2021年2月20日 読売新聞「編集手帳」
夏目漱石が、
「アイ・ラブ・ユー」を「月がきれいですね」と訳したという真偽不明の伝説は若い方ほどごぞんじだろう。
『鬼滅の刃』でも人気キャラがつぶやく。
ずばりと思いを口にするのではなく、
文学的な表現として小学生にもおなじみであるらしい。
将来は所変わって月面から、
「地球がきれいですね」と愛を伝える若者が現れないだろうか。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙飛行士の募集で、
文系にも門戸を開くという。
将来の月面活動を見込んでの方針転換とされ、
聞いた瞬間、
やや極端にも月面基地で小説や詩を書く活動を想像してしまった。
JAXAは米国主導の月探査計画に参加し、
早ければ10年内にも日本人が初めて月に降り立つ可能性がある。
どんな任務を負うのか定かではないものの、
理数に強い人に限らないという宇宙飛行士募集の多様化は、
宇宙少年の夢を広げることだろう。
かつて本紙歌壇に掲載された短歌を思い出す。
<月月月月月月とつらねれば梯子を登って月へ行けそう>(井上鈴野)。
梯子を登るのは算数の宿題をほっぽって、
漫画に興じるそこのきみかもしれない。
宇宙少年の夢