まきた@VetEpi

酪農学園大学をベースに、発展途上国と日本の獣医疫学に取り組む獣医師のブログです。

石巻ーハエ退治実験結果のご報告

2011-06-20 22:28:14 | 仕事
2011年6月19日(日)。

6月10日より、東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市で酪農学園大学の学生3人とボランティア活動をして来ました。一番下に、大発生しているハエ退治の実験結果を書きましたので、どなたかご参考になさってください。

石巻では、私達はPARCICという団体にお世話になり、主に在宅避難(一部または大部分壊れた自宅にいて生活をしている)をされている方々を探し出し、弁当の支給などを受けていない場合は市に連絡し、配達してもらうよう調整する、または必要な物資を尋ね、出来るだけそれを探し出して届ける作業をしていました。学生2人はついこの間大学に入学したばかりの18歳男性、そしてリーダーは20歳の女性でした。

辺りは魚の冷凍施設が津波で流されたために、魚の腐敗臭が漂っています。ハエが大量に発生していまして、農場どないすんねん研究会(NDK)の皆様、元の職場の埼玉県庁、そして酪農大の昆虫学を教えている先生に電話でハエ対策を相談させていただきました。助けていただいた方々に、深謝いたします。

以前から知っていた畜産農家でハエをペットボトルで捕獲する方法を調べていた折、宮城の河北新聞で、気仙沼の主婦、小野寺さんが編み出したハエの捕獲法が掲載されました。砂糖100g、日本酒70cc、酢50ccを混ぜた溶液(A液とさせてください)。
http://ceron.jp/url/www.kahoku.co.jp/news/2011/06/20110616t15003.htm

被災地域では、市が住宅周辺での噴霧用に配っている殺虫剤、スミチオン(原液を飲んで亡くなる事故が起きているので注意!)が簡単に手に入りそうだったので、在宅避難をされているお宅で、ハエが好きなりんごジュースと殺虫剤の混合液(200倍希釈)、A液と殺虫剤の混合液(200倍希釈)、そしてA液のみの3つの組み合わせを、ペットボトルの大小の二つの組み合わせ、そして穴を一つ開けるものと、フラップ型の穴を3-4ヶ所開ける二つの方法の組み合わせ、計12の試験設定をして実験してきました。りんごジュースのみという試験区も設定したかったのですが、ペットボトルの数が足りず、省略しました。

結果は、設置した17時から翌朝の9時半までの16時間半の間で、A液が圧倒的にハエを誘引し、大小のボトルとも、約5、6センチの深さにハエが溜まっていました。穴の形状、数では差は見られなかったので、退治する時のことを考えると、穴は一つの方がいいように思われました。

また、人体への影響を考えると、A液のみで誘引し、溜まったら穴からスプレー殺虫剤でハエを仕留めてテープでしばらく蓋をする、というのがスマートな処理方法かと思われました。

被災地の皆さんに、このメッセージが届けば、と思います。日本酒のホワンとした香りの拡散の仕方が効果を強めているのではないかと思われます。小野寺さんには、畜産系の学会からも賞を出してあげるべきだと思います!

宮崎に着きました。

2011-01-20 00:59:17 | 仕事
2011年1月19日(水)。

今、宮崎からです。

獣医で宮崎といえば、容易に推察出来るでしょう。
口蹄疫です。

今回は、他の仕事がメインですが、4月から始まる仕事の下準備という名目も若干あります。
本日は、世界獣医年(World Veterinary Year)の日本での開催地の一つ、宮崎の実行委員会メンバーと会合を持ちました(これは仕事外の仕事)。

やはり、当事者のお話を聞くと、本当の大変さ、報道されていない現場での苦労が見えてきます。我々国民は、口蹄疫の大惨事を、「喉もと過ぎれば熱さ忘るる」といった簡単な感情で処理してはならないと思います。次につなげなくては。

しかも、こういった問題には、必ず行政や学問の守備範囲の隙間で置き去りにされ、忘れられてしまう現実の問題点がある。それを、誰がカバーするのか。現状では、そのような組織やお金はなかなかありません。なので、ゲリラ的にやる必要があるのです(ブログで公にしている以上ホントーのゲリラではありませんが)。でも、不思議とそういう活動には、必ず沸くように仲間が出てくる。

さて、明日はNOSAIの先生と被災農家を訪れます。お休みなさい。

研究室スタート

2010-09-23 21:40:28 | 仕事
2010年9月22日(水)。

新学期が始まり、とうとう2人の4年生が我が研究室に配属になりました。
うち一人のみ、しかも電話をかけてようやく来てくれましたが、とにかく始まりました。

これからうちの研究室は、英語環境でやっていきます。最初は無理かなと思っていましたが、意外と大丈夫そうです。

日曜から僕はケニヤ、タンザニアに出掛けてしまうので学生は楽なものですが、研究室に人がいる、という状態はいいですね。今後が楽しみです。

国際機関職員のポテンシャル

2010-07-29 23:29:03 | 仕事
7月29日(木)。

人間というのは、違う環境に移ると、能力に応じて程度の差はあれ適応するものです。適応する時に、どれくらい必要とされる能力を発揮しうるか、ということをパフォーマンスと呼び、潜在能力はポテンシャルと言います。

ポスドクは正規職員と違って、プロジェクト外の仕事については、なかなか意思決定の中心に入る機会が、私の場合あまりありませんでした。しかし、正規職員の忙しさを傍から見ていて、きっとこの人たちが仕事している緊張感、スピードというのは、ある程度野放しで好きに仕事していた自分の領域とは違うのだろう、とは感じていました。

日本で就職してから、兼任していることもあって、一気に忙しくなりましたが、昨日終えたナイロビでのワークショップでは、新たな領域を体験することが出来ました。ワークショップの準備と本番とを通して、課長(オペレーションリーダーとILRI(イルリ)では呼ばれる)と仕事させて頂いたのですが、国際機関の課長/部長級レベルの仕事のスピードとレベルは、正直言ってプロジェクト単位のレベルと違っていました。視野も違うし、仕事のインパクトを出すのにマスメディアにどうやって発信するか、国をどうやって動かすか、などなど即座に最適の状況に導こうとします。ドイツの援助団体GTZと一緒に仕事を出来たのも新鮮でした。私は、やりながら感じたのは、「まだ伸びるな」という実感でした。仕事しながら成長するのを、久しぶりに実感できました。実際、イルリ内でもポスドクから兼任科学者に契約が変わったので、それ相応のパフォーマンスを提供しなければなりません。

誰でも、状況が許されるなら、チャンスがあれば難しいと尻込みしないで、是非挑戦すべきだと思います。やってみた時に、自分のポテンシャルの限界が見えたら、それはそれでラッキーで、緩やかな方向に逆戻りすればよいし、まだポテンシャルの範囲内と感じたら、とりあえずやってみるといいでしょう。

私は日本をベースにすることになりますが、日本は優秀な国ですから、きっとそういう領域が存在すると思います。後は、どういった機会に恵まれるか。どんな仕事をするにしても、どれだけ人の役に立つか、という視点だけはいつまでも忘れないようにしたいと思います。

再びアフリカへ

2010-06-30 19:50:01 | 仕事
2010年6月30日(水)。

新しい職場に来てから3ヶ月。日本に帰ってきたとはいえ、処々の事情で単身赴任をしています。しかしこの生活もあと一日で終わり。

明日は久しぶりに家族に会い、そして月曜日からはケニヤに戻ります。
まだ机あるのかなー。さらに単身赴任は3週間以上続きますが(あちらで家族と合流)、国際環境に再適応しているうちに過ぎてしまうことでしょう。

イギリスとケニヤでは日本語でブログを書いてももちろん誰も読まなかったけど、日本の大学に来てみると、学生さんは割と優秀で、わざわざブログまで調べて会いに来たりするんですね。逆に言うと、ブログって、結構いい情報発信源なんですね。

というわけで、これからは時間が取れたら書くようにしたいと思います。

旅を終えて

2010-03-16 01:40:31 | 仕事
3月15日(月)。

3月12日に、日本に帰って来ました。
1月20日より、サハラ以南アフリカ8カ国への出張に出ておりましたが、無事帰国しました。最後の国、タンザニアでは、疲労のあまりキリマンジャロからダルエスサラームへの国内便の出発時刻を確認せず、生まれて初めて飛行機を勘違いという理由で乗り過ごしました。たまたま逃したのが朝の便で、もう一つ夜の便があったので、なんとかその日のうちに目的地に着くことが出来ました。

今回の旅で痛感したのは、修士や博士課程の学生への遠距離指導はとても難しいということ。学生の中には、研究計画書に書いたとおりに調査を進めなかったため、公的資金を投入しているのに信頼度の低い研究になってしまった人もいて、非常に残念な思いもしました。逆に、学問特有のわくわくするようなやり取りが出来た学生も多々いました。

各国を訪れたのは大抵2度目でしたが、大いに理解を深めることが出来、自分にとっては忘れられない経験となりました。これから、また人生の新しい節目を迎えることになりましたが、今の仕事は続けていくし、貧困削減への取り組みは、ライフワークにするつもりです。エディンバラ大学を卒業して一年。今回の旅では、大学での仲間たち合計7人と再会しました。卒業後に増えた友人、知人とのネットワークは、さらに強く、生きたものになって行くことでしょう。ネパールでの、また埼玉での現場での想いを忘れずに、これからも疫学を通して、日本と発展途上国の国々に貢献していきたいと思います。

写真は、飛行機を乗り過ごした直後に時間つぶしで訪れたマサーイの家にて。背景はキリマンジャロ山の裾野。

その後の消息

2010-03-06 20:52:59 | 仕事
3月6日(土)。

アビジャンには、2月22日(月)に無事着きました。マリと違って海沿いなので、ガーナの首都アクラと同じようにむわっとする蒸し暑さ。空港から出て、スイス熱帯研究所へ。こちらの所長はトーゴ人で、かなりの切れ者です。学生の指導に追われ、というか本当に追っかけられた状態で最後まで教えていました。ナイロビにいた間に続けた毎週一回のフランス語講座が効を奏して、ずっとフランス語で教えることが出来ました。昨年は学生も自分もお互い理解出来ない程度のフランス語でしたが、今回は、問題なく仕事することが出来ました。25日(木)の帰りの空港でも、チェックインやレストランで、アジア人なのに上手にフランス語を話せるね、と褒めてもらえたので、さらに自信が付きました。またなんとか機会を作って続けたいと思います。ナイロビ着は26日(金)。

3月1日(月)はナイロビ大学で会議と学生指導。膨大で複雑なデータをどうやって管理すれば分からない、とパニくっている女学生に、急いでデータベースを作ってあげました。感謝されるのは嬉しいものですが、あまりに感情のこもった長い感謝で恥ずかしくなり、お腹も空いていたので、そそくさと帰りました。

3月3日から5日まではエチオピアへ。デブレゼイトという場所に始めていきました。ここには、アジスアババ大学の獣医学部があります。学部長は40代でとても若く、つくばに6ヶ月ほど研修に来ていたことがあるそうです。ここでも熱心な学生を相手に指導、分析を頑張りました。短時間でリスク分析が完成したので、達成感がありました。

そして8日早朝にタンザニアのモシへ。どんな旅になるでしょうか。楽しみだけどちょっと休みたい今日この頃です。


「参加型」の威力

2010-02-22 08:38:52 | 仕事
2月21日(日)。

明日、とうとうマリを去り、コートジボワールに入ります。

今回、通常はメールのやり取りだけの学生と、ぐっと距離が近くなりました。
学力はまだまだだけれど、一つ飲み込んだ時に、「あー、先生、付いて行きますぅ。」みたいなことを喜んで言ってくれたのは嬉しかったです。

何より嬉しかったのは、情報を集めるだけ集めてさよなら、という従来の研究ではなく、もっと村の中に入り込む「参加型」の威力を確認出来たこと。

フラニとバンバラという二つの言葉を話せ、人との関係作りが上手い彼だから出来たのか、村々との関係がちゃんと出来ていました。そのうちの一つの村では、それまで自家生産した生の牛乳を飲んでいた風習を取り止め、町の中心にある牛乳殺菌工場に一度売り、そこで殺菌済み牛乳を買うようにしたそうです。参加型で、皆で話し合ってそう決めたのだとか。その地域では、ブルセラ病という熱病が流行っているのですが、知識がなく放置されていました。

知識を集めるだけで終わらず、ちゃんと参加してくれた地域に還元出来る仕事を、これからもしていけたらいいなと思います。

そして、書き始めから18日の最短記録で大学院時代の最後の論文を書き終えました。間に合った。さて寝よう。明日は無事に首都アビジャンに入れますように。

ガーナ、手応えアリ。

2010-02-19 06:08:43 | 仕事
2月16日(火)。

広域プロジェクトの面白いところは、各国の違いを見ながら進めることが出来るところですが、もちろんガッカリすることが多いのが国際協力の現場です。

その中でも、いつも予想以上の仕事をして喜ばせてくれるチームがいます。その筆頭はうちのプロジェクトではガーナ。

大学の設備には限りがあるのに、とてもまじめです。結構日本人と通ずるところがあると思います。今回は、予想以上にターゲットの危険な細菌が、市場で売られている牛乳から検出され、政府ともコミュニケーションを始めているところです。

担当教授は、広島大学で博士号を取得されました。広大は妻の実家と近く、意外な共通の知人の存在も明らかになり、驚きの2日間でした。夕方ご自宅に食事に呼ばれ、バンクーというトウモロコシ粉を練って発酵させた食べ物と、オクラとラム肉のスープを頂きました。帰りに奥様が、
「また来てねー。ばいばーい。」

と日本語で言ってくれたのが、とても嬉しかったです。

ベルギーより

2009-09-13 17:14:00 | 仕事
9月13日(日)。

先週の日曜日から、ベルギーのゲントという町に滞在しています。
とても小さくて、歴史古く小さな美しい町です。平野にあって、町には細い昔の輸送用の運河が流れています。

ここでは、Vose Consultantという会社が提供しているリスク分析コースに参加しています。社長のDavid Voseは有名な「リスク分析」という本の著者で、本人も教えに来てくれます。

本の著者から直接教わるのは、
エディンバラ大学の「獣医疫学」の著者、
Mike Thrusfield

インペリアルカレッジロンドンの「Statistical Computing」「R Book」の著者、
Mick Crawley

そしてDavidが3人目。

ここ5年の間に、世の中の複雑な問題の解決に、クラシカルな統計学を基礎とした技術から多変量解析の応用統計学、そして学習によってパラメータを調整していく推計統計学へと、僕自身進化を遂げてきました。

しかし、本の著者というのはすごいもので、知識、応用のアイデア共に、いつも雲の上の存在です。全く新しい概念を学ぶのは苦痛を伴うもので、非常に疲れますが、本を読んだだけではさっぱり理解出来ないことが、やはり本人の口伝えだと、何故かよく分かるものです。だから、エキスパートの人のもとで短期間でもいいから学ぶというのは、非常に大切なんですね。

一週間終えたので、残るは後一週間。Davidも他の講師もお酒が大好きで、毎日ベルギーのビールを飲んでます。楽しく苦しく、まだまだたくさん学ぶことが出来ますように。