これは、心理学者である著者が、ナチスの強制収容所での体験を語った本です。
といっても、収容所の状況を、心理学的に分析したものではありません。
著者はあくまで「普通の人」として収監され、そこで生き延びたのです。
地獄のような環境で、著者はどのように過ごしていたのか。
そこに描かれているのは、良くも悪くも、「人間」ではないかと思いました。
同じ収容者どうし、だまし合い、足を引っ張り合う人間の愚かさ。
あるいは、ガス室に送られても、毅然として祈りの言葉を唱える人間の気高さ。
ヒットラーは、異次元からやってきた怪物ではなく、人間であり、
彼の為した所業でさえ、人間の一面である、ということです。
これからお読みになるという方は、そういう本だということを留意された方がよろしいかと思います。
よく、「日本人は平和ボケしている」なんて言われますが、
僕は、平和ボケって素晴らしいことだと思うんです。
世界中が一人残らず平和ボケしてしまえば、それは、ある意味で理想の世界ではないでしょうか。
しかし、現実には、世界のあちこちで、不毛な殺戮が行われています。
ミャンマーでは、国民に銃口を向ける殺人政権が、国を牛耳っています。
僕らは、戦争ほど愚かしいことはないということを、何度でも学ぶ必要があると思います。
この本を読むか読まないか、それは自由ですけどね。
いずれにせよ、たくさんの言葉が溢れ出すような、あるいは言葉に詰まってしまうような、
最近では忘れられたような読書体験でした。