僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

いたこ

2014年03月03日 | SF小説ハートマン




老婆は洞窟に座っている。


どこにそんな力が残っていたのだろうか。
手に錫杖を握りしめ鉱泉のしみ出る岩肌に向かってなにやら意味不明の言葉ともうめきとも判別できない声を発している。

洞窟には数百本のろうそくがあった。

老婆が震える指でそのひとつを指し示すとジジッと音がして火がともった。

指が左右に揺れ動くと全てのろうそくに火がともり、彼女の顔を、深いしわをくっきりと照らし出した。


 ナーマンサーマンペプシマン、ターバンカビサンイソワカサラナン、センダンミリンダマーカロシャーナスワ・・・・・

うめきにも似た老婆の呪文がしだいに熱を帯びてくる。
数百のろうそくが呪文に吸い込まれるように瞬き、揺れ動く。


初めの1時間がゆっくりと過ぎ、2時間、3時間、があっという間に過ぎ去ると
もう時間の感覚は無くなってくる。
そして、貨物ブロックのポッドに横たわるハートマンのうめき声と老婆の呪文が重なる。


なおも熱く呪文をはき続ける老婆。
髪の毛は逆立ち、その一本一本からホログラムのようなオーラを放っている。
介護ベッドで曲がったまま硬直していた体はてらてらと汗で光り、は虫類のようにうねる。

震える両手が一瞬空を彷徨い落ちた。


口から泡を吹き体をのけぞるように硬直させた後横向きに崩れる。

同時に数百のろうそくが吸い取られたかのように消え、白い煙が数百の揺らめく筋を描いた。



老婆の顔から深く刻まれていたしわが消え、ひび割れた口元には今、優しい微笑みが浮かんでいる。



数百万パーセク離れた空間に浮かぶ大型スペースシップの中、
ICUポッドに横たわるハートマンの体にフル充電されたプロトン電池のような凄烈な力がわき上がったのと同時だった。


















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