・*・ etoile ・*・

🎬映画 🎨美術展 ⛸フィギュアスケート 🎵ミュージカル 🐈猫

【art】「川瀬巴水展 東京風景版画」鑑賞@江戸東京博物館

2008-03-31 01:31:01 | art
’08.03.22 「川瀬巴水展 東京風景版画」鑑賞@江戸東京博物館

川瀬巴水は以前この博物館で催された展覧会で初めて見てファンになった。日本の風景を描いた版画家だけど、西洋画の影響を受けたタッチが美しくてすごく好きになった。こちらも大好きな鏑木清方に弟子入り後、版画家として活動。すべて1人でこなすのではなく、巴水が絵を描き、彫師が彫り、摺師が摺るという伝統的な木版画法をとったらしい。これは浮世絵の技法と同じ。

常設展の中の第2企画展示室で公開。あまり広くないので点数も少ない。なので、描かれた場所の現在の写真と比較したり、原画と比較したりと工夫した展示となっていた。

「麻布二の橋の午後」など当時の美しい面影は今ではどこにもない。コンクリートに覆われた無機質な中に、わざとらしい装飾があったり人工的で味気ない。それに比べて版画の中の情緒ある風景が素晴らしい。それを写し取る筆力もすごいけど、繊細でかつ大胆な構図も素晴らしい。しっかりとした色合いと、版画特有のぼかしを利用したグラデーションや、淡い色使いが美しい。

有名な「芝増上寺(雪)」は原画と比較がある。雪の降りしきる境内を和服姿の女性が傘をさして歩く。風があるのか前傾姿勢。真っ白な雪景色の背景に重量感のある増上寺の建物の朱が映える。そして女性の姿がいいアクセントとなっている。原画もとても美しいけれど、版画になるとそれぞれの線がはっきりとして、色の濃淡が際立つ。好みの問題はあるけど、やっぱり巴水は版画の人なのだと思った。

「新大橋」「上野清水堂」などは原画と試摺り、本摺りもしくは、色の濃さや色合いを変えた変わり摺り(だったかな?)と比較して展示。試摺り、本摺りとの間で試行錯誤が感じられて楽しい。中には変わり摺りの方が好みの作品があったりして楽しい。「桔梗門」「二重橋の朝」などが美しかった。

川瀬巴水の版木は戦時中に多くが焼失してしまったのだそう。本当に残念。浮世絵とはまた違うモダンさがあって美しくすごく好き。ちょっと点数は少なかったけど見に行ってよかった。常設展のチケットで見れるのでお得かも。


常設展の写真↓



★川瀬巴水展 東京風景版画:4月6日まで
川瀬巴水展 東京風景版画(江戸東京博物館HP)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【cinema】『ノーカントリー』

2008-03-31 01:15:19 | cinema
'08.03.20 『ノーカントリー』@TOHOシネマズ市川コルトン

これは見たかった! コーエン兄弟は好き。さっそく見に行く。

「ベトナム帰還兵のモスはハンティングに出かけ、凄惨な銃撃戦の跡に出くわす。その場に残された200万ドルを持ち逃げした彼を、非情な殺し屋シガーが追う。そして2人を初老の保安官も追っていたが・・・」という話でホントにコレだけ。これはすごかった。

最初は気付かなかったけど、これは1970年代後半の話。ベトナム戦争のことは教科書で習った程度の知識しかない。ベトナム戦争についての映画はたくさん作られているけど、戦争映画はあまり見ない。だから当時のアメリカ社会のこともよく分からない。でも、この映画から感じる閉塞感はスゴイ。画がいい。『ファーゴ』の雪原に死体も良かったけど、テキサスの広漠とした平原がいい。すごく乾いた感じ。この映画のテーマの1つは「乾き」なんじゃないかと思う。人の気持ちが乾けば社会も乾く、社会が乾けば人もどんどん乾いていく。

溶接工のモスはベトナム帰還兵。トレーラー・ハウスで若い妻と暮らしている。彼の日常が説明的に描かれることはないけど、彼が居心地の悪さを感じていることは画から伝わってくる。何かが足りない感じというか、上手く言えないけど焦燥感のようなもの。普通の人ならあんな凄惨な場面に出くわせば、恐ろしくなって逃げ出すだろう。彼が普通でない体験をしてきた事が分かる。それが荒野の感じと合っている。彼が淡々と冷静にシガーの追跡から逃げる感じがすごくいい。黒い金とはいえ人のお金を持ち逃げすることはいいことではないのだけど、どんな困難な状況にも立ち向かう姿に逃げ切って欲しいと思ったりもする。

そして、モスの外見がチャールズ・ブロンソンに似てる気がする。これは狙いかな? 尊敬するMJがブロンソン好き(田口トモロヲとブロンソンズを結成している)にもかかわらず、ブロンソンの映画はほとんど見ていない。でも、たしかベトナム帰還兵が主人公の映画に出ていたような・・・。まぁ、当時はあんな外見の人が多かったのかもしれないけど。

殺し屋アントン・シガーのキャラがいい。おかっぱ頭にジーンズ上下、ウェスタン・ブーツといういでたちがいいし、酸素ボンベのような武器がいい。無表情でバルブを開けるのがスゴイ。シガーは自分のルールにしか従わない。自分のルールにかなっていなければ、殺さない時もある。その姿が「自由」と「勝手」をはき違えた現代人の姿を体現しているようでもあるけど、どこか生真面目で滑稽でもある。多分、あまりに徹底しているからだと思うけど機械のように感じる。車を爆破させてまで薬や包帯などを手に入れ、淡々と治療し、モスを追い続ける姿はターミネーターのよう(笑) 人間性のカケラも感じられない彼に、それでも魅力を感じるのは何故だろう。

老保安官ベルは殺伐としていく現状を嘆いている。そろそろ自分の引き際を考えている彼には、多発している愉快犯の気持ちが理解できない。愉快犯の気持ちなんて現代になったって全く理解できない。ベルと同じ嘆きを私達も感じている。まぁ、犯罪者の心理を簡単に理解できちゃうのもどうかと思うけど、それでもベルは保安官だから理解できないと捜査も難しいだろう。理解できない犯罪が増えたのは時代の変化によるものなのか、そして自分がその変化についていけないのは老いのためなのか。その焦燥感もいい。

役者達がいい。アカデミー賞受賞のハビエル・バルデムはスゴイ。本当に上手い役者というのは、どんな役でもどこかしら共感というか魅力を感じさせるものだと思うけど、シガーに何とも言えない魅力を感じたのは彼のおかげ。不気味でありながらどこかおかしい。モスのジョシュ・ブローリンもいい。自ら事件に首を突っ込むなんて、あまり好きなタイプではないけど、戦争というあまりに非日常的な体験後の平凡な日々に物足りなさを感じ、刺激を求めていたのだろう。そういう背景が感じられて良かった。そしてトミー・リー・ジョーンズが良かった。シガーとモスに魅力を感じながらも、強烈な2人に感情移入はしにくい。ベルが普通の人として苦悩したり焦ったり、諦めたりしてくれるおかげで、人は誰でも幾つになっても「居場所」を探しているものなのだと気付く。今の自分が悩んでいるのは当たり前なのだと思える。

原題は『NO COUNTRY FOR OLD MEN』 なるほどという感じ。この映画の主人公は自分の「居場所」を探している人々なのか。とにかくいい。セリフがいちいちいい。シガーの自分勝手なセリフにすら独自の哲学を感じてしまう。苦手なハードボイルドで男くさい題材なのに、トミー・リー・ジョーンズの枯れた感じや、美しいけれど何もない荒野などの画のおかげで男くさ過ぎない。どのシーンも見どころで、とっても哲学的。すごく好き。だから余計に感想をまとめるのが大変だった(笑)


『ノーカントリー』Official Site

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする