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ロンドンから徒然に

中流階級の不安~グレゴリー・クリュードソン

2008-05-04 | アート
 ロンドンに住んでいると、もちろんものにもよるのですが、東京の物価の2倍くらいはするんじゃないかという実感です。家の価格もこの5年で倍になったと聞きました。
 ところが昨年末に初めて不動産価格の上昇がストップしました。雰囲気を見ていると、日本のバブルとその崩壊の時と同じような気配さえします。頑張って郊外に家を買って、まだローンを払い終わっていない人の不安はひしひしと伝わってきます。
 そんな漠然とした中流階級の不安をビジュアル化したらこうなるんじゃないかと思うような作品があります。アメリカの写真家グレゴリー・クリュードソンGregory Crewdsonの撮る写真です。

 現実の中の何百分の1秒の偶然を収める写真家が多い中で、彼は自分の理想の瞬間を求めて“演出”を行う作家です。その演出の規模たるやまるで映画そのもので、巨大なセットやロケでの撮影は、実際に映画製作の経験のある数十人のクルーを動員して行われます。
 また相当な完璧主義者らしく、撮影準備に数ヶ月かけることもざらで、なおかつそれでも満足のいく作品ができなかったと語ります。
 今日そのグレゴリー・クリュードソンの最新作“Beneath The Roses”を中心とした展覧会に行ってきました。場所はロンドン中心部の穴場的な場所Mason’s Yard(Duke Streetから横道に入る広場)にある、一昨年できたばかりの新しいギャラリーWhite Cubeです。

 148.6cm×227.3cmの大きな写真は、ひと目見た時からその不思議な光のありようで、現実から(悪)夢の世界に僕らを引きずり込んで、今度は各所に眼をこらすと、この風景がもたらす様々なストーリーが頭を駆け巡ります。どこかに暗い性的な出来事の示唆もあるので尚更です。
 細部にまで焦点が合って、全てはっきりと見えるのに、平べったくはなく不思議な奥行き感があります。人の配し方にあざとさも感じられますが、そこがまたB級の(でも素晴らしい)映画作品を見ているようで、そわそわとした興奮を感じます。

 でもこの“映画”の中には入り込みたくないような、でも誘惑にかられるような、無気味な魅力でした。

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