Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

”小さな黒いドレス事件”のその後

2008-06-10 | お知らせ・その他
メト2007-2008年シーズンでは、『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデ役を歌ったデボラ・ヴォイト。
彼女が近年脂肪摘出手術を受けて以前より随分スリムになったのは多くのオペラ・ファンの知るところですが、
その直接の原因になったのは、2004年のコヴェント・ガーデンで出演予定だった『ナクソス島のアリアドネ』。
衣装のフィッティングの際に、用意されたドレスが身に合わず、
コヴェント・ガーデン側の”このドレスに体が入らないような歌手は歌うべからず”という、
かなり屈辱的な理由により、役を強制的に降ろされたからでした。
その後に訪れるかもしれない声への悪影響も顧みず、手術を受けたのですから、本人もよほど悔しかったのでしょう。

ドレスに身が合うようになった今、”じゃ、歌ってもいいよ”ということなのか、
さすがにコヴェント・ガーデン側もあのような形で彼女との関係を断ち切るのはまずいと思ったのか、
(アメリカのオペラへッズはかなり彼女に同情的な論調だったように思います。)
今シーズンの同演目に、コヴェント・ガーデンはヴォイトをキャスティングすることにしたようです。

そんなコヴェント・ガーデンへ、彼女から、ちょっとした皮肉と愛嬌をこめた彼女主演(?)、
黒いドレス助演のこんな映像が登場しました。
どうやらヴォイトのニューヨークのアパートにカメラを持ち込んで撮影したらしいです。

ポストしている21C Media Groupという会社は、前回の記事(”金がなる木”)でふれた
ネトレプコのマネージメント会社と同じですね。

映像が見れない方、音を出して観れない方のために、参考までに訳を。

(画面に文字で)
2008年5月 ニューヨーク市
デボラ・ヴォイト、コヴェント・ガーデンでの“ナクソス島のアリアドネ”への復帰に備える。
“小さな黒いドレス”事件から4年経過。

(“ワルキューレの騎行”のメロディーでドアベルの音)

デボラ(以下D):  あら、誰かと思えば。
黒いドレス(以下B):  やあ、デボラ。久しぶりだね。
D:  本当に。四年だったかしら?
B:  そんなものかな。時の経つのは早いね。入ってもいいかな?
D:  (皮肉たっぷりに)何かお出ししましょうか?飲み物とか?食べものとか?
    ドライ・クリーニングとか?
    あら、もうくつろいじゃってるみたいだけど。
    ま、でも、言わせてもらえば、あなたに会うなんてちょっとびっくりかしらね。
B:  確かに、、必ずしも仲良く別れたわけじゃなかったしね、、。
    あの頃は、“グッド・フィット(*身にぴったり合った & 相性がぴったりの
    )”じゃなかったような気がしたんだよね。
    でも、時が変われば、人も変わる、だよね。
D:  そう、”変わる”のよ。
B:  だから、今回は上手く行きそうな気がするんだ。
D:  でも、あなた、この四年間、一体どこにいたわけ?どうして今頃私のもとに?
B:  あの頃は、若かったし、無知だったんだ、、。
    一緒にいるのは、ちょっと“ストレッチ”(*無理がある & 服などが伸びる)だと思ったんだよ。
    でも、自分が間違っていたことに気付いたんだ。サイズなんて関係ない。
    僕は変わったんだよ。もう、altered (*生まれ変わった & 作り変えられた)おとこ、、
    いや、ドレスなんだ。お願いだから許してくれないか?
D:  どうかしらね?
    あなたにお払い箱にされてから、どれだけいろんなことを私が成し遂げたか知ってる?
    シカゴで初めて歌った“サロメ”は批評家からもべた褒め。
    去年のメトでの“エジプトのヘレナ”では、あまりの私の美しさに、観客も拍手喝采よ。
    どんな役をやっても、自分自身を大切にしてきたわ。いつだって、私は私だった。
    あなたがいようが、いまいがね!!!
B:  もちろんだよ、ダーリン。それだからこそ、君への賞賛の念が一層深くなる。 
    君は強い女(ひと)だ。現代最高の声だ。
    仮に君にとって僕が必要でなくとも、どうかやり直してほしい。
D:  どうしようかしらね、、。
    でも、2004年のあの時は間違いなく話題だったわよ、私たち。
    新聞の見出しに、スキャンダルにテレビカメラ、、、。
    アリアドネでコヴェント・ガーデンに戻るの、とっても楽しみにしてるの!
B:  ってことは、答えはイエスだね?
    この小さな黒いドレスを、ナクソスの無人島に連れて行ってくれるんだね?
D:  まあね、これだけ色々なことを一緒に経験したわけだし、、。もう一度やり直してもいいと思うわ。
B:  ああ、ダーリン!とっても嬉しいよ!早く僕を着て!
D:  でも、聞きなさいよ、このおたんこなす。もしも、今度馬鹿な真似をしたら、あなた無しで行くからね!
B:  もちろん、そんなことしないさ。
D:  じゃ、いいわ。もう一度デートしましょう。ちゃんとメモしてね。6月16日、コヴェント・ガーデンよ。
    さ、出て行って頂戴!パッキングしなきゃいけないんだから!
    帰りにクリーニング屋に寄ってったら?ちょっとはアイロンがけくらいしてもらいなさいよ。
B:  かしこまりました、マダム。
   (外に出ながら)ったく、なんて女だ、、ディーヴァな態度にもほどがある、、。
D:  聞こえてるわよ!


他愛のないダイアローグですが(のわりに、ダブルミーニングが多くて訳が難しい!)、
”黒いドレスがいようといまいと、私は自分の思い通りにやってきた!”というステートメントとは裏腹に、
実際には手術を決心せざるを得なかった彼女の思いを推し量ると、ちょっぴりせつないものがあります。
ただでは転ばなかった彼女、これからの活躍を期待します!

(この映像は、NYタイムズでも、”小さな黒いドレスとの二度目のデート 
Second Date With a Littel Black Dress ” という記事の中で取り上げられています。
リンクはこちら。)


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24 コメント

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時差があるのに、、 (Madokakip)
2008-07-16 13:02:04
 チャッピーさん、

日本とNYは時差があるのに、電話じゃいけないというのは厳しいですが、
しかし、確かに電話が一番効率がよくて安全だとは思います。
郵便は時間がかかりますし、さらに不具合があったりした場合、
またそれで時間をロスしますものね。

このonceは、”いったん~されれば”とか”~され次第”という意味ですね。
なので、”ご希望次第では、郵送でエクスチェンジの希望を、今お送りいただければ、Priority Exchange Week(優先交換の週)に入り次第、
頂いたリクエストをプロセスいたします”という意味かと思います。

LAのお友達が引き受けてくださるようなら、電話での交渉をおすすめします。
返信する
チケット交換その後 (チャッピー)
2008-07-15 23:03:06
Exchangeの件ですが、e-mailじゃ駄目みたいですね。
前回とは別の担当者が、住所、名前、交換したい演目、その日付、券種、枚数、支払い方法を記入の上、「郵 便」で送れ、って書いてきました。

If you like, you may send us, via postal mail, your exchange requests now and your exchanges will be processed once Priority Exchange Week begins.
ここのonceがイマイチ分からないのですが、
「希望するなら、今、交換希望を郵便で送っても良いわよ。Exchange Weekに先駆けて処理してあげるわ」でOK?

人によって言うことが違うので疲れる・・・でも、すぐに返事くれるだけMETはましだけど。
うーん、madokakipさんが「電話をして確認することを」勧める理由、よーく判りました。
郵便でリクエスト出しても、きちんと処理されてるか心配だ。
LAの雨友に頼んで、確認の電話してもらおうかなあ。リングの無い来年度は、旅行者用の3本パックを買うことにします。
返信する
ご厚意、重ねてありがとうございます! (Madokakip)
2008-07-03 12:57:18
 チャッピーさん、

ありがたいご厚意、本当にありがとうございます。
重ねて御礼を申し上げます。

さて、METの件ですが、私も同じ手紙を受け取りました。
右上の方に二つ箱があると思いますが、その下の箱Payment to Dateの、
一番下のSubscription Balance Dueに何らかの金額が表示されている場合は、
カードの情報を郵送なり、eメールなり、電話なりで連絡する必要があります。
この箱に金額が残っているということは、推定で引き落とされた金額よりもさらに実際の料金が高くついて、
追加の支払いが必要ということになるそうで、
カードの情報はその追加の支払いのために必要とされます。

もしその欄がゼロであれば、特に問題はなく、サブスクリプションも確保されていると考えて間違いないと思いますが、
私はいつも、電話で確認されることをおすすめしています。
(クレジットカードの情報も、郵送で返すよりは、
この時に同時に口頭で伝えた方がいいと思います。)

というのも、アメリカもメトは全然ましな方ですが、
かなり信じられないことが起こるいい加減なところがありますので、、。
最近では、NY州への税金の支払いのためにきった小切手が
いつまでたっても処理されないので、税金を担当している部署に電話したところ、
あっさりと、”小切手なくしちゃったかも”と言われました。ありえません。
この後始末で今も苦労してます。
なので、お電話されるときには相手の名前もメモられ、
日にちやらの記録もとっておくことをおすすめいたします。
返信する
パヴァロッティ (チャッピー)
2008-06-30 21:14:57
テープの残りが1時間20分程あったので、パヴァロッティの追悼番組(再放送)を入れておきました。最後の「誰も寝てはならぬ」の途中で切れまてました(
残念!)。半分クラシック、半分エルトン・ジョン等ポップス系歌手とのジョイント。「アイーダ」は流れたけど、どうせなら「イル・トロヴァトーレ」が見たかった。
確か冬季五輪のすぐ後に死んだのですよね。あと半年長生きさせて、W杯でイタリアが優勝するのを見せたかったな。

ところでMETからSeat Confirmationの手紙が郵送されてきました。クレジットカードの情報を書く欄が一番下にあって、送り返せと書いてあるのですが、海外組でも送り返さないとまずいでしょうか?ネットで申し込んだ際に、カードの情報は送ってるのですが。
返信する
ありがたいお申し出 (Madokakip)
2008-06-25 14:57:50
 チャッピーさん、

ありがたいお申し出、本当にありがとうございます。
でも、チャッピーさんは録画したものをとっておかれなくてよろしいのですか?
後々、貴重な品となるかもしれないですよ!
それでも必要がなく(もしくは別コピーをお持ちで)、かつ、旅行中のお手間にならなければ、
ぜひ、拝見させていただきたいと思います。
でも、どうぞ、無理をなさらぬように、、。
お心遣いだけで、本当に感謝しておりますので。

最近のヴィジュアルおよびオーディオ周りの製品については、
もうついていけません。次々と新しい商品が出てくるので、、。
そのうえに、東芝のHDからの撤退とか、ああいうことがあると、
一層、いつ何を買えばいいのかわからなくなります。

返信する
ビデオ (チャッピー)
2008-06-24 20:35:18
録画したビデオテープ、11月でよければ差し上げますよ。繰り返しますが、DVDではなくVHSのビデオテープです。
我が家には未だにDVDデッキがなく、カラスのDVDもパソコンで見ました。いままでのDVD録画機は2時間までしか録画出来なかった為、購入を見送ってきたのですが、ブルーレイは長時間録画も出来るので、そろそろ買い時かと思ってます。
返信する
本当にありがとうございます! (Madokakip)
2008-06-24 14:28:09
 チャッピーさん、

ご報告、なんとありがたいことでしょう!!
なるほど、、彼女の伝記の執筆者、演出家、
ポスト・カラスとも言われている後輩にあたる歌手、
指揮者、、といろいろな角度からの証言を得ているあたり、NHKらしくて、いいですね。

本当に。あの『トスカ』を見てしまうと、『椿姫』はどんなのだったのだろう?と、
一層見たい思いが強まってしまいますよね。
私が一度だけタイムスリップできるとしたら、
スカラ座での『椿姫』か、スカラ座がベルリンで引越し公演をした際の『ルチア』、どちらか迷って決められないまま終わってしまいそうです。
返信する
ご報告(カラス特集) (チャッピー)
2008-06-23 22:19:43
良い意味でNHKらしい番組でした。
ナディア・スタンチョフを中心とした、カラスに縁のある人たちのインタビューで出来たドキュメンタリー番組。スタンチョフの他にはジョヴァンナ・ロマンツォ、レンツォ・アッレーグリ、ベッペ・メネカッティ、ジョルジュ・プレードル、テオドッシュウそれにゼフィレッリが登場。トスカの映像もふんだんに使われており、最後は札幌公演の映像(「私のやさしいお父さん」とディ・ステファノと「愛の妙薬」からの曲でデュエット)で締めくくられてました。

舞台写真も沢山紹介されましたが、ヴィオレッタを演じる彼女の美しさったら!椿姫の舞台映像が残されてないのは、本当に残念です。
返信する
嬉しいです! (Madokakip)
2008-06-23 10:43:40

こうやって、日に日にカラスの素晴らしさがいろんな人に伝わっていくのは、
彼女を崇拝している私のような人間には嬉しい限りです。

mixiでのコメントの件ですが、私はこうも思います。
良い楽器を持って生まれた典型が、テバルディのような人だと思いますが、
彼女は生前、”私は口を開けて歌ってさえいればよかったのです”というようなコメントをしたといいます。
どういう文脈で出たコメントかわからないので、
そのまま文字通り受けとるのは危険かもしれませんが、
それでも、私は口を開けて歌っていればいい、というようなことが口をついて出る歌手と、
一音、一句に、考えられないほど大量の思いをつめこんで歌うことを心がけていた
カラスとを同じレベルで比べることがとにかく出来ません。
ですので、私の場合、カラスについては、”良い楽器を持って生まれてこなかった”からこそ、
あの彼女の歌があると思っています。

これからカラスを上回る歌手が出るか?
出てきて欲しいですね。私の生きている間に。
でも、正直なところ、何か一つ、二つの役で彼女を越える人が出てくることはあっても、
カラスが得意としていたほどの多くの役で、彼女を越える人は、、?
出ないと思いますね。

ヴィオレッタ、トスカ、ルチア、ノルマ、
カルメン(全幕舞台では歌う機会がありませんでしたが、
素晴らしい録音を残しています。)、
アミーナ、メデア、
こんなにたくさんの役全部をカラス以上に歌って演じられる人がいるとはとても思えません。
返信する
見ました! (チャッピー)
2008-06-22 19:57:59
mixiで「カラスのどこが良いのか分からない。そもそも声が悪い」との書き込みに対し、「声を楽器に喩えたなら、あまり良い楽器を持っていないが、抜群の技術と表現力を持った演奏者という感じです」と書いた人がいて、なるほどと思ったのですが、ビデオを見ての私の感想は「オペラという総合芸術における史上最高のパフォーマー」かな。
カラス、声や歌唱だけならカバリエ、容姿ならアンナ・モッフォ(ゲオルギューより綺麗!) に負けてるけど、演技力が半端でなく凄い。この3つの要素全てでカラスを上回る歌手って今後出るのかしら?
映画「マリア・カラス最後の恋」の中で、「歌に生き恋に生き」を歌う場面があるんだけど、本物のカラスの方が表現力・説得力が上。凄いなあ、カラス。

ベスト・オブ~に入ってたCasta Diva良かったです。60年代に録音されたCD持ってるのですが、正直それ程良いとは思わなかった。パピアンでも思うのですが、「ノルマ」は歌う人を選ぶ上に、最高の状態で歌える期間が他の役に比べて短いですね。ウィーンでエディタ・グルベローヴァが全幕歌ったらしいですが、どんな出来だったのか興味があります。

それにしても、演技してナンボの人だと思うので、残ってる映像の多くがリサイタルのものが多いのは少し残念。もっと早く来日して、NHKあたりが映像を残してくれてたら、と思います。
返信する
期待を裏切らない (Madokakip)
2008-06-20 13:31:34
 チャッピーさん、

はい!どんなに期待し過ぎても裏切られないはずです、Casta Diva。
今日はNYフィルのトスカを鑑賞してきましたが、
前日にこのベスト・オブ・~を観たのは間違いだったかもしれません、、。
こちらの期待値が上がってしまって大変でした。
カラスと比べられるソプラノも気の毒でした(笑)。
返信する
ありがとうございます! (チャッピー)
2008-06-19 20:24:20
「お買い得」マーク付きでもあり、早速、注文しました@ベスト・オブ・マリア・カラス・オン・フィルム。特にCasta Divaが楽しみだあ~。
METの方は週末にでもリクエスト出してみます。
色々ありがとうございました。
返信する
追記 (Madokakip)
2008-06-19 11:58:34
 チャッピーさん、

上のコメントを書いてから、そういえば、ハンブルクのコンサートを収めた映像も確かあったはず、
それから日本でのさよならコンサートの映像もあった、と、
いろいろ記憶が蘇ってきました。

さて、ベスト・オブ・マリア・カラス・オン・フィルム(こちらでは、The Eternal Maria Callasのタイトルで発売されています。)。
良く見てみると、やっぱりほとんどの映像が既存製品の使いまわしでした(笑)。
ただ、私が持っていないものからの抜粋も結構あったので、
買ってよかったです。

このDVDは、チャッピーさんが購入されたパリのリサイタルのDVDからの抜粋(1958年)、
1959年と1962年のハンブルクのリサイタルからの抜粋、
そして、1964年のコヴェントガーデンのトスカからの”歌に生き、~”、
1965年のパリでの3曲、から構成されているのですが、
この最後の1965年の3曲は、昔の録音にあわせた口パクの映像ではないかと思います。
1964年のトスカを歌っている声と比べると、この3曲の声が、その後に来るとはとても思えませんし、
歌っているときの筋肉の使われ方も少し違和感があります。
こちらで売られている商品にはそのあたりの説明がまったくありませんが、
もしかすると日本版には入っているかもしれないですね。

今まで見た事のなかった映像で私がぶっ飛んだのは、
1962年のル・シッドからのアリアです。
丁度、オナシスが自分とは結婚する気がないことを悟り始めた&自分の声がスカラ座で通用するものではなくなってきたことを痛感しだした頃なんですね。
観客の反応も、1958年のパリのリサイタルとはうってかわってしらけていて、
見ているこちらが辛くなるくらいですが、
あんたら耳はちゃんとついてんのか?とハンブルクの聴衆に蹴りを入れたいほど、
このル・シッドのアリアはすごいです。
というか、この曲のみならず、すべての曲に関して、高音に力が入らなくなっているために衰えが目立ちますし、
大体プログラム自体がメゾのアリア中心になってしまっていますが、
悲しみの表現、という意味では、それまでの彼女のキャリアをも凌駕するものすごい高みに達しています。
この映像を見ると、このステップがあっての、あの1964年のトスカなんだな、と実感します。
しかし、1959年と62年の間にものすごく彼女が老け込んでしまっているのが、本当に痛々しい。
オナシスのために一線から身をひいた、結果がこれです。
パリでのリサイタルでの自信満々な態度に比べて、
まるで聴衆の反応を恐れるかのような表情を浮かべたりしているのも、胸が痛みます。
こんなすごい歌を披露しているのに、まだ恐れなければいけないとはなんの因果でしょう?

あと、面白かったのはインタビュー。
特に驚いたのは、彼女が、諸役についての分析をしている個所があるのですが、
私は以前このブログで、”カルメンは男のような人。男性を本当に愛することが出来ない人。”というようなことを書いたと思うのですが、
彼女が、”カルメンは男みたい。ロマンチックな人間じゃない。”と、全く同じことを言っていました。
さらには、トスカについても、”本当は自分にあまり自信が無い人。”とカラスは分析しており、これも私がこの役について感じていることと同じ。

これはいかに彼女が自分の解釈を正確に声と歌で伝達し、
それが、私のもとに届いていたかという証拠で、ここまで彼女が言っているとおりに私が感じているというのは、本当に驚きでした。
彼女の表現力のすごさをさらに実感した次第です。

このDVDの真のボーナス、初出の映像は、1957年大晦日にローマで歌った、『ノルマ』のCasta Divaです。
これまた、こんな映像を隠していたのか!と憤慨したくなる素晴らしい歌唱です。
歌の完成度の高さでは58年のパリのものよりも上ですね。(このDVDには、パリのCasta Divaは、ローマのものと重複するのを避けるためでしょうが、収録されていませんので、購入されたToujoursの方をご覧になってください。)

本当に長くなりましたが、一言、買って損なし、です。
返信する
カラス特集! (Madokakip)
2008-06-19 05:33:23
 チャッピーさん、

衣装が黒っぽければロンドン、

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/9c/a4fe9e046c79adbd3551e76e45567cec.jpg

白っぽくて首周りにふわふわがついたエンパイア風のデザインならパリですね。
(youtubeからのスクリーンショットで見づらいですが、、)

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/fb/94d9591bacf9b6b503f9e3436c212a17.jpg

私はこのパリの衣装が、髪型も含めて大好きです。
このリボンがかわいいんですよねー。

NHKがカラスの特集を?!うらやましいです。
ぜひご覧になって、また感想をお聞かせください!!

NHKなら、きっと、プライベート中心でも
興味本位にだけに走ることなく、いい番組を作ってくれると信じています。(というか信じたい。)

METのサブスクリプションの件は、8/11~16の間、
ボックスオフィスで、エクスチェンジの交渉ができる、ということのようです。
ただ、チケットをお渡しします、とはっきりとは書いていないので、
もしかしたら交渉だけが可能というケースもありえます。
はい、emailでエクスチェンジのリクエストを受け付けてくれるようなので、
絶対LAに送るよりは、直接に受け取る方がいいと思います。
私が同じ立場なら、11月にボックスオフィスに行きます。

この最後にリンクが貼られているDVD(ベスト・オブ・マリア・カラス・オン・フィルム)は、割と最近リリースされたもので、
色々今まで出ていなかった映像が入っているようですね。
最近、あまりにカラス関連の商品の発売が多く、
それのほとんどどれもが、それまでにリリースされた商品の使いまわしだったので、
買う気をなくしており、これもそんな商品の一つだろう、と素通りしてました。
今日、帰りにCD屋に立ち寄って購入しますね。
買う価値ありか、こちらのコメントでご報告します。

このDVDが出るまでは、カラスの映像といえば、
コヴェントガーデンのトスカと、パリでのレジヨン・ドヌールのリサイタル(いわゆる”パリのトスカ”の映像はこのリサイタルの一部)の模様の二つでした。

一つ目のリンクの商品(『永遠のディーヴァ』の付録のDVD)に収められているトスカが、
コヴェントガーデンかパリかは、HMVのサイトからは不明ですね。
日本の企画商品なのか、こちらではこの付録DVD、私は見たことがないです。
返信する
カラスその4 (チャッピー)
2008-06-18 21:51:47
NHKのカラスの特番、題名が「世界のディーバ・男と女の物語・マリア・カラス・歌に生き・恋に生き」。肝心の歌よりも私生活がメインのようなタイトルだ・・・なので、日本のネットで変えるDVD、検索してみました。

このCDにはDVDも付いていて、「歌に生き、愛に生き」も収録されてます。16日の番組で流れたのは日本語字幕も付いていたので、これに付いてるDVDからの映像かな、と思いました。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2522396

コベントガーデンのものは残念ながら廃盤、パリのは発注可能なので注文しました。あと、こんなのもあるのですが、ご覧になっていかがでしたか?
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2589661

他に「是非!」と思われるDVDがあれば教えてください。よろしくお願いします。
返信する
カラスその3 (チャッピー)
2008-06-18 20:40:13
衣装はロンドンのと同じみたいです。
ただ、ほんの30秒程度流れただけでした。
「もっと歌ってるカラスを見たい!」とmixiに書き込んだところ

6月23日(月) 午後08:00~09:30
NHK BShi ハイビジョン特集
マリア・カラス 放映予定です。

と教えて下さる方がいらっしゃいました。
これは録画せねば!

ところで、先日METのSubscriptionを申込みました。メールでいつ届くのかを尋ねたところ、こんな返事が。
As you live overseas, your tickets will be kept at the box office for you, for security reasons. You will be informed when you can pick them up. The first time you can make Full Subscription exchanges in person will be during Exchange Week, Monday August 11th through Saturday August 16th.

If you cannot pick up your tickets in the summer, once they are ready, you can e-mail us with your exchanges, and we will be happy to do them for you.

「この夏に取りに来れないなら、交換希望を書いたメールを頂戴ね。変えといてあげるから」ってことでOK?先方には11月と5月に行く旨伝えた上での返事です。LAの雨友宛てに送ってもらってもいいんだけど、e-mailで変更の交渉が出来るなら11月METでのピックアップの方が良いのかも。
返信する
カラスの話、させちゃっていいんですか?! (Madokakip)
2008-06-18 13:51:26
 チャッピーさん、

私にカラスの話なんかさせてしまっていいんでしょうか?
忠告しておきますが、止まりませんよ(笑)。

カラスの声での全盛期は50年代前半まで。
以前の記事で書いたのと重複してしまいますが、
名盤と言われている55年の『ルチア』のベルリン・ライブで、
すでに、わずかに声の破綻が見られ始めています。
そして、偶然か、相関関係があってか、
これがちょうど彼女が劇的に痩せた時期と一致しています。

ただ、面白いのは、今読んでいる永竹由幸氏の著書、
”マリーア・カラス 世の虚しさを知る神よ”によると、
キャリアの最初の頃(つまり太っていた頃)の彼女の歌を聞いた人が
一応に中音域が空虚だった、という証言をしている点です。
なので、私たちがマリア・カラスといって思い出す、あの全音域に魂がこもった深い声は、
その後に、彼女が精進して手に入れたものであることがわかります。

なので、体重も関係はあるけれど、それがすべてではない、とも言えるのでしょうね。

>カバリエみたいにロック歌手とデュエットしたりして

フレディ・マーキュリーですね(笑)。
確かに。マリア・カラスがロック歌手とデュエット、ちょっとイメージわきません。


>カラスのトスカの映像

コヴェント・ガーデンでしょうか?パリでしょうか?
どちらも素晴らしい映像ですが、私はパリでの彼女のトスカの第二幕が特に、
見るたびに鳥肌が立ちます。

ご参考までに昔の記事のリンクを。

http://blog.goo.ne.jp/madokakip/e/05e709d92190cd0384b4ebd6a7a8db10
返信する
カラスその2 (チャッピー)
2008-06-16 23:09:31
NHK教育で放送中の「オペラ偏愛主義」で、ほんの少しだけどカラスのトスカの映像が流れました。
うーん、凄い演技力!パゾリーニが声をかけたのも分かるわ。デブだと映像的説得力が半減するかも・・・
悩ましいなあ。
返信する
カラス (チャッピー)
2008-06-16 21:22:44
全盛期のカラスは100キロ越えてたそうですね。
幸か不幸か、50年代の彼女はCDを通してしか知らないんです。ただ、60年代のスリムな彼女の映像や、オナシスとの悲恋等の社交界ネタが無ければ、一般人をも巻き込んだ、伝説化された存在になっていたかは疑問です。オペラファンにとっては彼女は「永遠のマリア・カラス」で、一世紀先も語り継がれる存在ですけどね。

一方でこうも思う。痩せなければ歌手生命も長く保て、オナシスみたいな男にもひっかからず、もっと幸せな歌手人生だったかな、と。
カバリエみたいにロック歌手とデュエットしたりして、70過ぎても新CDを出す・・・
どっちが良いのか、分かりませんけど。

返信する
遅くなりました! (Madokakip)
2008-06-16 10:05:33
頂いたコメントへの返事がまたまた遅くなり、すみませんでした。
いつもどおり、頂いた順番に、、。

 チャッピーさん、

カバリエが一番好きでいらっしゃるんですね。
私もカバリエ、大好きです。
”盛装した関取”とは厳しい!(笑)
私は自分が特殊な例だという自覚はあるのですが、
実は声と歌さえよければ、体重はいくらでも、
体重以外のルックスの悪さについてもかなり、
棚上げできるタイプです。
私も、同じ声と歌なら、もちろんルックスがいい方をとりたいですが、
多分、ジレンマは、特に体重については声と見た目両方をとることが出来ない、というところにあるんですよね。
体重が落ちても声には影響がない、ということを言う人もいますが、
私にはそうは思えません。声が体から出てくるという間違いない事実を思えば、
太い体から出てくる声と、細い体から出てくる声は同じであるはずがないと思います。
カバリエやザジックの声は、まぎれもなく、でかい体から出て来ているタイプの声であり、
ああいったタイプの豊潤な声が、細い体型の歌手から出てくるのを、
少なくとも私は一度も聴いたことがありません。
なので、これからは、白か黒かどちらかをとらなければならない、という前提のもとで、
自分の好きなバランスに落ち着く歌手を見つけていくことになるのでしょうね。
人によって、見るに耐えられないほど太っている、痩せている、の基準も違っていますものね。


 娑羅さん、

本当に、彼女の逞しさ、素晴らしいですよね。
これでコヴェント・ガーデンの公演の宣伝にもなるし、
彼女の言いたいことも角が立たない程度にコヴェント・ガーデンにも伝わったとも思いますし。
私がこの件で、コヴェント・ガーデンがみっともないな、と思うのは、
2004年の公演をキャスティングした時点で、ヴォイトが巨大だということは知っていたわけじゃないですか?
それを知ってキャスティングしておいて、
女性が最も屈辱的に感じる理由の一つで役から引き摺り下ろすというその無粋さです。
イギリスはもう少し紳士な国かと思っていたのに。


 Fさん、

jerkという言葉、訳すのが難しいんですよね。
最低な男、という感じの意味なんですが、思い切っておたんこなすで行ってみました!

ジェシー・ノーマン(笑)。
私には、彼女はオペラ歌手というより、木(それも巨木)に見えます。
チャッピーさんのコメントで名前が出たカバリエやパヴァロッティあたりは、
自分の膝で立てなくなって、通常なら跪いて歌うシーンも、
特別免除になっていたようです。
それに比べて今は、、。ナタリー・デッセイなど、
オペラ歌手としてではなく、一般人としてでも痩せてる方に入りますよね。
たった数十年でこんなトレンドになるとは誰が予想したでしょうか!

 yol嬢、

そうなのよね。チャッピーさんへのコメントで書いたことと重複するけれど、
これからは、歌&声とビジュアルの好みが交わる部分に相当する歌手をファンも応援していくことになると思うので、
ある意味、今よりも人気の歌手のタイプが多様化するかもしれないわね。
うん。そうなの!痩せすぎは、オペラでは逆にマイナスに働くケースが多いのよね。
まだ、『外套』や『ラ・ボエーム』みたいに、
貧乏人の生活を扱ったオペラならともかく、
多くのオペラは、特権階級(王家、貴族、金持ち)を扱ったものが多いから、
そこに痩せぎすの歌手が混じっていても相当違和感あるのよね。
ちなみにゲオルギューは、今では痩せぎすに踏み込む危険なエリアに入ってきていると思うわ。
歳のせいかも。
ネトレプコあたりの体型が理想的だわね。









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確かに。 (yol)
2008-06-16 07:55:17
上記Fさんが仰るように、
私もオペラ歌手=でX
と思っていましたが、今や美男美女が百花繚乱、いくら素晴しい声でもそれだけでは許されない時代に差し掛かってきたのですから、いやはやツライですな。

バレエから入ってきた私には、個人的にはこの辺り非常に葛藤があって、基本的にはビジュアル重視の私ですから、外見的にも許せる範囲であって欲しいと思う反面、レナータ・スコットのように例えじゃがいもさんでも感動を受ける場合もあるのでここは難しいですな。

正直、バレエでは一人だけ大きいのは許せないのだけれど、オペラでは一人だけ痩せすぎていると、痛々しい場合もあるわね。
テレサ・ストラタスの「外套」なんて、鎖骨にシャツが引っかかっていて、本当に貧乏臭くてイヤ。

ネトレプコやゲオルギューはスリムだけどそれなりの肉はついているからゴージャスよね。

まぁ、中には外見だけで一流に引っかかっている人もいるわけですし、外見が冴えないために一流にいながらいい役が回ってこなかったり。

全ては運とは言え、オペラ歌手にもなかなかキツイ時代になりましたね。

パヴァロッティのオペラ引退だって、太りすぎて動けなくなったのも原因の一つだと聞いていますし、体型はともかく、舞台の上で輝かしい声をいつまでも聴かせて欲しいものです

ま、そうは言ってもこんなことを言うのはやっぱり奇麗事かしらね?
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オペラ歌手のイメージ ( F )
2008-06-12 21:19:41
こんばんわ。
素晴らしい訳もあり、大笑いしながら見ました。
「このおたんこなす」は最高ですね!!

こちらやyolさんのところで、昨今のオペラ事情を拝見するまで、オペラ歌手というのはふくよかであたり前と思ってました。
おそらくジェシー・ノーマンのせいです。
だってキャスリーン・バトルが(CMに)登場した際は「へぇ~普通の体型の人もいるんだ」
と思ったのですから・・・(恥)

ウエイト増でボリショイを一時解雇されたボロチコワにもひとネタお願いしたいところです。

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面白い! (娑羅)
2008-06-11 23:10:54
Madokakipさんの訳があったお陰で、私にも楽しめました~♪
いや~、こんな映像を作ってしまうなんて面白ーい
そして、これに出演してしまうヴォイトにも感心してしまいます。
4年前の一件は、とても屈辱的な出来事だったと思うのに、それをネタにしてしまうなんて!
すっかり美しくなって(イゾルデ、きれいだった~☆)、もちろん歌のほうも絶好調。
自信の表れなんでしょうね。
私も、今後の彼女の活躍に期待したいです。


チャイムが『ワルキューレ』なのには爆笑!
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盛装した関取 (チャッピー)
2008-06-11 21:26:53
一番好きなオペラ歌手、私のそれはモンセラート・カバリエ。もう舞台からは引退してるけど、仮に見れたとしても、それ程見たいとは思わないなあ。だって今の彼女、「盛装した関取」なんだもん。

元々オペラに演劇的要素があり、ライブ・ビューイングを各国の名門オペラ劇場が企画している昨今、関取系オペラ歌手では仕事にあぶれても仕方ない。

「ノルマ」のザジック、シリウスで聞いてた人が絶賛するなら分かるんだけど、自分はビジュアル的に納得出来なかったです。パピアンにしろグレギーナにしろ、ノルマ役の方が魅力的なのに、何故ポリオーネは心変わりをしたのかと・・・
その点、「イル・トロヴァトーレ」のジプシーの老婆役なら安心して見れるなあ。
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