気ままに新書NO.１７・・・「『遠野物語』を読み解く」石井正己・著（平凡社新書）を読む

「遠野物語」は明治４１年、柳田国男は小説家の水野葉舟から、昔話ならいくらでも知っている珍しい男がいると遠野出身の佐々木喜善を紹介されたことから生まれたそうです。佐々木は遠野に伝わる話をお化け話と呼んでいたようですが、それを聞き書きし柳田はその時に「遠野物語」というタイトルをつけていたようで、柳田にとってみればそれは地方の発見であったということになるのでした。佐々木は訛りがひどかったそうですが、柳田はそれを文語体に直し民俗学の歴史的な書物となる「遠野物語」を完成させたのでした。

 

「遠野物語」が世に出た時を起点に考えるとそれは江戸時代よりも昭和の方に近い時であったわけで、遠野に住む村民にはまだその地には身近な存在として妖怪の類が跋扈していたということになるのでしょう。日本が近代化を進め列強の仲間入りをはたそうとする時代に、東北の奥地の盆地にはザシキワラシや河童、天狗らはそこにリアルなものとして生活にとけ込んでいたということなのです。しかし、一方で遠野は陸の孤島なのではなく、江戸＝東京とも密接に結びついていたようで、それは遠野の話にも都市部（＝江戸）の妖怪話の変形がそこには反映されておるところからも見ることができるということです。この本による解説を読んでいると、奇っ怪な話、不思議な話などを語り伝える口コミの根強いネットワークが遠野の地にはあって、まるで「遠野物語」は、今でいうところの＜都市伝説＞のようなものをまとめたのだというように思えてくるのでした。

 

この「遠野物語」は柳田国男の代表的な書物に違いないのですが（私などは柳田国男の本といえばこの「遠野物語」しか思い浮かべることしかできません）、間違いなく佐々木喜善による功績も大きいでしょう。（柳田は目のつけどころがよかった？）彼と出会わなかったら柳田は「遠野物語」を出すことはなかったわけですから。その佐々木ですが、宮沢賢治や折口信夫らとも交流があったようで、キラ星のような才能が同時代にあったわけです。

 

参考までにこの新書本の目次（章立て）は以下の通りです。　

 

　序章　　小盆地宇宙の構造

　第一章　『遠野物語』の発刊

　第二章　神々の呪縛

　第三章　精霊の楽園

　第四章　霊魂の執着

　第五章　動物との共生

　第六章　現代伝説の誕生

　第七章　日本のグリムの偉業

　第八章　童話への回路

　第九章　祝福と鎮魂のテクスト

　終章　　人類史学への提言

	『遠野物語』を読み解く (平凡社新書 460)
	石井 正己
	平凡社

	遠野物語・山の人生 (岩波文庫)
	柳田 国男
	岩波書店