そこにいて
きは
やっぱり
ここにいる
だから
ぼくは
ここがすき>
次ページからは街に住む子、
川や海の見える場所に住む子に視点を変えるが、
どの風景も「だから…ここがすき」と子供たちのことばで結ばれる。
荒井さんは東日本大震災を意識して描いたそうだが、
日常を突如奪われたいまの子供たちにも通じる視点だろう。
去年のいまごろは学校の一斉休校が始まったばかりで、
混乱の極みにいた。
かれこれ1年を経て日常をどれほど取り戻せたかと考えると、
忸怩(じくじ)たる思いがふくらむ。
朝が訪れて、
何を心配することなく窓を開けられる状態にはまだないだろう。
きょうはコロナ禍に迎える2回目の桃の節句。
地球が太陽を1周したかと思うと、
大人として胸が痛い。
2021年3月2日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
毒殺未遂から奇跡的に回復し今年1月に帰国した野党勢力指導者 ナワリヌイ氏。
2月の裁判で
過去の経済事件を理由に2年6か月服役することになり身柄は刑務所に移された。
ナワリヌイ氏の釈放を求めて大規模な抗議活動が起きたが
その中でロシアが抱える深刻な世代間の対立が浮かび上がってきた。
ナワリヌイ氏の逮捕が呼び水となり
ロシア全土に広がった抗議の声。
デモが起きた都市の数は120を超えた。
抗議拡大の原動力となったのがネットのSNSである。
ナワリヌイ氏の陣営は様々なSNSを使って全国の支持者にデモを呼びかけた。
SNS上では各地でデモ隊と治安部隊が衝突する動画が拡散。
スマートフォンに慣れ親しんだ多くの若者たちの目にとまった。
治安部隊の乱暴な取り締まりの様子に強まる若者たちの反発。
SNSにアップされた動画には
高校の教室に掛けられたプーチン大統領の肖像画を持ち去る女子生徒。
ナワリヌイ氏の写真に掛け替える生徒も現れた。
(大学生)
「これがロシアの刑事訴訟法です。
こんなもの忘れてください。
ナワリヌイ氏の逮捕は刑訴法に違反しています。
こんなもの なぜ必要なの?」
プーチン政権は抗議活動は違法だとして
これまでに1万人以上の参加者を拘束。
“欧米諸国が背後で画策している”として
厳しく取り締まる姿勢を崩していない。
(プーチン大統領)
「ロシアは封じ込められようとしている。
我々を弱体化し支配下に置くことが目的だ。」
政権側も
動画の影響力の大きさに気づき
若者向けの宣伝動画を拡散させている。
登場するのはインターネット通販で売り上げを伸ばしている会社の社員たちである。
♪誇りを持って頭を上げよう
母なる祖国のために
われわれは最後まで立ち上がる
母なる祖国のために
プーチンこそ大統領!
♪ロシア ロシア
その名が示す炎と力
その名が示す勝利の炎
国旗を高く掲げよう
プーチン大統領!
支持します!
21年にわたりロシアを率いてきたプーチン大統領への支持を呼びかける。
政府系機関や民間の世論調査ではいずれも
プーチン大統領の支持率はナワリヌイ氏の解放後も横ばいで
今のところ政権批判は抑え込まれている。
プーチン大統領を支持しているモスクワ在住の テリャトニコフさん(53)。
ナワリヌイ氏がプーチン大統領の退陣を求める一方
自らの政策は示さないことに共感できず
抗議活動を冷めた目で見ていた。
(テリャトニコフさん)
「ナワリヌイ氏には理念が欠けています。
将来性のあることは語れません。
いまはプーチン大統領でいいです。
事態は極端に悪くなりません。」
テリャトニコフさんは
30年前ソビエトが崩壊後の混乱を鮮明に覚えている世代。
経済や治安が極度に悪化するぐらいなら体制に従う方がましだと考えている。
(テリャトニコフさん)
「ロシア皇帝もソビエトの書記長も死ぬまで続けました。
頻繁に政権が変わった経験はありません。
民主的な政権交代は気質に合わないのです。」
民主主義なロシア人に合わないというのはロシア人の本音か。
政権の宣伝工作
いわゆるプロパガンダがそう思わせている側面が大きい。
プーチン大統領は
“過去の混乱を収拾したのは自分だ
自分がいなくなればロシアは再び混乱する”
というプロパガンダを就任以来21年間続けてきた。
そして7年前の2014年にウクライナのクリミアを併合したことをきっかけに
欧米の経済制裁が始まってからは
欧米を敵視する傾向が強まった。
つまり
外に敵を作り国民に団結を訴えることで
プーチン政権を批判するべきではないという世論を
特に中高年の間で作ることに成功したと言える。
一方 若者にはそのようなプロパガンダが浸透しないのはどうしてか。
実感がわかないからである。
ソビエト崩壊から今年で30年が経ち
当時生まれてもいない若者にとって90年代の混乱はもはや遠い昔の話である。
実感がわかない昔ばなしよりも
リアルタイムで入ってくる動画の方がはるかに説得力がある。
そして興味がわいたらスマートフォンでさっと情報を仕入れ
SNSやチャットで共有するため
政権のプロパガンダが浸透する隙がないというのが現状である。
若者たちの“プーチン離れ”を表す興味深い世論調査が2月末に公表された。
プーチン大統領が2024年以降も続投を望むかを世代ごとに尋ねた。
18~24歳の回答者は57%が“望まない”
31%が“望む”と答えた。
55歳以上の回答者は59%が“望む”
31%が“望まない”と答えた。
若者と中高年で真逆の意見が示されたのである。
全ての世代を合計すると
プーチン大統領の続投を望む人の方がまだ7%ほど多いが
あきらかに政権にとって逆風が吹いている。
政権側が抗議活動を厳しく取り締まる背景には
こうした統制できない若者たちが増えることへの危機感がある。
世代の溝が深まることは避けられない。
プーチン政権はここ数年
インターネットの規制強化を進めてきた。
具体的には
ロシアで活動するインターネット事業者に対して
ユーザーのデータを一定期間保管することを義務付けたり
当局がメッセージや動画の削除を要請できるようにした。
さらに2021年からはフェイスブックなどに対しても
当局が必要と判断すればサービスの遮断をできるようにした。
今のところ大規模な遮断が行われたケースはないが
こうした締め付けの目的がインターネット検閲の強化であることは明らかで
若者たちは反発を強めている。
ロシアの若者はインターネットの自由を
言論の自由や表現の自由と同じ
基本的・普遍的な価値観のひとつと受け止めている。
政権側がナワリヌイ氏を収監し
その主張を社会から排除できたとしても
今の路線を続けていけば若者たちのプーチン離れはますます加速する。
2021年2月25日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
アメリカ バイデン政権が重視する多様性の象徴ともいえるのが
カマラ・ハリス副大統領である。
その姿は
多くの女性
そして黒人をはじめとしたマイノリティーの人たちに勇気を希望を与えている。
女性・黒人そしてアジア系として初めてアメリカの副大統領に就任したカマラ・ハリス氏。
就任から1か月
その存在はアメリカ社会に変化をもたらしている。
ハリス氏はどのような人物なのか。
カナダ モントリオールで暮らす ケーガンさん。
ハリスの高校時代からの友人である。
(ケーガンさん)
「彼女は当時から意志が強い人でした。」
政治家になる前は検察官としてキャリアを重ねたハリス氏。
ケーガンさんの存在が検察官の道に進むきっかけだったと自身で振り返っている。
(カマラ・ハリス氏 公式Youtubeより)」
(カマラ・ハリス副大統領)
「高校の時
親友が父親から性的虐待を受けていたんです。
検察官を志した大きな理由は
彼女のような人を守りたいという思いでした。」
当時 義理の父親から性的虐待を受けていたと友人のハリス氏に相談したケーガンさん。
ハリス氏はすぐに救いの手を差し伸べたという。
(ケーガンさん)
「彼女に打ち明けたら
すぐに『一緒に暮らそう』と言ってくれました。
残りの高校生活を彼女の家族と暮らすことになりました。」
ケーガンさんはハリス氏に
副大統領としても思いやりを持って
自分のように苦しい立場にある人の味方であってほしいと語っている。
(ケーガンさん)
「当時 彼女が私のためにしてくれたように
すべてのアメリカ人のために闘ってほしいです。」
アメリカ社会で人種差別が根強く残るなか
ハリス氏が副大統領に就任したことによって
自分たちの未来が開けたと期待を膨らませている人たちもいる。
中西部ミシガン州で9歳の娘と暮らす オーティスさん。
黒人社会やその文化について理解を深めてもらいたいと
黒人に関する書籍などを集めた書店を経営するオーティスさん。
そのオーティスさんのもとを
大統領選挙期間中の2020年
ハリス氏が訪ねた。
(娘 エバさん)
「会って話が出来て本当に最高!!」
(オーティスさん)
「娘はハリス氏に自分自身を投影しています。
それが娘に希望を当てているのです。
有色人種の女性に不可能だったことが
出来る可能性があるという希望です。」
オーティスさんはハリス氏が副大統領に就任したことで
自分たち黒人
マイノリティーの未来が大きく開けたと感じている。
(オーティスさん)
「黒人には壊すことが出来ない壁を感じることもありました。
しかしハリス氏の存在で
今は限界などないと感じています。」
長くアメリカ社会を覆ってきたガラスの天井を破ったハリス氏。
女性・黒人・アジア系の先駆者としての歩みを
多くの人たちに希望と勇気を与えている。
(カマラ・ハリス氏)
「私は女性初の副大統領かもしれませんが
最後ではありません。」
2021年2月25日 NHKBS1「国際報道2021」
エジプトのロボット工学者 マフムード・コミーさん(27)。
エジプトでも新型コロナの影響が続くなか
コミ―さんは医療現場を支援する人型ロボットの開発に取り組んでいる。
ロボット作りを志すきっかけは日本のアニメだった。
自在に動くアーム。
肩に搭載されたサーモカメラで体温を測定し
胸のモニターで表示。
そしてPCR検査用の綿棒まで備え付けているのが
人型ロボットのキラ3号である。
まだ試作段階だが医療支援用に開発されたれっきとしたロボットである。
エジプト北部の町 タンタ。
開発者のマフムード・コミーさん(27)。
ロボット工学の博士課程を学ぶ大学院生である。
コミ―さんは去年3月
新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大するなか
ひっ迫する医療現場の助けになればとロボットの開発を始めた。
(ロボットを開発したコミ―さん)
「ロボットを作って医療関係者を救いたいと思ったのです。」
コミ―さんがロボット工学を志すきっかけとなったのは
昭和を代表するロボットアニメ「マジンガーZ」。
人が操るロボットが悪を退治するこのアニメシリーズは
エジプトをはじめ中東各国でも放送され多くの子どもたちの心をつかんだ。
(ロボットを開発したコミ―さん)
「マジンガーZや日本のアニメが大好きでした。
人の役に立つものを作るのが私の夢でした。」
しかし実際にロボットを作るとなると一筋縄ではいかない。
最初の壁は製作費である。
これまでにかかった費用約100万円は全て自腹。
コンピューター教室の講師をするなどして資金を工面した。
調達が難しい部品はおもちゃの部品で代用。
白いガムテープを使って胴体のあちらこちら補強するなど
苦心の末 作り上げた。
医療支援を目的とするため
性能の追求に妥協は許されない。
独自にソフトウェアを開発し
スマートフォンを使ってどこからでも遠隔操作できるようにし
綿棒の取り替えが可能なアームを使ってPCR検査までできるようにした。
マジンガーZほどのカッコよさはないが
医師たちの役に立ちたいというコミ―さんの思いがこもった作品である。
この日コミ―さんは実用化に向けた次のテストを行なった。
地元の病院の協力を得て
実際の医療現場で動きを確認する。
肺の超音波診断を行なう作業や
人工呼吸器を患者の口にあてる作業も試した。
しかしスムーズにマスクを口に運ぶことが出来ない。
視察をした医師は
(医師)
「アームが動く速さが問題です。
マスクをつけるまで時間がかかり過ぎます。」
(コミ―さん)
「自動で動かせるようになればもっと速くできます。」
少しほろ苦いテストになった。
(医師)
「世界的に医師が不足しているなかでロボットによる補助は不可欠です。
もっと性能を上げてくれれば。」
コミ―さんは次のキラ4号ではより性能を高めて本格的な医療現場での稼働を目指している。
(ロボットを開発した コミ―さん)
「コロナウィルスは巨大なモンスターです。
このロボットは強靭な兵士のように私たちを見守ってくれます」
日本のアニメへのあこがれから生まれた医療支援用の人型ロボットキラ。
新型コロナに打ち勝つため
出動する日はいつになるのか。
2021年2月24日 NHKBS1「国際報道2021」
広大ならラベンダー畑で知られる北海道の富良野地域。
いまコロナ禍で国際的な人の往来が厳しく制限されているにもかかわらず
アジアを中心とするアジアの投資家たちが
富良野に熱い視線を送っている。
2020年に富良野市に完成したコンドミニアム。
入り口を出るとすぐ目の前に富良野スキー場のゲレンデが広がっている。
香港の企業が開発を手掛けたこの物件。
最高級100㎡の部屋は2億円余。
33個すべてが中国やベトナムなどの投資家に購入された。
(香港の開発業者)
「富良野は海外の投資家の間で関心が高まっている。
投資することが出来てとても満足している。」
海外の投資家たちは原則
購入した物件をホテルとして貸し出して利益を得ようとしている。
タイの投資家が購入した物件。
どうすれば客を呼び込めるのか
不動産会社と投資家がたびたび打ち合わせを行なっている。
(不動産仲介会社)
「海外の宿泊客が冷蔵庫を使いやすよう
野菜室と冷蔵庫に英語のシールを貼ります。」
(タイの投資家)
「いいですね。」
この物件がある地区では4年連続地価が上昇。
投資家たちは物件の価値が高まることを期待している。
(タイの投資家)
「富良野の雰囲気のすばらしさが購入の決め手になりました。
価格があがったら売却して利益を得たいです。」
富良野市で最も開発が進むエリア。
住民の高齢化が進み家を手放す人が増えるなか
ここ数年で70余の土地や建物が海外の投資家に売却された。
なぜいま富良野なのか。
最大の理由は物件価格の安さである。
北海道でも高級リゾートとして知られるニセコ地区では10億円を超える物件もある一方
富良野はその5分の1程度で購入できる。
さらに
良質なパウダースノーのスキー場があるだけでなく
夏のラベンダー畑など
1年中観光を楽しめることから
海外の投資家の間で人気が高まっているのである。
(不動産仲介会社 池野社長)
「これからも順調に不動産開発の計画があるので
それも投資家の背中を押しているのでは。
これからまた伸びていくと思われる。」
このため海外の投資家が動きを活発化させている。
1月下旬 中国の投資家がオンラインで一軒家の物件を視察した。
(不動産業者)
「茶の間を開けたらすぐキッチンがあって。」
(中国の投資家)
「庭はどれくらいの広さ?」(不動産業者)
「庭は100㎡くらいかな。
夏はここは景色がいいから
外に出ると400mでスキー場。」
物件の価格がまだ安いとされる今だからこそコロナ禍であっても確保しておきたいという。
(中国の投資家)
「どのくらいの値段しますか?」
(不動産業者)
「だいたい今で3,500万円くらい。」
(中国の投資家)
「日本円で?
安い 安い。」
「富良野は中国人に超人気なところです。
安い時期に手に入れて
そのままおいたままにしてもかまわないし
だんだん時間が経つと北海道の土地が買われてなくなる。」
未開拓の投資先として急速に視線が集まる富良野。
コロナ禍を見据えて海外の投資家の動きが一層熱を帯びそうである。
2021年2月24日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う厳しい外出制限が今も続くフィリピン。
巣ごもり需要で空前のブームとなっているのが観葉植物である。
家々の庭先やベランダに鉢植えがどんどん増えていく様子から
植物の「プラント」と「パンデミック」をかけたプラントデミックという言葉も生まれている。
多くの人々にとって観葉植物が心の癒しとなる一方
価格が高騰するなどブームが過熱気味に。
野生植物の違法採取も相次ぎ問題になっている。
首都マニラの中心部で開かれた観葉植物の展示販売会。
今こうしたイベントがフィリピン各地で開かれ大勢の人でにぎわっている。
マニラ近郊に暮らすメンディーナさん(25)。
半年ほど前から栽培を始め
いまでは100鉢以上の世話をしている。
きっかけは感染拡大に伴う外出制限だった。
設計事務所に勤めていたメンディーナさんはこの影響で失業。
不安や孤独感にさいなまれるなか
心の癒しとなったのが観葉植物だった。
(メンディーナさん)
「植物栽培を始めたことで本当に救われました。
世話をしているとストレスから解放されます。」
空前のブームを背景に観葉植物の価格も急上昇している。
マニラにある園芸店。
売れ筋は葉の模様や形が珍しい植物。
アンスリウム 1万7,000円
フィカスティネケ 9,000円。
(店員)
「価格は急上昇しています!」
フィリピンでは感染拡大前と比べて価格が10倍以上
ものによっては70倍に跳ね上がったという。
2万円の鉢植えを購入した女性。
フィリピンの平均月給とほぼ同じ値段である。
(女性客)
「こんな高価なものを買うなんてどうかと思っているけど
家にずっといるなかで唯一の癒しが植物なんです。」
ライブ動画配信での販売も好調である。
この日は5分に1鉢のペースで売れていた。
(園芸店CEO )
「利益はこの1年間で2倍に上昇しました。
20~30代の若者も興味を持っていて
ブームは当面続くでしょう。」
一方で深刻な問題も引き起こしている。
フィリピン北部バギオ市で撮影された映像。
大きな袋を持った人物が歩道脇の植物を持ち去っている。
バギオ市は植物の窃盗が相次いでいるとしてパトロールを強化している。
さらに動画投稿サイトには山で植物を採取する映像がいくつも投稿されている。
「やぁ みんな!
きょうは仲間と一緒だ。」
「おい!それは何だ?」
「アロカシアだ!」
投稿者の男性が掲げるのは
独特な葉の形で人気が高いサトイモ科の植物である。
根っこごと掘り出した。
フィリピンの環境天然資源省は
違法な採取が増えているとして
こうした映像を公開し本人を特定するなど厳しく取り締まる姿勢である。
しかし広大な山林での対策には限界あり
今後生態系にも影響が出るのではないかと懸念されている。
(フィリピン環境天然資源省 レオネス次官)
「違法採取グループは組織化しており
コントロールが難しい状況です。
こうした違法採取が生態系全体に深刻な影響を与えるでしょう。」
2021年2月20日 読売新聞「編集手帳」
夏目漱石が、
「アイ・ラブ・ユー」を「月がきれいですね」と訳したという真偽不明の伝説は若い方ほどごぞんじだろう。
『鬼滅の刃』でも人気キャラがつぶやく。
ずばりと思いを口にするのではなく、
文学的な表現として小学生にもおなじみであるらしい。
将来は所変わって月面から、
「地球がきれいですね」と愛を伝える若者が現れないだろうか。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙飛行士の募集で、
文系にも門戸を開くという。
将来の月面活動を見込んでの方針転換とされ、
聞いた瞬間、
やや極端にも月面基地で小説や詩を書く活動を想像してしまった。
JAXAは米国主導の月探査計画に参加し、
早ければ10年内にも日本人が初めて月に降り立つ可能性がある。
どんな任務を負うのか定かではないものの、
理数に強い人に限らないという宇宙飛行士募集の多様化は、
宇宙少年の夢を広げることだろう。
かつて本紙歌壇に掲載された短歌を思い出す。
<月月月月月月とつらねれば梯子を登って月へ行けそう>(井上鈴野)。
梯子を登るのは算数の宿題をほっぽって、
漫画に興じるそこのきみかもしれない。
宇宙少年の夢
2021年2月18日 NHKBS1「国際報道2021」
新型コロナウィルスの感染者が1千万人を超えて世界で2番目に多いインド。
公衆衛生に対する意識が高まったことで
日本ではなじみ深い“爪切り”に熱い視線が向けられている。
インドの一般的な雑貨店。
店頭に並んでいるのは爪切りである。
日本の大手刃物メーカーが4年前から現地生産を行なっている。
爪の間の汚れを取る機能も備わっている。
食べ物を直接手に取る習慣があるため
現地に合った工夫が施された。
ニューデリー近郊にあるメーカー。
現地法人の責任者 パンディアさん。
30年間日本でビジネスマンとして働いた経験を生かし
爪切りの販売に力を入れてきた。
しかし当初は売り上げを伸ばすのに苦労したという。
インドでは伸びた爪はハサミやかみそりを使って切る人が多く
パンディアさんの会社が作った爪切りは見向きもされなかったのである。
(刃物メーカー現地法人責任者 パンディアさん)
「インド人の場合は爪切りをあまり使わずに歯でちぎったり
爪切りの重要性は日本ほど認識されていないのが現状。」
転機となったのは新型コロナウィルスの感染拡大だった。
健康や公衆衛生への意識が高まり
清潔さを保つ道具として爪切りに注目が集まるようになったのである。
外出制限の影響で特にネット販売が売り上げを伸ばし
6月から12月までの販売は前の年の同じ時期に比べて2倍に増加した。
(刃物メーカー現地法人責任者 パンディアさん)
「“インド人もびっくり”ということ。
人間っていうのは怖くなると健康に気遣い始める。」
感染拡大のさなかに高まった健康に対する意識をさらに定着させたい。
パンディアさんはいま各地を精力的に回り
爪を切ることの大切さを広めようとしている。
この日訪れたのはインド北部。
手を清潔に保つ方法を学ぶ子ども向けのイベントに参加するためである。
JICA(国際協力機構)が開いた。
「爪の角はばい菌がたまりやすいのでしっかり切ってください。」
都市部から離れた地域とあって爪切りは普及しておらず
初めて目にする子どもたちも多くいた。
パンディアさんの会社は5万個の爪切りを無償で提供することを決めた。
家族で爪切りを使ってもらい清潔さを保ってもらいたいと考えている。
「以前は爪をカミソリで切ったり歯でかじったりしていました。
これからは爪切りを使い
親にも教えます。」
(JICA インド事務所 大地田さん)
「反響はすごく良かった。
日本らしさを生かしながら
インドのコロナ対策に貢献したい。」
いつか爪切りをインド全土に広めたい。
パンディアさんの活動はまだ始まったばかりである。
(刃物メーカー 現地法人責任者 パンディアさん)
「きれいな爪が健康につながると教えていく。
その1歩をやろうとしている。
それが1つの流れになっていく。
国全体が変わっていくと思う。」
2021年2月16日 NHKBS1「国際報道2021」
日本の伝統文化 俳句。
La cloche a sonnne
quand je mangeais un kaki
Temple Horyu-ji
フランス語で読む
柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺
音節の数が五七五になっている。
La clo che a son ne
qsuand je man geais un Ka ki
Tem ple Ho ryu-ji
フランスで文化交流を進めているパリ日本文化会館が去年開いた俳句コンクールには
現地の小学生たちも応募した。
俳句が両国を結ぶ新たな架け橋になろうとしている。
パリ市内の小学校。
5年生が俳句の授業を受けている。
(先生)
「五七五のルール
それだけではないですよね。」
(児童)
「季語をひとつ入れる必要があります。」
(先生)
「季節を示す言葉ですね。
例えばなんだっけ。」
(児童)
「雪。」
姉妹校となっている日本の学校との文化交流を続けてきた。
去年クラスで俳句コンクールに応募した結果
そのうちの1句が優秀作品に選ばれた。
(パリ日本文化会館 諸橋さん)
「リナさんの俳句が優秀賞に選ばれました。
おめでとうございます。」
受賞作には新型コロナの影響で学校が休校となり
避難先の郊外で過ごした不安な日々がうたわれている。
ウィルスの 日々長くして 蒸し暑い
(受賞したリナさん)
「ロックダウンのときの気持ちを描きたかった。
コロナの怖さと友だちにも会えない寂しさ
複雑な気持ちだった。」
フランス語でも俳句の世界は奥が深いようである。
作ってみるとなかなか17音にはならない。
子どもたちは同じ意味を持つ言葉を辞書で調べて
音節を数え
思考錯誤を重ねる。
(ラバ教諭)
「最初は簡単だと思って喜びますが思うようにはいきません。
言葉を探しあぐねて簡単ではないと気づくのです。」
授業の最後に作った俳句を発表する。
運河沿い すべての川が蛇行して 水遊び万歳
コンクールの審査員を務めた川崎さん。
フランスで翻訳業のかたわら
地元の人たちに俳句を教えている。
自らも日本語とフランス語の両方で俳句を詠んで発信。
さらにフランス語の俳句を日本でも味わってほしいと和訳を手掛けている。
たとえばこれは今回の受賞作のひとつ。
Mas que un peu de fait (5)
pour miux sen tir le par fum (7)
du pam ple mou ssier (5)
少しずらしたマスク
もっと香りを嗅ぎたいから
グレープフルーツの木
マスクややずらして香る文旦樹
(俳句コンクールの審査員 川崎さん)
「マスクがあって息苦しいとかではなく
それをちょっとずらすってことで
自然の動きにとても敏感だと感じました。
とても繊細な句です。」
コロナ禍で日本とフランスの人たちが同じような不安や苦しみを抱いているなか
川崎さんは
俳句がお互いにエールを送り合う手段になったと感じている。
(俳句コンクールの審査員 川崎さん)
「閉塞感というのはやっぱりあったと思います。
ただそれよりも増してそれを乗り越えて
その自然の喜びなり
春が来た喜びとか
日仏で共有するというところがあったんではないかなと思います。」
授業の最後に男の子が詠んだあの作品。
le long du canal,
tous les fleuves serpentent,
Vive la baignade!
運河沿い すべての川が蛇行して 水遊び万歳
直訳ではこうなるが
川崎さんの訳は
水遊び 楽し 運河と うねる川
「すごいですね。
大人が運河と
ぐじょぐじょぐじょと蛇行する川を一緒に見るなんてこと
なかなか無い気がする。
そういったことをうまく対比して
大人もなかなか思いつかない
本当に傑作かもしれませんね。」
(俳句コンクールの審査員 川崎さん)
「皆さん読んで
これ言語はどっちフランス語?日本語?ってわからなくなるくらい
すんなりと入っていけるような訳ができたらいいですね。」
今回の日仏交流俳句コンクールの受賞作品は
パリ日本文化会館のサイトでみることができる。