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短編集『流浪地球』

2024年08月08日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「三体」(2008)で世界的にヒットした
中国のSF作家・劉慈欣(リュウ・ジキン)が
それ以前に書いた短編を集めた本。
同時期に翻訳された11編を
5編を「老神介護」に、
6編を本作に割り振って、出版された。
「老神介護」が地球編なら、
こちらは宇宙編

「流浪地球」

天体物理学者たちは、
太陽内部の水素がヘリウムに転換する速度が、
突然加速したのを発見した。
やがてヘリウムフラッシュが起こると、
爆発した太陽に地球は飲み込まれてしまう。
人類が生存する唯一のチャンスは、
太陽系外の恒星系に移住することで、
地球から最も近い4.3光年離れたケンタウルス座の恒星
プロキシマ・ケンタウリが目標となった。
そこへの移住手段は、
重元素核融合で動く「地球エンジン」を、
アジア・アメリカ大陸に、
1万2千基を建設し、
そのエンジンの噴射で地球を移動させ、
太陽系を脱出するというものだった。
こうして、地球はそれ自体が宇宙船となり、
太陽から遠ざかっていった。

途中、太陽の表面的な見た目が以前と変化していなかったことから、
太陽の寿命が近いとの説は誤りだったのではないかと考える人が相次ぎ、
世界各地で反乱が起きたりする。

という奇想天外な話だが、
ありそうな科学的根拠が示される。

「ミクロ紀元」

太陽がスーパーフレアを起こす可能性があることから、
移住出来る星があるかを調べるため、
惑星探査に旅立った宇宙飛行士は「先駆者」と呼ばれた。
光速に近い速度で飛んだ後、
先駆者が帰還した時は、
地球時間で、2万5千年が経っていた。
先駆者が目にしたのは、死に絶えた地球と文明の消滅だった。
しかし、人類は、ミクロの人間として生き延びていた。
大災禍まであと一世紀という時、
一人の遺伝子エンジニアが、
天啓のように、あるアイデアを思いついた。
人類の体積を10億分の1に縮小して、
地中に入り、災禍が過ぎ去った頃、
地上に戻ろうというものだった。
こうして、ミクロ化した人類は、
ナノテクノロジーを駆使して、
直径1メートルの透明なドームの中で生きていた。

これも、よくこんなことを思いついたものだという、奇想の話。

「呑食者」

地球防衛軍は、宇宙空間で半透明の結晶体に遭遇する。
それは、滅ぼされた星の警告装置だった。
装置は、少女の声で警告する「警報! 呑食者が来る! 」。
呑食者(どんしょくしゃ)とは、
巨大なタイヤのような宇宙船で、
星をまるごと飲み込み、全てを吸い上げるのだという。

やがて、地球に呑食者の先触れ役が地球を訪れる。
先触れ役は巨大な体を持ち、地球の首脳の一人を食べてしまう。
やがてタイヤが現れ、地球は飲み込まれるが、
地球防衛軍の大佐の知恵によって、
呑食者は去り、地球は再生する。

「呪い5.0」

ある女性が裏切った恋人に復讐するために
「呪い1.0」というコンピューターウィルスを開発し、
ネットに送り込む。
それは、「呪い2.0」「呪い3.0」「呪い4.0」とバージョンアップし、
ネットを支配し、大災禍を起こす。
町全体の水道が汚染され、
コンピューターの支配するインフラは大混乱する。
皮肉なことに、女性は自分の起こした災禍に飲み込まれて死に、
恋人は、ネットと遮断された生活をしたために生き延びる。

「中国太陽」

中国上空に、ある巨大な構造物が設置される。
2万平方キロの大きさを持つ反射鏡だ。
高度3万6千キロの静止軌道上にあって、
太陽の光を地球に向かって反射する。
それによって、自然がコントロールされ、
人類は繁栄する。

物語は、主人公のシュイワーの視点で描かれる。
シュイワーは、貧しい農家の息子として生まれるが、
炭鉱夫、靴磨き、超高層ビルの窓拭き
を経て、中国太陽のエンジニアとなり、
最後は、惑星間航行船乗組員となる。
貧農の子どもが
少しずつ大きな世界を見て、
能力を伸ばし、
人類の最先端に立つまでになる様は感動的。

「山」

異星船の接近で
引力により隆起した海面、
その高さ9100メートル。
かつて登山家であったホンファンは、
その水で出来た山を泳いで登り、
山頂で異星船の主と会話する。
会話は船の底に現れた文字でなされる。
宇宙空間を移動する間に
地球の言語を学習したのだという。

その異星人の話がすさまじい。
異星人は固体で出来ている。
筋肉や骨格は金属、
大脳はICチップで、
電流と磁気が血液。
放射性岩石を食物とし、
そのエネルギーで生存している。
彼らの宇宙観は、全て岩石で出来ている。
しかし、その宇宙の果てについて科学的異論が生じ、
泡船という乗り物で、果てに向かって探査するうち、
全く違う物質「液体」に遭遇する。
泡船は水の侵入でショートし、炎上する。

ここで分かるのは、異星人らは、
地球のような惑星のコアに住むものたちで、
固体だけで世界は出来ていると思っていたが、
泡船は上昇して、海にぶつかったのだ。
彼らは液体を「無形岩」と呼ぶ。
そして、更に上昇した泡船は、
ついに「気体」に遭遇する。

という話をして、異星人は去って行き、
ホンファンは、水で出来た地球最高峰の山を制覇したという満足感で、
過去の山岳事故の心の傷が癒される。

という6編のSF短編。
その発想、スケール、科学的蘊蓄で、
劉慈欣が本物のSF作家であることが分かる。
天才とは、このような人のことを言う。

なお、「流浪地球」は、映画化され、
「流転の地球」というタイトルでNetflixで配信されたが、
地球をエンジンで太陽系から脱出させる、という
アイデアだけを借用した、
別な話になっていた。

また、過去に、「妖星ゴラス」(1962)という東宝の特撮モノがあり、
質量が地球の六千倍ある黒色矮星・ゴラスとの衝突を避けるために、
南極大陸に原子力ジェットパイプを並べ、
地球を公転軌道から移動させるというアイデアだった。

SF作家の山本弘が2009年に発表したSF小説「地球移動作戦」は、
この作品へのオマージュとして書かれた小説。

 



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