気 楽 荘

趣味の事やら、日々の事、
思いつくままお気楽に。

囚われの山

2023年07月16日 | 「 ぶんこ 」
今回は文庫本ではないがよしとします。
中央公論社刊、伊東潤著「囚われの山」をほぼ一気読みをした。

八甲田山雪中行軍遭難事件の事を知ったのは大抵の人と同様に
あの映画によってである。
その後、新田次郎の八甲田山死の彷徨を読みその悲惨な事件に関心を持つようになった。
白と黒のナビゲーターによる検証番組やオカルトっぽい番組など
目に付いたものは見逃すまいという感じでみて自分の中に
ある程度「こういうことだったんだろうなぁ」という考えは出来上がっていた。

だが、この本を読み、その考えの修正をしなくてはと感じた。
もちろん小説なのでどこまでというのはあるが・・・。
遭難者の人数の食い違いは食い違いと片付ける事も可能だろうし、
資料の「遭難始末」にあった服装に関する支持も雪山をなめていたともとれる。
だが、そういうところを理詰めで「おかしい」「何かあるのではないか」と話を進めていくと・・・。

なにより、多くの方が調査や検証をしている事件なので上記のことに気がついた方がいたであろう事は
想像できるがそれをより事実であるかもしれないと読者に伝えるには
まるでその場に居合わせたかの様な描写が必要であろうと思う。
それをこの本は実現し、尚且つ、食い違いと片付けられた人物を浮かび上がらせることに成功していると思う。
(もちろん、稲田庸三という人物だったのか彼がこのように行動したかどうかは自分にはわからない
まったくのフイクションかもしれない)
さらに、鳴沢での迷走の様子も地元の案内役の小山田が主人公の菅原をつれて歩く描写で
いまいち理解できていなかった部分がすっきりわかった。

で、考えの修正部分というのは、山口少佐たち随行隊の様子や佐藤曹長の進言した道に関してなど
「そうだっかもしれない。一方的に決め付けてはいけないなぁ」と・・・。

この本、小説ではあるが「小説と侮るなかれ」と思った。

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう

2017年03月09日 | 「 ぶんこ 」
久々に文庫本を一気に読み終えた。(実際には4日だが)
山本巧次著、宝島社文庫刊「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」を読んだ。
古本屋で手に取ったとき、今風の絵柄に「んー」と思ったが
裏の荒筋を読んで、「なかなか面白そうだ」と・・・。
でも、すぐに読む気はなく、小難しい作品の
合間に読むつもりだった。
で、中之島の図書館で借りた本を読み終えたので
カバーをつけて読み始めたら・・・。
帰りの電車の中だけでなく、けっこう楽しく読み進めた。
江戸の風俗や登場人物には
時代小説のような深さはないが
元々、現代の生活に疲れたOLが江戸に行ってのSFちっくな
話なのだから気にする方がおかしい。
で、一気読み(に近い)ということになった。

薬種問屋の藤屋の主人に頼まれた依頼は殺された息子の
汚名を晴らしてほしいというもの。
おゆうにしてみたら、惚れた同心鵜飼伝三郎の口利きでもあり、
ミステリーに傾倒していた優佳にとって謎解きをすることは
江戸で暮らす目的が自分探しの要素でもある自分にとって
むしろ好都合といった感がある。
さらに、現代に帰れば、分析を業務にしているベンチャー会社を
立ち上げた、たのもしい分析ヲタクの宇田川という男が
何も聞かずに協力してくれる。
ただ、化学分析の結果を江戸時代に合わせて伝えることに苦労するのだが・・。

この宇田川、最後の方に優佳に冷や水をかけるという
侮れないやつなんだがなかなか魅力的な役処ではある。
さらに、ラストに披露されるスピンオフ的な話に
「おぉ、そうきたか」と楽しませてくれた。

藤屋の依頼がどんどん大きくなってく展開がよく出来ており、
SFちっくと書いたが、その部分だけで
まっとうな時代小説に仕立ててもちゃんと仕上がりそうな話だ。
それをこういう軽ぅーく今風に仕上げた妙はいい。
次回作もアリ的な終わり方で、あとがきにも
「全会一致で敢えて隠し玉に・・・」とあるので、
後はそれが何時になるかだけなんですが実際、楽しみです。

星を継ぐもの

2015年01月22日 | 「 ぶんこ 」
昨年、アーロン・エルキンズと共に
自身のお気に入りの作家に登録されたのが
ジェイムズ・P・ホーガン。
SFファンの方達からしたら
「何を今さら」と思われるかも知れない。
代表作「星を継ぐもの」のタイトルは
中学か高校生の頃には認知していたが、
今のように、大型の古本屋など存在せず、
学生のおこずかいではなかなか購入し
読むところまで行かなかった。
その後、角川の映画とのタイアップ企画で
知った多くの作家の物を読むようになり、
その当時、興味のあった作品は
「いずれ機会があれば読むだろう」と忘れてしまった。

昨年の夏ごろ、大型古本店の格安コーナーで
「ガニメデの優しい巨人」をみつけ、
粗筋を確認したところ、それが、
「星を継ぐもの」の続編だと知り、
続編がこのコーナーに並ぶのなら
あれもあるだろうと、「ガニメデ・・・」を
購入し、別の店などを回って・・・。
だが、「探すと見つからない」の格言?のとおり、
見つけるまでに1ヶ月を要した。

で、ジェイムズ・P・ホーガン著、創元推理文庫
「星を継ぐもの」を読んだ。
最初は、行き帰りの電車の中で読むつもりだったのが、
ほとんど一気読みしてしまった。
もちろん、続編の「ガニメデ・・・」もそう、
さらに、三部作の最後「巨人たちの星」も、
古本屋を探し回って購入し続けて読んだ。
(最近、更に続編?スピンオフ?の「内なる宇宙」という
続編があるのを知って、下巻だけは購入済み)

地球の月で深紅の宇宙服を着た遺体が発見された。
だが、国連の月面基地に問い合わせても行方不明者はおらず、
さらに、チャーリーと名づけられた遺体は5万年前に死亡している
ことが明らかに・・・。
このあたりまでで、自分のツボをグイグイ刺激され
引き込まれていった。
その後、チャーリーが生きていた時代に、
地上に高度な文明が発達していたのなら
その痕跡が見つからないのはなぜか?とか
主人公であるヴィクター・ハント博士が
開発したトライマグニスコープによって
解析された、チャーリーのメモ帳の記載から
カレンダーと思われるものが見つかってからの
度量衡の発見やチャーリーの身体的特徴や
その精査による考察により、
チャーリーが地球以外の星で進化したという展開。
物語の敵役的扱いの生物学者クリスチャン・ダンチェッカー博士の
鉄壁な論理展開による、それはありえないという否定を
経て、全地球規模での論争。
そして、木星の衛星ガニメデでの完全な地球外生命体の
巨大宇宙船の発見で、一気にその謎が深まっていく。
巨大宇宙船には、かって、地球上に生息していた
動植物が積み込まれていた。
更に、地球人とはまったく異なる起源と進化を持った
異性人の遺体。これらとチャーリーのつながりは?
そして、佳境とも思われる謎解きが・・・。

簡単に書くとこうなんだが、自分の文章力では
この間の濃密な展開を書き記すことはできない。
ぜひ、興味を覚えた方には、読んでみることをお勧めしたい。

で、佳境と思えた謎のその先には
あっと驚く結末が用意されていた。
まぁ、この結末は現在の有力な定説からすると
「うーん」という感じだが、そこはSFなんだし
夢があっていいんじゃないかと思う。

続編の「ガニメデの・・・」では更に人類と
ガニメアンと呼ばれた異性人との
ファーストコンタクトや異なる起源と進化を経た
異性人と地球人の交流が、
万能コミニュニケーションツールと呼べる
ゾラックを通してほのぼのとした感じで
綴られるが、その間にも人類の進化が
なぜ進んだのかという謎や
母星を去っていったガニメアンたちの
行方はといった展開。
そして、自分が一番好きなエピローグでの
通信をめぐるやりとりなど非常に楽しく読めた。
そして、「星を継ぐもの」のラストで感じた疑問や
「ガニメデの優しい巨人」でのエピローグの締めくくりを
「巨人たちの星」で楽しむのだが、コチラは
すこし、これまでとは趣がちがう展開で
政治的な話が絡めてあって「ん?」という・・・。
でもまぁ、それなりに楽しめた。

今は、「揺籃の星」を読み始めている。
ストックには「造物主の掟」や
「内なる宇宙(下巻)」などもあり、
しばらくはJ・P・ホーガン作品を楽しめるだろう。

アーロン・エルキンズ

2014年12月30日 | 「 ぶんこ 」
今年、お気に入りの作家に加わったのが
アーロン・エルキンズ。
スケルトン探偵と呼ばれる(本人は嫌がっている)
形質人類学教授ギデオン・オリバーの
活躍する物を11冊読んだ。

最初に読んだのはミステリアス・プレス社刊「古い骨」。
(ただし、これは昨年暮れに読んだのだが)
モンサンミッシェルがミステリの
舞台の一部に使われているのを
「面白そう」と思って読んだ。
骨を観察することで、その人物の
身長や体格、生前、どんな病気を患っていたか、
どんな生活をしていたかを鮮やかに解説してくれる
オリバー教授のキャラクターに好感を持った。
だが、事件の謎解きは、劇的な感じはなく、
読後、「こんなもんかな」といった感じだった。

その後、大型古本店の格安コーナーに
並んでいるので、「呪い!」「暗い森」と
読み進むにつれ、形質人類学者としての
能力以上に、そのキャラクターや
脇を固める登場人物とのやり取りが
ギデオンの魅力を深めてくれていく。
すると、読み終わった後に、
「次が読みたい」と思うようになってしまう。
普通は、同じ作家の作品を続けて読んでいると
「次はちょっと違う作家の物を・・・」と思うのだが、
つい、ストックしている本に
いそいそとカバーをつけていたりする。

それぞれの話でギデオンの脇を固める登場人物達、
ギデオンの恩師でもあるゴ-ルドスタインや
ハワイ出身のFBI捜査官のジョン・ロウ。
「安く旅する」ガイドブックの嘱託編集者のフィル・ボヤジャン。
そして、前妻を亡くしたギデオンの
喪失感を埋め、彼の推理の聞き役、
アドバイザーとして活躍?する愛妻ジュリー。
事件の舞台となる地での捜査担当官も
フランスのジョリ警部や
イタリアのカラヴァーレ大佐など
非常に個性的で頼もしい人物だったりする。
(上記の人物が一冊の中にまとめて登場するわけではないし、
ゴールドスタインは「死者の心臓」では故人となっているが
彼の提唱した「インチキ相互関連の法則」はたびたび、
彼の教えとして登場する)

事件の渦中の登場人物も一癖二癖ある人物だったり、
ギデオンの旧知の人物だったり、ジョンの身内だったり
中々面白い。

個人的には、最愛のジュリーとの出会いとして
重要なはずの「暗い森」はちょっとしんどいと感じたのだが、
それ以外なら、どれから読んでも楽しめると思う。が、
話が進むと増していくギデオンのキャラクターを
楽しむ為には、出版順に読んでいく方がいいのかもしれない。
ミステリアル・プレス社の刊行の作品が尽きたら
ハヤカワミステリ文庫へ進むとよいでしょう。

ブラックアウト

2013年10月13日 | 「 ぶんこ 」
北イタリアとスウェーデンから始まった大停電。
原因も対策も間に合わない中、
冬のヨーロッパで人々は深刻な事態に陥る。
元ハッカーのマンツァーノは停電の中で
明かりを燈していた街灯に不審を感じて
調べ始めた。そしてある結論に達した。
「これは、人為的な破壊工作ではないか?」

「ブラックアウト 上・下」マルク・エルスベルグ著、
角川文庫刊を読んだ。
読み始めは主人公が誰で、どの人物が
絡んでくるのか分からずまごついたが、
マンツァーノが主人公でヒロインがシャノンだと
認識できてからはワクワクしながら読み進めた。
途中、かかわってくる組織のところや
政治的な駆け引きのようなところで
ナナメ読みをしたのだが、
結構、集中して最後まで楽しめた。

この本の中で驚いたのは東日本大震災で
事故を起こしたフクシマ原発のことに触れられていたこと。
「この事故で、世界の人々に原発の脆弱性が
明らかになってしまった」と、原発を攻撃するのには
堅牢な格納容器に守られた原発本体に手を
加えなくても、外部電源を喪失させれば、
壊滅的な被害を与えられるということが世界に
知れてしまったと書かれている。
なるほど、その通りかもしれない。そう思いながら
下巻を読んでいた頃、NHK特集で「原発テロ」なる
番組を見た。
切り口は違うが、原発の外部電源の重要性に対して
ほぼ同じ内容を映すと供に
テロ対策が不十分であることを示す
事件についても触れていた。
「怖いなぁ」と・・・。

話が逸れたが、我々が普通に享受している
サービスのほぼすべてが電気に頼っている事実。
電気と関係ないと思いがちな水道さえ、
電気がなければ、給水ポンプが動かない。
もちろん、トイレも流せないし。
ガソリンスタンドもポンプが動かなければ・・。
パソコンも電気がなければ・・・ネットもそう、
食料も冷蔵庫、冷蔵倉庫が稼動しなければ
食品はカンズメや保存食のみとなる。
驚いたのは、乳牛の搾乳が出来なければ
牛さえも死に至るという事実。

もちろん、ヨーロッパ全域、アメリカにわたる
大規模な停電を起こせる筈がないと
言ってしまったらそれまでだが、
実際に起こったらこんなパニックになっても
おかしくないのでは?・・・・起こるはずがないと
思っていることが、起こった時の被害を
大きくするのではと思わずにいられない
怖さを感じた作品でした。
作者はこれがデビュー作ということなので
次回作が楽しみです。